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僕らは死にたい  作者: あくまでも悪魔
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第五話【遥視点】

急な暗転の後、司と幽の姿が消えていた。あまりにも一瞬の出来事で、俺たちには何が起こったのかわからなかった。


「おい!?司!幽!」


「司さん!幽さん!?」


「…ふーん、あの化物、影からもくるんだね。」


「あ?影…?…!アイツら化物に捕まったのか!」


「そ!だから気を付けた方がいいよ~!防ぎようがないけど!じゃ、探索続けようか!」


そう淡々とピンク頭が言った。んだコイツ、俺ですら見えてなかったのに、怪物の存在を見抜いてたってのか…?そしてくるりと踵を返し、アイツは探索を続けようとする。何事もなかったかのように行動するピンク頭に、腸が煮えくり返る思いがして、つい頭がカッとなった。


「お前…!二人が心配じゃねぇのかよ!」


すると、彼女はスカートが少しふわりとなる程度にくるりと振り向き、笑顔の上に更に笑みを強めた。


「全然?だって、もしかしたらここにつれてきた、張本人達かもしれない訳じゃん?」


「なっ…!んな訳ねぇだろ!華奢な力の無さそうな奴と、幽霊で何もできねぇ奴が加害者な訳ねぇ!!」


「じゃあ聞くけど、君はあの二人のこと本当にそうだって、根拠もないのに信じられるの?あの怪物を操ってて、使って逃げたとは考えられないの?」


「それは…」


確かにそうではないと言い切れる根拠も何もねぇ。けどアイツらがここに俺らを閉じ込めて、得れるメリットなんてどこにある?そう返そうとすると、ピンク頭は畳み掛けるように続ける。


「目的は本人たちにしかわからないし、考えたって無駄なんじゃない?それとも少し会話したぐらいで信用した?ふふっ、笑わせないで。言っておくけど、私は貴方達も信用した訳じゃないから。」


「チッ…そーかよ、じゃあ一人で疑心暗鬼ごっこでもやってろ!」


「あらら、怒らないでよ~!でも解るでしょ?あなた達にもきっとそういう経験があるはずだよ!」


「ぐっ…」


「っ…」


俺も杏樹も何も言えなかった。人に裏切られたらことなんて、俺の年でも何度あったことか…きっと杏樹もそうなんだろう。言い返してやりたい気持ちでいっぱいで、喉のすぐそばまで言葉は出てこようとしているのに、何も言えなかった。

俺がもどかしさで頭をかきみだしていると、俺たちの会話をずっと聞いていた杏樹が震えながら口を開いた。



「でも!おかしいよぉ…!確かに出会ってからそんなに時間はたってないけどぉ…あの二人が悪い人だなんて思えないよぉ…!」



ピンク頭はその言葉に笑顔を崩し、呆れた顔をしながら一つため息をついた。そして前髪をかきあげ、目線を外しながら言いはなった。


「あのね…人は嘘をつく生き物なの。それはあなた達にもわかるよね。人の根本は顔から滲みでるものじゃない。その人に備わっている中身よ。それを掴みとって初めて、関わっていくかどうかを決める。」


そう言うと元の奇妙な笑顔に戻り、声のトーンも戻った。


「じゃあ、私は左側中心にある穴に入って何かないか探すね!どうせ行き止まりとか結構あるだろうし!手分けした方が早く探索が終わるでしょ?」


「えっ…?一人でするのぉ…?私はどっちかについていきたいかなぁ…化物が怖いしぃ…」


「ふーん。そっか、怖い…ね。おっけー!じゃあ茶髪ツンツン頭についていくと良いよ!私は単独行動の方がいいから!」


意味深に呟くソイツに動揺と焦り混じりに腹が立った。それは俺には()()()()()いないが、俺のある思考に突き刺さるモノがあったからだ。違う、俺は…俺はそんなこと思わねぇ…!


「急になんなんだよてめぇ…狐の化けの皮が剥がれたみてぇに…!お前みたいのが一番ムカつく…!」


「えぇ~、どれも素なんだけどな~!ムカついて結構だよ!さっきも言ったでしょ。要するに、私は誰も信用してないってことだよ」


「ねぇ…天使ちゃんは怖いとか、そういう感情はないの…?またアイツが襲ってきたら…死ぬかもしれないんだよ…?!」


「そんなの全然無いよ!私、記憶がないからなんでだかわからないけど、むしろ()()()()って思ってるの。」


「え…」


「…!」


「そういうことだから!これでわかった?私はいつ死んでもいい。でも君たちの為に脱出する手立てを探してあげてる。あぁ、私、なんて良い人なんだろう!…ま、こんな日の当たらない小汚ない洞窟で死ぬのが嫌なのもあるけどね~!」


ソイツはケラケラと笑う。俺は困惑で固まってしまった。頭が理解できるように一旦整理をするためでもある。死にたい?記憶なくしても尚、アイツは死んでもいいっていったのか?初めて会ったときからヘラヘラ笑ってやがるのに…。

薄気味悪い空気が更に彼女の言葉の異常さを引き立たせる。それに肌がピリピリと刺激された気がした。けど俺は、それよりも少しだけ()()()()が沸いた。

そんなやつに、杏樹は同情を含めたかのような震える声で語りかけていた。


「そんな…理由もなく、簡単に死にたいって…思っちゃダメだよ!せめて、理由がわかるまでは…っ、私と一緒に生きようよ…」


「……杏樹は優しいんだね。ま、生き続けてる限り生きてみるよ。じゃあ、そっちも探索頑張ってね!探し終わったら今いるここに集合!」


彼女は引き留めようとする杏樹を置いて、宣言通り躊躇なく穴の中へと入っていった。少しの間沈黙があり、一定のリズムの水音が響き渡る。ピンク頭がムカつくことには変わりねぇが、探す気はあるみてぇだし、二手に別れる方が調べる手間は省けるはずだ。アイツがどんな事情を抱えてようとしったこっちゃねぇが…俺だってここで死ぬわけにはいかねぇんだ。


「くそッ…アイツはほっといて、こっちも行くぞ。」


「…うん…。」


要り組んだ洞窟には穴の数もそうだが、中に入ると複雑に分かれた道等もあり、探索は暫く掛かりそうだった。杏樹の提案で、入った場所には大きめの石を置いてから進むこととなった。

特に話すこともないので、二人で無言で歩き、出口への手がかりを探し続ける。なるべく目を凝らしながら模索したが、何も見つからないまま行き止まりが続いた。


「あ~くそっ、ここも行き止まりかよっ…」


「ねぇ…遥くんはぁ、天使ちゃんの言葉、どう思う…?」


「あ?」


そう遠慮がちに問いかけてきた。いつになく神妙な顔つきの彼女は、普段纏っている雰囲気をガラリと変えさせた。


「彼女の言ってたこと…間違ってはいないよね…でも、二人はぁ、何でかわからないけどぉ…信じれる気がするのぉ…。あ、勿論遥くんのこともねぇ!それに助けてくれたしぃ…」


相変わらずバカっぽい喋り方は変わらねぇのか…と思いつつ司達を思い出す。最初は確かに不気味な二人組だと思った。だが、それも先入観に過ぎないことだった。普通、俺が生き抜いてきた世界では、自分自身のことが第一優先であり、必ずといっていいほど人を売った。けど、アイツらは我先にと逃げなかった。もし、俺達を殺そうとしている主犯なのであれば、杏樹を見捨てることもできたはずだ。


「…アイツらは…俺も信用出来ると思ってるぜ…理由は…勘」


「か、勘…?」


「俺はバカだから、人間のどーのこーのってのはわからねぇ…でも人付き合いなんて、パチンコみたいなもんだろ。当たりもあるし外れもある。アイツみてぇにごちゃごちゃ考えながら接してたら話しずれーし、何も始まんねーしよ。」


俺は俺自身、感じたモノを信じることにした。アイツらは信用できる、と。裏を返せばそれ以外の理由もねぇ訳だが…ピンク頭よりは信用出来るだろ。


「確かにそうだねぇ…うん、確かに。私もほぼ勘のようなものだしねぇ…!」


「おー。…もし裏切られたらそんとき考える。予想してたらキリがねぇ。」


「…考えが聞けてスッキリしたよぉ…ありがとねぇ…よしっ!張り切って探索を続けよぉ~!」


そういってえいえいぉー!と拳を宙にあげる。こんなキャラだったっけか…


「張り切っても結果は変わらねぇと思うけど…っし、気合い入れ直すか!」


「気の持ちようで早く終わるよぉ!がんばろぉ!」


そのやり取りから何時間とたっただろう。ほとんどすべての穴は探しきったが、行き止まりばかりで手がかりは何も見つけられずにいた。司達がいなくなった場所は、正面の道が崩れた岩で塞がっており、次へと繋がる道も探さなければならなかった。だからなおのこと、疲労と焦りを感じ、体力も消耗していた。


最後の一つの穴を調べようと奥まで進むと、そこには今までの洞窟とは異世界のような空間が広がっていた。心地いい水の音。少しだけ滝が流れているような音も聞こえる。今までは鬱陶しく感じていた筈の音だが、ここではそうではなかった。

中央に岩で作られた無数に奥に続く鳥居の全てに蔦が巻き付いており、古くに人工的に作られたことを連想させる。道の端に淡く光る水色の花々が、まるで道筋を示すように目一杯咲き誇っていた。そのお陰なのか、洞窟とは別世界の雰囲気を醸し出していた。一歩、その場所へ踏み入れると、今までとは違う温かな空気に包まれた。


…汗も疲労感も消えた…?それに、すげぇ安心する…


何かに引き込まれるように長い無限回廊のような鳥居を潜り続けると、その先にあったのは鳥居と同様、石造りの小さい祠だけだった。


「…」


「祠みたいだねぇ…何かの仏様を奉っているのかもぉ…」


「開けてみるか」


「お地蔵様とかがいるだけだと思うけどぉ…」


観音開きの扉を恐る恐る開けると、そこには鶴の模様が刻された石が祀られていた。そこら辺にある石と変わらないはずなのに、不思議と何よりも惹き付けられる感覚があった。


「…んだこれ」


「語弊の上に石がのってるねぇ…御神体…なのかなぁ…?」


「ゴシンタイ…?」


「御神体っていうのはぁ、神様が宿るとされている物のことだよぉ。こういう祠の中によくあるんだよぉ。」


「ほー…」


見れば見るほどそこら辺の宝石より輝いて見え、温かな不思議な気持ちになる。何かが、沸き上がってくるような。

…いや、こんな気持ちになるのは、気の迷いだと頭を振るう。少し考えた後、俺はポツリと呟く。


「…これ、持ってくか。」


「え、えぇ~!?い、良いのかなぁ…バチ当たらないかなぁ…」


「これ以外なんの手がかりもねーと思うしよ。俺"神様"ってヤツ信じてねーし。仏教でもねーしな。それに…何だか持っていった方が良い気がすんだよ…」


「…それも勘?」


俺はニヤっとほくそ笑み、杏樹の方を向いた。


「おぅ。俺はこの勘で生きてきたからな。」


「…わかったぁ。持っていこう。でも!またここに来る機会があったら戻すんだよぉ!」


「へーへー、わぁーったよ。」


そして、俺はその石をズボンのポケットに閉まった。調べ終わっていない場所はほぼ無いので、俺達は元いた場所へと戻ることした。


その場所に着くと、先にピンク頭は調べ終わっていたようで、壁にもたれ掛かり鼻歌を歌っていた。俺らに気づくと、あれ以来張り付けた笑顔にしか見えない顔をこちらに向けてきた。


「よーっす、お二人さん!何か手がかりは掴めた?」


「ぁ…えっとぉ…」


「祠みてぇのがあった。でもそんだけだ。中身ははいって無かったしな。飾りもんだろ」


「っ、そうそう~!」


自分の中で思考を巡らせた結論、ピンク頭は警戒すべき要注意人物だし、それに何故だかこの石が重要なモノで、知られたら大変なことになる気がしたからだ。杏樹が察して話を合わせてくれて助かった。


「な~んだ、残念!実は私のとこも、…違う場所へ繋がってそうな道しか見つからなかったんだよね~」


「…見つけてんじゃねぇか」


「手、が、か、り、は、見つけてないでしょ?」


そしてこっちこっち、と笑いながら手招きし、こちらの行動を伺わずにくるりと背を向けどんどんと道を歩いていく。

なに考えてるかわかんねぇやつだな…確かに俺らが探した箇所に他に道はなかったし…信じずにここにいても行き詰まるだけだ…。


杏樹も考えが同じだったようで、顔を見合せ頷き合う。そして疑念は晴れずながらもピンク頭の後ろをついていった。

嫌な予感のせいか、三つの靴音の中でアイツの革靴の音だけやけに大きく聞こえ、嘲笑っているかのように響いた。

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