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僕らは死にたい  作者: あくまでも悪魔
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第四話


『ねぇ…司ちゃんってさ…』


『わかる~、マジ※※※※!何考えてるかわからないし』


『アイツ、※※※※』


何?耳から何かが入り込んでくる。

自分の本能的に拒絶するのがわかった。一刻も早くこの音を遮断したいと思い、その一心で手を耳へと動かそうとした。だけど…


なにこれ…身体が動かせない…!


どんなに足掻いてもダメだった。そんな私に、()()が遠慮するはずもなく、どんどん耳から脳内へと入り込んでくる。

嫌!やめてよ!聞きたくない!


『アハハハハ!』


!!!!

笑い声が消えたと同時に、心臓を刺されたように鈍い痛みが走った。嫌悪感が胃の底から涌き出るような感じがする。私はこんなっ…こんな感情しらない、知らないよ。


『誰か、助けて』


誰かに頭を殴られた鈍痛が走り、私はまた意識を失った。


「…ちゃ、…つか…ち…司ちゃん!」


「っ…!」


目を覚ますと、そこには心配そうに除き混む幽さんと、どこかで見覚えのある、淡い水色の髪の毛を持つ男子が睨み付けるように立っていた。


「…気がついたんだ」


「あ、あなたは…」


そうだ、あの時、初めて皆で会ったあの場所で…遥さんと喧嘩してた人!


「…はぁ…穴には落ちるわ、幽霊とは再開するわ、散々だよ…」


彼はそう言うと、私たちに見せびらかすように、盛大なため息をついた。辺りを見渡すと、先ほど居た場所と違うようだった。更に薄暗く、鼻にツンとつく塩素の臭いがする。岩の周りに苔が所々に生えていた。


「彼はなだつくん。僕を見て逃げた内の、行方不明になってた方さ」


「は?誰それ?」


「え?君のことだよ…さっき、僕を見て、自己紹介してたよね?」


「ばっ!あれは…!っ南無阿弥陀仏って唱えてたの。」


「そ、そうだったんだね…ごめん…ボソボソ言ってたから、何言ってるのか聞き取りづらくて」


「………わざといってんの?」


「いやいや!?決してそんなことないよ!」


幽さんとの会話で顔を真っ赤にした彼は、一つ咳き込んでから私たちに問いかけてきた。


「それで…あんたらは、ここのこと知らないの?明らかに、普通じゃないんだけど」


「いえ…ついさっき、目が無数についた…スライムのような、真っ黒な変な怪物に襲われたばかりで…」


「!ソイツだよ。僕、捕まって飲み込まれて…なのに突然穴に落ちた感覚がして…気がついたらここにいたんだ。」


そういえば、私も皆と歩いている時に、突然穴が空いて何かに飲み込まれたような…。一体どうして…

ううん、ここを私たちがいた、通常世界の所と比べちゃダメなんだ。さっき彼も言ってたけど、ここは普通じゃない。どんなことがあっても、おかしくはない___


そう考えていると、段々恐怖で手が震えてきてしまった。落ち着いて、あの怪物は今はいないんだから。私は自分自身を宥めるため、両方の手を祈るようにしてぎゅっと握った。


「大丈夫だよ。司ちゃん。」


「え…?」


「大丈夫。」


不安げな顔をしてしまったせいだろうか。幽さんは優しい笑みで、触れるはずのない私の手にそっと手をのせてくれた。彼の体温を感じるはずがない。だけど、何故だか包み込まれるように、自分の手に温かさが伝わってきたように感じた。


「…ありがとうございます幽さん…すみません…」


「…で?いちゃつきは終わった?」


「い、いちゃついてなんか、」


「こら!なだつくん、司ちゃんは本当に怯えてるんだよ!僕は手を握ってあげられないんだから君が」


「あー!もう、僕はなだつじゃない!その名前で定着させないでくれる!?壱!海野 壱だよ!」


苛立ちを表すかのように彼は大きな声でそう言った。海野 壱。

この気難しそうな性格の彼と、これから一緒に探索していけるだろうか…

色々なことに対する不安だけが、私の中に残る。


「とにかく、僕は一刻も早くこんな薄暗くジメジメしたところから出たいんだ。足手まといになるならずっとそこにいなよね。」


そう言うと、彼は薄暗い中を省みず、颯爽と先頭を突っ走った…と思えば踵を返し、ずんずんと足音を鳴らすように私たちの元へと戻ってきた。


「なんでついてこないのさ!」


「いや…あの、一人でどんどん行っちゃうから…」


「もう!…ほら、早く行くよ!」


そして、私の手首を強引に掴んで再度歩き始めた。

なんだか思ってたより、気むずかしくはないのかも…?そう安堵して、私達はまた進み始めた。


「…ちゃんと二人ともついてきてるの?」


「はい…。(壱さんが私を引っ張っているから、ついてきてるのはわかるんじゃ…)いたっ、あの、手…」


「!あぁ、ごめん」



そう言うと、気まずそうに彼はパッと握ってくれていた手を離してくれた。自分の手を見ると、震えは収まっている。…もしかしてだけど、幽さんが言ってくれたことを…気を使ってくれたのかな…。



「いえ…震えも大分収まりましたし…。ありがとうございます。」


「ふんっ。別にどうってことないよ。震えて歩けなくなってもらっちゃ僕が困るしね。」


「ふふ、壱くんは素直じゃないなぁ」


「ニヤニヤと気持ち悪い笑みでこっちを見るな!」



「そんな!ニヤニヤなんてしてないよ。ただ、壱は何だかんだ言いつつも、優しい子だなぁと思ってさ…」



「は、はぁ!?何それ…」



ぎゃいぎゃい噛みつきにいく壱さんを優しく軽く受け流す幽さん…出会ったばっかりなのに、もう壱さんの扱い方をわかっている気がする…案外、結構相性が良い二人なのかもしれない。



「…そういえばさ、飲み込まれる前の所…目が覚めた階ってもう探索した?」



「いっ、いえ。壱さん以外の方々とは合流していたんですが、調べようとした途端に、穴?が…」



「そう…じゃ、まだ一切ここの情報が無しってことか」



「その話から外れちゃうんだけど、ちょっと良いかい?司ちゃんが落ちた件について…」


あの時…私は恐怖も一緒に唾で飲み込み、幽さんの話に耳を傾けた。


「司ちゃんは…アイツに、下から呑み込まれていたんだ。」


「…アイツ…って、黒いアイツのこと?」


「うん。そうだよ。多分壱にも同じことが起こったんだと思う。黒い化物に、突然下から現れて襲われたんだ。まだ相手のステータスは詳しくはわからないけど…。捕まったらどこかにワープさせられるんだ。兎に角、周りもそうだけど、下の方にも気を配っていた方がいい。僕は…残念だけど、突然来られてしまうと囮にもなれないか、ら…」


すると、ピタッと幽さんの顔が強ばった。私は何だか嫌な予感がして、彼に問いかけた。


「どうかしたんですか?」


「いや…何か変な音がこちら側に近づいてきていないかい?」


「お、音って…」


恐る恐る後ろを振り返ると、化物がすぐそばまで迫ってきており、口は無いはずなのに大きな咆哮を私たちに浴びせて来た。


ヌチャリ…ヌチャリ…ウオアアアアアアッ!!!!



「う、うわぁぁぁぁあっ!!!話してたら早速現れたじゃん!」


さっきも杏樹さんのところで同じ化け物を見た…けど、あのときよりも、倍、恐ろしく見える…!怖い…怖い…足がすくんで、動けない!


「二人とも!大丈夫!今度も僕が…!」


そう言って幽さんは、声を出して囮になろうとした。だけど先程とは違い、化け物は幽さんを見向きもせず、私たちの方ににじりよってきた。



「!?…どうして…!」


「どうしてもくそも今はないよ!逃げるよ!!!」


壱さんは私の腕を強引に引っ張り走り始めた。呼吸が上手く出来ない。心臓がバクバクと鳴るのが痛い。()()()()()()()涙目になりながらも私たちは走り続けた。すると、小さく遠方に、目の前に螺旋状になった岩の階段が姿を表した。



「…っ、なんだあれ、階段!?」


「上ればさっきの所に戻れるかもしれない!早く上がって!」


「言われなくても、そうするよ!!!」



私たちは急いでその階段に駆け寄りよじ登った。自然に出来たものだからだろうか、整備された階段と違い、スムーズに上れない。ごつごつとした岩が足をすくって邪魔をしてきた。


ヌチャリ…ブワァ…


…?効果音が途切れた。いなくなったのかと思い下を除くと、化物が階段を飲み込むようにして襲ってきていたのだ。


「まずい、化物が階段を…!二人とも急いで!」


「くそ…っ!」


そう言いながらも、壱さんは既に登りきっていた。一方運動が苦手な私は、大分離れた真ん中付近のところで息切れをし始めていた。頭がくらくらするし、気分も気持ち悪い。少し走って登ったぐらいで、息を上げる自分が…情けなくて、とても嫌になった。


「司ちゃん!化物が近い!早く!」


次、また化物に捕まってしまったら、今度何処に飛ばされるのかわからない。命は無いかもしれない…洞窟の底…湖の中…天井から落ちて…苦しさが見せているのか、悪い想像が私を更に苦しめる。


あぁ…私、こんなところで死ぬのかな…色々な思いが混ざり、ぎゅっと手を握りしめると、上の方から淡い青い光が見えた気がした。


 


「化物の動きが止まった!後少しだ司ちゃん!頑張れ!!!」




幽さんの声も相まって、私はぼーっとする脳を奮い立たさせた。そして、自分の持てる力精一杯、岩の階段を上り始めた。あの光…何だろう…不思議な温かい何かが、私を包み込むような感覚がする。その光と幽さんの声が、私に力を与えてくれたような気がして、私は最後の力を振り絞り、見事階段を登りきった。


「はーっ、はーっ、ゲホゲホッ」


「って、あれ…化け物は…?」


後ろを振り返ると、そこには階段も化物の姿もなく、居たのは幽さんと壱さんと私だけだった。強ばった緊張から解放され、私は腰が抜けたようにへなへなと座り込んでいた。呆然とする私たちを、淡い光を持つ湖が照らしていた。


「いなくなってるね…よかった…。ん?もしかしてここって…司ちゃんと初めて会った場所…?」



「ひゅーっ、すーっ、はーっ、い、いえ…見える景色が…どこか、違う、気がします…ゲホゲホッ」



「…僕が初めてここに来た場所とも違う…あの大きな湖はあったけど…」



走った後の熱にうかされながらも、私は目を凝らした。やはり、岩、鍾乳洞の配置といい、最初の場所とは全く違う。どうやら足を踏み入れたことがない別の場所に出てきたようだ。


ふぅ…と回らない頭を下に項垂れると、淡白なターコイズブルーの花が、傍にある私の手を優しく照らしていた。


あの時の光だ。湖の光とは違う、温かい光。でも、なんでこんな洞窟に花が…ふと、手を伸ばそうとすると、壱さんが声をあげた。



「…ねぇ!ちょっと二人とも。ここに何か看板があるよ!」



「え!?」



初めての人工物に期待が高鳴り、私は花のことなど忘れて、急いで立ち上がり壱さんの元へ向かった。



明らかに不自然に、道のど真ん中に禍々しい雰囲気を放つ看板が立っていた。年季を持った()()にはこう書かれていた。




お そう や つ→こ えん


ころ す や つ→しえ ん




きを ツ けてね ェ




念のため確認した看板の裏には、赤い文字で無数の“ツ”と小さい“エ”でビッシリと埋められていた。


「うっ…裏は情報はなしか…おそうやつ…“こえん”って多分、あの目玉のついた黒い気持ち悪いやつだよね…」


「うん。アイツに捕まったとしても、どこかの場所へワープさせられるだけだからね」


「…でもワープ先によっては…」


「…だから、どちらにせよ捕まらない方が良いですよね。」


「うん…。ただ、問題なのは…」


『ころすやつ』


見なければ良かったかもしれない、と心の底から思ってしまった。何も情報がない殺すやつと書かれた“しえん”。ようやく見つけた手がかりは、私たちを絶望へと突き落とした。

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