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僕らは死にたい  作者: あくまでも悪魔
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第三話

「あ…あぁ…」


サァァ…と滝の音が聞こえる。青白く発光する川を挟み、私達がいる場所の向かい側。そこには、明らかに人の形ではない得たいの知れないモノが、先ほど幽さんに驚いて逃げた女の人を襲おうとしていた。黒いどぶのような姿に、無数の目が血走っていて、ギョロギョロとしきりに動いている。ビチャ…ビチャ…と音を鳴らしながら、悲鳴の主の元へと近づいていた。


「おい…何なんだよ、アイツは…!」


顔が青ざめるのがわかった。今、視界に入っているモノは現実なのだろうか。どうしていいのかわからず、私は恐怖で体は身震いをし、悲鳴を抑えるため、手で口を覆うことしかできなかった。


「…あそこに可動橋らしきものがあるけど、レバーはこの周辺には無さそう。探してたら彼女を助けるのに間に合わないよね。幽さんは向こう側に行けない?」


「行けはするんだけどね…彼女をこちら側に持ってくるのは不可能だよ。何せ、触ろうとするとすり抜けちゃうし…」


「そっか…そうだよね…じゃあ茶髪ツンツン頭は?」


「あ?茶髪でツンツン頭…?…消去法的に俺のことじゃねぇか」


「そー!見た目で判断して悪いんだけど、運動神経は良いとみた!ここからあっちの方まで、ジャンプで一飛びできない?」


「はぁ?無茶言うな、どんだけ距離があると思ってんだよ!」


確かに遥さんの言う通り、ここから川への距離は人のジャンプ力では到底届かない。…しかし、光る水が反射し隠して見えていなかったが、よくよく見ると、所々に透明な岩がまばらにいくつも設置されていた。運動が苦手な私には無理だけど…多分、身長が高くて強そうな遥さんなら…!


「は、遥さん…、川の所々に透明な平らな岩があるので…、それでなんとか、飛んでいけないでしょうか…」


「…チッ、それでも結構きちぃけど…わぁーったよ、なんとかやってやるぜ。そんで、化け物はどうやって引き付けるんだよ?怯ませるっつったって、物理技が効くとは到底思えねぇぞ」


「…なら、僕が引き付けるよ。君たちに僕の姿が見えているんだ、きっと化け物にも見えるはず。」


幽さんは真剣な顔つきでそう言うと、スッと化け物のところまで飛んでいった。化け物に自分の姿が見えるよう、周りをぐるぐると回りながら、目線を自分に向けた後、女の人とは別方面にゆっくりと移動し始めた。


「さぁ、こっちだ。化け物!」


彼の考えの通り、化け物にも幽さんのことは見えているようで、ズズ…ズズ…と引きずりながら移動し始めた。タイミングを見計らって、遥さんが勢いよく岩を華麗に飛んでいき、女の人をお姫様だっこをして抱えた。


「くそっ…結構重ぇな…二人分の体重支えられんのか?この岩…」


そして、今度はゆっくりと岩々を渡り、無事こちらがわの岸につれてくることができ、その後ゆっくりと彼女を地面に降ろさせた。

先程、遥さんが全国の女の子からしたら大変失礼なことを言っていたけれど…彼女はそんなこと気にも止めず、現状にいっぱいいっぱいのようで、顔は青ざめ、ガタガタと身を震わせていた。


「だ、だいじょうぶですか…?」


「え、えぇ…なん、とかぁ…」


「大丈夫?」


「キャア!」


幽さんが彼女の顔を除き混むと、小さな悲鳴をあげ、またカタカタと震え始めた。最初、幽霊に怯えて逃げてきたはずが、化け物に襲われて、助けられたと思えばまた幽霊がでてきて…パニックになるのも致し方のないことだと思う。幽さんは地味にショックを受けていた。


「大丈夫!幽さんは良い幽霊なんだよ!その証拠に、あなたのことも助けてくれたんだからね~!」


「そ、そうなのぉ…?」


「化け物を引き付けててくれたんです…その隙に、遥さんが救助を。」


「そうだったのねぇ…お二人とも…命の恩人ですぅ…あ、ありがとうございますぅ…」


「はは、なんてことないよ」


「…おぅ」


泣きそうになりながらも、彼女はペコリとお辞儀をした。

その様子から、外傷的なものはなさそうだ。安堵してふと、向こう岸に視線を向けると、あの化け物は、跡形もなく一瞬にしていなくなっていた。ゾッとした気持ちを押さえつけるように、腕をさすった。


「…いなくなってるね」


「えぇ!?本当だぁ…とりあえずは…助かったぁ…」


「そういえば、なんで向こう岸にいたんですか…?後、もう一人の男の子は…」


「…その幽霊さんを見て怖くて、彼と一緒に途中まで無我夢中で逃げてたんだけどぉ…あそこの橋が渡りきった瞬間、急に作動して上にあがっちゃって通れなくなってぇ…戻るに戻れなくて、周りを見たら彼、いなくなってて…仕方ないから川の流れに沿って歩いてたら、あの化け物に襲われて…うぅ…」


「う~ん、そうなんだ…、なんか、僕のせいで驚かせちゃって、しかも大変な目にあってて…本当にごめんね。」


「いえ、急に驚いて逃げた私も悪かったですしぃ…あ、皆さんはもう自己紹介とか終わっちゃってた感じですかぁ?」


「はい、大体は…」


「そうなんですねぇ、私は墓羽 杏樹。この度は助けて頂いて、本当に感謝してますぅ!」



そして、改めて私たちは自己紹介をしあった。さっきの化け物が現れたら数の暴力でなんとかなる…のようなノリで、杏樹さんも一緒に行動を共にすることになった。とりあえず、もう一人の男の子があの化け物に襲われていたら大変なので、出口を含め、彼も探すことにした。


「洞窟、…すごく入り込んでますね…」


「うん、そうだね…」


あれから、結構歩いた気がする。皆の話し声と、靴の音が耳の中に反響する。さっきのこともあって、じわじわと恐ろしくなってきた。皆がいる分気持ちは楽だけど…早くここから抜け出したい。ピチャッ…と一定のリズムで水の音も聞こえる。早くここから抜け出したい…

…?この気持ち、前にも味わったことがある…


「あ、れ…」


思い出せない。いや、私が思い出すのを拒んでるんだ。一体、何を…

そう考えていると、頭上から幽さんの焦った声が耳を貫いた。


「司ちゃん!危ない!!!」


幽さんの声とほぼ同時だった。私の足元にだけ、底が見えない大きな穴が空いた。


「え」


怖すぎて悲鳴も出なかった。どうしよう、一気に吸い込まれる!

そう思ったのもつかの間、浮遊感を感じた後、私は意識を失った。

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