表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ある戦記

さようなら、私 -終-


パトラは後ろから歩いてくる人の気配を感じ、そちらを振り向いた。


そこには調停者 ナノハ=イルミナスがいた。


パトラは見知った顔に少しほっとしたのも束の間、警戒を強めた。


(ひょっとして、ナノハさんがお姉ちゃんを.....)


パトラは立ち上がり、ナノハを睨みつける。


ナノハはふらつきながらこちらに歩いてくる。その足取りはとても重たい。


その刹那、ナノハが体勢を崩し倒れ込もうとした。


「ナノハさん!!」


パトラは倒れ込もうとするパトラに咄嗟に術式を組み立てる。


ナノハの後方に光の空間が発生する。


そこから細い光で出来た糸が伸び、ナノハの上体に巻きつき、支える。


パトラはナノハの元に駆け寄る、


「大丈夫ですか、ナノハさん」


「ありがとう、パトラ。ちょっとこの体は私には辛いわね。光の属性値が高すぎるわ」


「......?何を言ってるの、ナノハさん......」


「あら、気づかないのね。パトラ......貴女があんまり泣き虫だから、会いに来てあげたのに」


ナノハは苦しそうな表情で、茶化すように優しい響きで声をかけてくれる。


そこに何故だか懐かしさを覚えた。


(お姉ちゃん......?)


目の前にいるのは確かにナノハ=イルミナスだ。


しかし、さっきまで感じていた喪失感を今は感じていない。


じゃあ、この目の前にいるのは......


「......お姉ちゃん......なの?」


「パトラ......ごめんね」


「お姉ちゃん!」


パトラはクレオに抱き着いた。


クレオはパトラを強く抱き寄せる。


そのまま二人はしばらくじっとしていた。




別れが近いことは分かっていた。




「パトラ......聞いて」


「......うん」



「もうすぐ私は居なくなるの......実はね、2年前に死んじゃってたんだ.....」


「でも、ナノハに頼み込んでこの世に無理やり居させてもらってたの」



パトラはクレオの服を強く掴んだ。


「そうじゃないかな....て.....思ってたぁぁ....」


パトラは溢れだす涙を堪えようとするが、止めることは出来ない。


「ごめんね......ごめんね。パトラ」


クレオも泣き出してしまう。




そのまま二人はわんわんと子供の様に泣き続けた。


しっかりとお互いの体温を感じながら。




やがて、二人が小さな嗚咽を響かせあうようになった頃、クレオがパトラの顔を見て笑った。


「酷い顔ね..ひくっ....パトラったら」


「お姉ちゃん、こそ」


二人はお互いの顔を見て笑い合う。



クレオは、パトラの両手を取ると、包み込むように持った。



「パトラ......これから一人ぼっちになっちゃうけど.....きっと辛い事とか沢山あると思うけど.....でもね」


「お姉ちゃんがずっと見ててあげるから.....ずっとずっと見ててあげるから」


「だから.....頑張って、生きて」



クレオはパトラの手を強く握る。


パトラはクレオの思いが痛いほど分かった。




「私、知ってる。パトラが実は強い子だって。本当は弱いのは私の方......」


「パトラが居なかったら、生きていけない」




「私もそうだよ!クレオ!」



パトラはクレオの目を見つめた。



「私はクレオと同じ。クレオは私で、私がクレオ」


パトラはクレオの両手を、クレオがそうした様に包み込んだ。



「でも私、絶対にクレオの分まで強く生きるから。絶対負けたりしないから」



だから、だから



「心配しないで......!!」



パトラがそう言い切ると、クレオはとても安心した様に笑った。



クレオの気配が薄くなっていくのが分かる。





パトラはクレオの両手を強く、強く握る




さようなら、クレオ。






......さようなら、私。









-------








ナノハが意識を取り戻すと、ナノハの両手を縋る様に、祈る様に強く握る少女が目の前で膝を付いていた。


少女は震えている。


「もう、いいのよ。パトラ......クレオは向こうに行ったみたい」


パトラの手の力が抜けていく。ナノハは両手をゆっくりと離すと、パトラを自分の傍に抱き寄せた。



「ごめんね、パトラ。こんな結末で.....」



「私は......これから何をすべきでしょうか......?」


パトラが弱々しいしい声で呟く。



ナノハはパトラの肩越しでゆっくりと開こうとしている"陰陽の扉"を見つめていた。



「私の次の任務は"陰陽の扉"に入り、歴史の特異点を観察することになっています。もうすぐ仲間の調停者もここへやってくる手筈です」



「扉の中に入れるのは調停者の我々と扉を開いた者のみ」



「貴女のような優秀な呪術師にご同行いただけるのは心強いですが......」



ナノハは自分の責任を果たそうとしていた。


自分がこの少女を守らなければ。


親友の替わりに......





しかし、意外にもパトラは首を横に振った。




「いえ、遠慮しておきます。折角のお誘いですが......」


「ここには、姉と暮らした家があります。姉と営んでいたお店があります。....ですから、この地を離れるわけにはいけません」



パトラは強い眼差しをナノハへと向けた。



「私は、この地で自分の為すべきことを探していくことにします。」









ーーーーーーーーー









パトラが時の祭壇を去った。



ナノハは調停者としての自分と、人間であろうとする自分の内で揺れていた。



(大丈夫。私は私なんだから。)



きっと上手くやれる。


そして役目を終えたなら、あの場所へ帰ろう。


また、仲間たちと笑って暮らそう。


(*****、ダンゾウ、タルム.....待ってて)




ナノハは開いていく巨大な扉を、睨みつけた。








さようなら、私 -終-






















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ