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ロストスペル  作者: 海老飛りいと
第4章.機械都市
98/140

97 調律

カナンが実体を取り戻した時刻と同じ頃。

機械都市の別の個室では調律を終えたイレクトリアも目を覚ましていた。

ジンガ達に用意されたホテルのような客室とは異なる無機質で不便な部屋だが、ある意味で機械都市の象徴ともいえる最新鋭の技術を寄り集めた個室。


窓の無い四角い部屋。真っ白な天井が彼が目覚めて最初に感じた物だった。

無音、無臭、無菌。内部の状態が全て均衡ゼロに保たれたその部屋は、術後の病人が押し込められる個室と似ているが非なる場所。

手術室の機器の金属臭も薬品の香りも無ければ看護婦を呼び出すベルも存在せず、安静に人物を休ませておく場所とは言い難い窮屈で不気味な白一面の部屋。


常人が放り込まれれば一時間も正気ではいられないその現実味がない部屋で、手足を鉄錠で固定され目隠しで視界の自由さえ奪われたイレクトリアは意識を取り戻した。

自分はベッドの上にいて、天井を見上げている。白色ライトが眩しく照らしているのが隠された眼の奥に沁みる。

それだけの情報でかろうじて自分が仰向けに寝かされていることがわかる。


(……また正常に戻されたんですね。何度来ても悪趣味な所だ。ここは)


正常。それは彼の空想魔法ビジョンに紐づく言葉。

幼い頃に空想魔法を発現させた彼は親元を引き離され、国の方針によって機械都市へと連れて来られた。

同時に家族に関する記憶を抹消され、空想魔法を制御するための人工装置を脳の中枢へ取り付ける手術を施された。

施術自体は彼一人ではなく召集された子供たち全てに行われていたが、その年数人存在した空想魔法発現者の中で唯一彼だけが装置に適合し燃料電池セイラーになることを免れた。たった一人の人間だった。


装置に適合した人間には定期的な調律メンテナンスが必要になる。

国と機械都市の技術者達が定めた定理では、元来「呪文や道具を必要としない空想魔法は魔物の類いが操る魔法」であり、空想魔法を授かって生まれてくる人間は魔物に近しい凶暴性や野性を持つ危険な存在であるとした。

それらを抑え込むために機械都市が開発した装置の取り付けを義務化し、装置の不適合者たちには機械都市での燃料電池の役目が与えられ、僅かな適合者らには国の監視のもとに生存する権利と不祥事を起こした際の調律が必要な体を返還されたのであった。


つまり今、イレクトリアが正常な状態に戻されたというのは、機械都市の技術者たちが異常をきたしていた彼の脳内の装置を通常の役目が果たせるようにしたという意味である。

それにしても。と、毎度調律を行う度に目を覚ますと縛り付けられていることをイレクトリアは不満に思っていた。


(ここまでしなくとも別に暴れたりなんてしませんし。というか空想魔法を暴発させて逃げ出すくらいなら都市の中まで来ずに検問で皆殺しにしてますよ。警戒しすぎなんですよね……)


今回機械都市に来て調律を行う羽目になった原因は、ファレルファタルムとの戦いで部下カナンを無下に扱ったことで起こったジンガとの度を越えた殴り合いの喧嘩によるものだった。

それ以前にもファレルファタルムに対して執着を見せたり、協力者のマグに対して普段よりも理不尽な拷問をしていた等細かい変化に気付いた隊員らに気を使われてはいたのだが、決定打はやはりジンガの左拳。

戦闘時は具現化させた右腕で戦っているため、隊員たちにもあまり知られていないが隊長は実は右より左手での一撃の方がうんと重くて痛いらしい。


それをまともに顔面で受け止めたというのだから、街娘たちも機械都市の技術者たちも揃って大泣きだったそうで、 本人も流石に反省し「鼻が顔の真ん中にあることが奇跡だ」と思ったんだとか。

それと同時に、「どうしようもなくくだらないな」とも。


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