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ロストスペル  作者: 海老飛りいと
第4章.機械都市
88/140

87 不自由

「どうぞ」


「いらねぇ。そいつは吸った気になんねぇんだよ。肺に煙が来ねぇもんは煙草たぁ言わねェ」


「なるほど。ですが、アンバーマーク様。先程申し上げました通りこちらは禁煙でございます。どうか紙の煙草はご遠慮くださいませ」


理由をつけて断固受け取ろうとしない愛煙家にも気落ちすることなく、笑顔を貼り付けたままコルベールがもう一度同じ注意をすると渋々ジンガも従った。

見知らぬ他人に言われれば事によっては暴力沙汰にしかねないほど自分勝手な彼だが、用事があって訪問している以上は機械都市の住人の言うことを聞かざるを得ない。


煙草の一本を吸う自由でさえ制限されている重苦しい都市だとジンガも思ってはいるので渋々だ。

本来、この機械都市へは缶入りの紙煙草の持ち込みは禁止されている。

彼はそれを知っていながら検問に内緒のお小遣いを持たせてスルーしこっそり持ち込んでいた。


そのことは今、付き人のように行動を共にしているコルベールにもとっくに見透かされてはいたのだが、コルベールもすぐに注意し取り上げるようなことはしなかった。

彼は黙っていることが自分への利益に繋がると判断していた。

万が一何かあれば、ジンガに交渉を持ち掛ける術として黙認しているほうが自分の為になることまで計算してタイミングを見計らっていたのだ。


失敗はしてしまったが、煙草の話題が出た隙に今の完璧なタイミングで電子煙草(ネオシガー)を提供し、機械都市の開発品を試させようと用意すらしていた。

コルベールという手厚い素振りのがめついこの男は、それほどビジネスに敏感で貪欲な機械都市の代表者である。


ジンガ自身、コルベールに会うのも通算で五回目以上になる。

一度目は己の失った右腕に機械を埋めるために機械都市を訪れた時で、その時のコルベールは純粋に手際がよく親切な奴、という印象だった。

だが、数回顔を合わせる度に情報は更新され、今となってはありがた迷惑や親切の押し売りを機械的に繰り返すうるさい奴という評価に変わってしまった。


人をよく観察しすぐに必要としている事を察して手を回せる能力に関しては、まあ感心している。

その能力の使い方が不気味なほど隙がなく、行きすぎたお節介でなければ今も友好な関係を築けていたかもしれないが、そうでないコルベールの行動理念はジンガにとっていつの間にか五月の蝿でしかなくなってしまっていた。

コルベールのやり方は正直、港街ファレルでも仕事でしょっ引いて来た奇妙な文句で人を勧誘する宣教者やネズミ講や訪問販売と大差なく、それらよりも的確なだけ更に質が悪い。


また、ジンガが彼を気に入らないと思ったところで機械都市でのコルベールの評判は都市の外側とは段違いで、都市の人々からすれば見知らぬ人間の言葉に耳を貸すくらいならば最上級商人コルベールを無条件に信用しさえする。

コルベールは機械都市の発展に貢献した大家の主が遺した尊ばれるべき人物で、都市の住人たちの明るい希望の象徴ともいえる存在だという。

もはや住人たちは盲目的に彼に未来を預けているともいえる。


そういった理由から王国騎士団バテンカイトスの銀蜂部隊長の肩書もこの場所では全く無意味で、どうしてもこのいけ好かない男を通じて機械都市と交易を行う一人の客人として鉄板の道を歩かざるを得ない。

いくらイラついてもジンガにはコルベールを殴って黙らせることは都市の中ではできないのだ。


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