83 二人と添い寝
テーオバルトと約束を取り付け長い長いおつかい日和を終えた俺は、これまでのことを記しきって一息ついた。
日記の終わりに例の書置きレシートを貼り付けて表紙を閉じる。
横側についたダイヤル式の鍵を回した後、
「……今日はここまで。'閉じて'」
魔法辞典を片手で呼び出して文字列から一本を引き出し、鍵からなぞって日記の表紙を手でこする。他人に開かれないように鍵の上に重ねて魔法でカギをかけた。
これはビアフランカから魔法辞典に入っていることを教わった簡単な所作からなる魔法だ。扉や筆入れ、引き出しや他の道具などにも応用でき、言葉に出しながら呪文を添えることで発動する。
一見同じ魔法が扱える人にはかけたカギが外されてしまう恐れもあるが、そのときのために物理のナンバーロックがあるわけだ。なかなか便利で子供たちにも全員伝授済み。
ーーーー……コンコン。
そういえば部屋のドアにはまだ鍵はかけていなかった。
控えめなノックの音がしたのはちょうどその直後で、
「どうぞ」
俺が答えるとまた扉を叩く音以上に控えめに小さくゆるくドアが開き、眠たい目をこすりながらスーが部屋に入ってきた。
「スー?」
「先生? 一緒に寝てもいい?」
「えっ。うん、ああ……」
返事をするとスーは抱えた枕を俺に押し付けるように渡し、ベッドの上に飛び乗った。
俺に何か言いたげな態度ではあるがまともに口をきいてはくれない。
うつ伏せになって黙り、不機嫌そうに白い尻尾と翼を揺らしている。
(どうしたもんかな……)
彼女はファリーの件からずっとこんな調子でいる。
塞ぎ混んでいるというわけでもないが、いつも通りの明るい無邪気がなく具合でも悪いのかと周囲に思わせるほど大変おとなしい。
見るからに彼女の調子が狂っていて俺もそれに合わせて狂わされている。
ビアフランカ先生も心配していたし、他人の意見に聞く耳を持たないディルバーまでもが学校中の誰もがそんな感じだ。
また急な訪問だ。かける言葉に詰まってしまった。
どう話を持ち掛けたら良いだろうか。と、考えて頭をかいていたところ。
「……安心してください先生。僕も同伴ですから」
扉の影から俺が抱えた物と同じ枕を抱えたアプスが顔を覗かせた。




