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ロストスペル  作者: 海老飛りいと
3.5章(3章後日談)
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79 コランバインとセファ

***



金色の十字を蛇のような竜のようなモチーフが円く縁取っている印。

十字蛇竜治癒団(リントヴルム)の証が描かれた提げ看板を潜ると、急に空気が冷たくなり鼻腔を消毒液の香りがくすぐった。


病院独特のあの雰囲気。

この世界に来てから初めて訪れた診療所はそんな臭いや風景を俺に思い出させていた。


噂の医師'セファ・カロンディーク'がいるという診療所は街のほとんど真ん中にあった。

誰にきいてもすぐに道順を教えてもらえるような、そうでなくても歩いていれば見付けられるような。そこまで大きな施設では無かったが、誰でもここが診療所だと解る。


それほど有名で、それ故に。


「……うわ。ものすごく混んでる……」


提げ看板の奥には細い路が続き、そこには診察の順番を待つ患者がみっちりと並んでいた。

俺は予想外の状態に頭を抱えることとなった。

いや、少し考えれば予想できていたかもしれないが。


「こりゃ気軽に相談できる相手じゃあなさそうだな。どうしたもんか……」


俺をこんな状態にしている、全ての元凶であるマグがもしかしたら待っているかもしれない機械都市。

そこへ行くための方法を聞きに騎士団を尋ねればジンガ達とは行き違い。

ミレイから聞いた話では、機械都市へ赴くためには有権者の紹介がいるとのことで、治癒団リントであれば機械都市を往来する権利もあり掛け合ってもらえるのではないかということ。


さっきは考え事のあまり前方不注意となり果物の山を運ぶ郵便屋と追突してしまい、だが、それを好機だとして咄嗟に治癒団の医師の名前を聞き出した。

ここへはその'セファ先生'の名前を頼りに街人らに聞き込みをしてやってきたところだ。


しかしまた、この状態では。

有権者に接触するにも簡単にはいかなそうだ。

情報収集もできたし、振り出しにまでは戻っていないのがせめてもの幸いか。

今は一先ず患者らと一緒にこの長蛇の列に並んで順番を待つしかなさそうだ。


「おやー? おやおやおやーぁ?」


考えをまとめながら次の手が出ず行き詰まり、一旦は順番待ちに加わろうと決めたとき。

大きな茶色い鳥の翼を持った人物が一人。俺の前に立ちはだかった。


猫背気味で白衣姿。金色の印が白衣の裾に描かれているところを見ると、その人物もまた治癒団リントの一員であることがわかる。


「キミ、初診じゃない? ここに並ぶのは再診の予約分の患者サンだよ?」


「あの、すみません。セファ先生にお会いしたくて……」


白髪だが顔を見れば思っていたよりも若い。後ろに撫で付けたヘアスタイルにタレ目気味。医者というよりも研究員のような出で立ちで、白衣は薬品の臭いが染み着いてよれていた。

首から提げた名札には'コランバイン・アクィル'と記されている。

ちょっと怪しいがどうやらこの人も医師らしい。


もしかしたらセファに会うための糸口になるだろうか。

下から顔を覗き見てくるコランバインに尋ねようとすると、「ははあ」と何かわかったように彼は頷いて聞き返した。


「もしかしてキミ、患者サンではないね? 雑誌の記者サン? 研究職の学生サン? それともうちの求人見て来てくれたお手伝いサン?」


「その、どれでもないんですけど、機械都市のことでお尋ねしたいことがありまして……」


「はて。機械都市……うーんと……そう、'機械都市'って言った? あー。なるほど。それは確かにボクじゃなくてセファ先生じゃなきゃだめな案件だねェ」


一気に俺へ顔を近付けたかと思えば一人で納得してサッと退き、振り返って顎で順番待ちの列の奥を指す。


「よかったねェ。セファ先生ならいまちょうど昼休憩でボクと交替だよォ。すぐ来ると思うから声掛けてみたら?」


何故か機嫌が良さそうな声で言って笑った。

コランバインはヒラヒラと片手を振り、列の横を歩いて交替と言っていた持ち場……セファが交替待ちをしているであろう診察室へと向かっていく。

と、彼と擦れ違いに三人の医者が診察室から出て来た。


(いた……!)


三人いるうち連れの若い二人に指示を促している年配者がセファで間違いなさそうだ。

道すがら聞いていた通り、頭のてっぺんで右側を白、左側を水色と真っ二つにわけた奇抜な髪色で、天使のような真っ白な翼が背中に生えている壮年男性だ。特徴が一致する。


「あの! セファ先生」


連れの二人が離れて一人になった瞬間。すかさず彼を呼び止める。


「……どちら様だろうか。私は君と何か約束をしていたかね?」


セファは全く似合わない、女性が掛けるような可愛らしいピンク色縁のメガネの奥の物厳しい目で俺を見た。



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