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ロストスペル  作者: 海老飛りいと
第3章.港街の護り手たち
71/140

70 危機一髪

***



────状況は変わらない。


「く、くそ……っ」


俺が手を離すか借りた剣が折れるか。どちらにしてもいずれ来る落下死の未来に変化はない。

肉体が死んでしまったら俺はどうなるのだろう。マグの体が森に投げ落とされ木々にぶつかりへし折られたら、彼の体に魂としてある俺自身は無事でいられるのだろうか。

無事でいられたとしても、負傷しひしゃげた体を動かすことが俺にはできるのだろうか。


わからない。死ぬことを怖いと感じているのは体の主なのか俺自身なのか。

少なくとも魔物に切りつけられた手足の傷や鼻に掛けられた魔法に痛みを感じているのは俺自身だった。そうなると、転落による死亡を恐れているのも俺なのかもしれない。


人は死ねば暗闇。待っているのは無。

信じているわけではないが、死んでみないことにはわからない。結果を目の当たりにするとき、結果として認識できるかも知りえないのに。妙な話だと思う。これをひっくり返せば、死んでも治らない馬鹿の考えになるのかもしれない。


そもそも俺が死んだら俺に替わってまた新しいマグが現れこの体に入る可能性だってある。

そうしたら俺は何処へ行くのだろう。

消失と無とはどう違うのだろう。


この中途半端な状態で託された新たなマグはどう行動するだろう。

どこからかやり直しになるのだろうか。俺は新しいマグに頭痛を起こさせて助言してやれるのか。

そこにも、ここにも居なくても。


さっきから俺は使いまわしの、死んだら、かも知れないを拗らせている。よっぽど余裕があるものだ。


──まるで、最初から彼女が助けに来るのを予想していたかのように。


「先生っ!」


「スー?!」


ファリーが大きく身を捩り、マグの肢体が剣もろとも宙に投げ出された瞬間。死を悟った俺に投げ掛けられた大きな声はスーのもの。しかしそこにいたのは彼女ではなく、


「大丈夫? し、しっかり掴まっててね!」


真っ白な鱗を敷き詰めた背中。俺が落下した先はファリーと同じように夜闇に輝きを散らす白い竜の上だった。

衝撃に滑り落ちそうになる足を空中から引っ込め、白銀の竜の姿となったスーの長い首の後ろに手を回す。


「その格好、スー? 本当に君なのか……?」


ファリーを大型バスほどに例えるならスーは自転車くらいの大きさ。竜の姿のスーを見たのは初めてではない。ファリーの回想の中で、片手で抱えられる赤ん坊サイズの彼女を見た。あの時よりもずっと大きく成長していたが、それでもファリーと比べればまだ小柄だ。少女だったスーを連想させるあどけなさも残っている。


「そうだよ! ()ったでしょ? ボクたちお強いドラゴンの本当の姿はねって……う、ううん、詳しいお話はあとで!」


改めて背中に跨がり、乗馬するように長い首の付け根へ抱き着いて俺が身を固定すると、スーは翼を羽ばたかせて母竜の横を旋回する。


空を分断するように真横に翔け抜けると、俺の手元でゆったりと光る魔法が彼女を空中に留める手助けをしていた。

優しい白と水色の混ざった魔法は風の証。その光はシグマから預かった指輪から出ていた。

呼応するように魔法事典(スペルリスト)が展開する。


「シグマさんの指輪が魔法事典(スペルリスト)に反応してる……ええと、これか……!」


指輪から出る光が文字列の帯を一つ指し示し、俺は浮かび上がった呪文を手の中に捕らえる。

ファリーに吹き飛ばされスーに受け止められた際手放した剣と引き替えに。


「ナイッスぅ! ストちん! あとはあーしらに任して!」


と、同時にスーと俺の目の前に突如として緑が組み上がり、ファリーとの間に巨大な壁となって立ちはだかる。

それは地面から急成長を遂げた樹木の一本。空に向かって伸び上がった無数の光のいばらを纏った豆の木。

蔦を更に伸ばした太木はファリーの両足に素早く絡み付き、哭きながら暴れる竜の自由を奪った。


「とーりゃあっ! 行ッッくよカナンちゃん!」


「わかっています!」


続けて、豆の木を足場にして飛び上がるミレイと息を合わせて駆け登っていくカナン。

雷を帯びた軽快な銃剣と柔軟な直剣の二本が俺達の前で火花を散らし、ファリーの首元で十字を描いて交差する。








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