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ロストスペル  作者: 海老飛りいと
第3章.港街の護り手たち
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69 飛翔する

***



予兆を感じていたのはその場にいたマグだけではなかった。


「シグマさん!」


離れた場所でファレルファタルムを見上げていたスーが叫ぶ。

彼女の嫌な予感もまた的中し、魔物を狩るシグマ達を草の影で見守っていたスーは不安から来る寒気に震えていた。


「先生が……!」


「どうしたんです? ストランジェット」


スーが指し示した手の先、シグマとアプスは目を細めてファレルファタルムが浮かぶ空を見る。

遠くではあるがその輪郭と鳴き声が夜空を割るように響いている。苦しげに羽撃く大きな美しき竜。異様な気配。彼女の胸に突き刺さる黒々とした結晶。


「なんだ? 様子がおかしいぞ……? さっきまでと雰囲気が違う……」


「お母さん……」


アプスには何が起きているのかを視認するまでは出来なかったが、スーにははっきりとファレルファタルムの胸の下で剣一本に身を預けて吊りさがっているマグの姿が見えていた。

両足は空中に投げ出され、自分の体重を銀の棒一つに委ねている。落下するのも時間の問題……否、その時間がもうない。


「だめ! 危ない! 先生が! 先生が落ちちゃう!」


すかさず、


「ボクが助けなきゃ!」


「ストランジェット! 待って、一人で行くなって!」


「あっくん! いいの! ボクが、ボクが行かなきゃ!」


アプスの制止を振りほどいて草陰からスーが飛び出す。


走り出した体が精神と分離して、リボンの結び目を解くように一気に、緩やかにスーの姿が変わっていく。

擬態を解いた彼女の靴は溶け、晒されたつま先の爪が灰色になり鉤状に曲がった。

腰の両翼を大きく展開し、地上を蹴り飛び立つ頃には完全な一匹の銀竜として。少女の成りを変化させ、大切な人を助けるために彼女は飛翔した。


「今度はボクが先生を……」


やっとの想いで再会した大切な人。大好きなマグ。

物心がつくまで面倒を見てくれて、恋心が芽生えた頃に居なくなってしまった大事な大事な自分の中の一部。長い間スーの頭と心の中心に常にある人物。


いない間をどう過ごしていたかなんてまるで思い出せない。失ったはずの存在が、自分の前に座って笑い掛けてくれている。

シグマのレストランでの再会は、正直なところ何故か不審そうで落ち着かないマグの様子を気に掛けていたことと、スー自身も突然帰ってきた彼とどうやって話せばいいのか動揺で上手く表現できなかった。焦りも感激も喜びも色々なことがまぜこぜだった。

でも、今の自分に出来ることははっきりとわかる。風を切る翼に自然と力が込められる。


「助けるんだーーーー!」


もう離れたくない。失いたくない。必死になる体が心を飛び越していく。

前へ突き出し尖った鼻先を目標に向け、竜の姿になったスーが叫ぶ。ただ大切な人を救いたい一心で、暴れるファレルファタルムの胸元へと飛び込んだ。


「おい! 何してる! ガキから目ェ離すなつったろ!!」


「アッチャ~。クチャクチャに速いしおアツいかんぢ? こりゃミレイちゃんでも間に合ゎナイゎ~」


ジンガの声に我に返る一同。魔物を蹴散らしながら先を走っていたミレイはぼやきながらもスーの後を追う。

担いだ銃剣を振り抜き、緑をはためかせながら長い尻尾を揺らして銀色に光る竜に続く。


「カナンちゃん!」


「ミレイ……!」


マグが魔法で打ち上がった空を辿るようにして一迅の風が再び吹き抜ける。

カナンの頭上を掠めて白銀の翼がファレルファタルムへと直線を描き向かって行く。


「あれは……?」


突然現れたもう一頭の竜につられて空を見上げ、彼女もファレルファタルムの豹変を知れば、生真面目な顰めっ面を一層引き攣らせた。


「ファリーたゃの娘ちゃん! いいからゥチと一緒に追っ掛けて!」


「ええ?!」


武器を構えながらカナンの腕を掴んで引っ張るミレイに、一瞬呆気にとられ強張った表情が解ける。

の、だがすぐに、


「『豆の木は高く高く雲を突き抜け、巨人が住まう天井へと至ります』……さあ! 高い位置まで送りますよ二人とも!」


真後ろから投げられるイレクトリアの詠唱に盛り上がった足場を見、再び真面目な顔に戻った。










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私生活が多忙だったため大変間が開いちゃいましたが本日からまた連載再開です!

よろしければ!見てるよ~!って評価やブクマ頂けると嬉しくてやる気モリモリになります!(*σ´ェ`)σ

ネット小説大賞にもひっそり応募中です!


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