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ロストスペル  作者: 海老飛りいと
第1章.記憶喪失と竜の子
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16 路地裏の尋問


「助かりました。フィーブルさん」


 予期せぬ突然の登場ではあったが、彼女、フィーブルによって難を逃れたことに変わりはない。

 落ち着かない様子で視線を空に逃がしている彼女に、俺は改めて礼を言う。


「い、いえいえ……。私、騎士として当然のことをしただけですからぁ……」


 謙虚にしながら、口をくしゃくしゃにして照れると耳が嬉しそうに動いた。

 自分の尻尾の毛を触りながら、えへへ。と笑っているのを見ると、先ほど男を殴り倒した人物とは思えなくなってきそうだ。

 草食の大型動物は体こそ大きく逞しいが、危険が無い限りはのんびりとしているように、彼女もまた普段は穏やかな人なのだろうと思う。フィーブルは牛や羊を思わせる種族で間違いなさそうだ。


「ところで、その今倒れてる人も騎士だって言ってたんですけど……」


「えっ! えぇ~~?! そうだったんですかぁ~?!」


 スーをさらった自称騎士を指差すと、再びフィーブルが慌て出す。


「はわわゎ、本当だ……! うわぁー、どうしよう……うぅ……!」


 本当に気付いていなかったのだろう。彼女は自ら鉄槌を下した男の前に膝を付く。膝をついてもまだ大きい。

 そんな彼女の広い背中にまた、


「おい、クソ牛」


 見知らぬ人物の片足が乗せられた。


「テメェ、またやりやがったな? 顔潰したら人相が解ンなくなるっつってんだろうがこのノロマ」


「ごご、ごめんなさいごめんなさいぃ……」


 そのまま押し込めフィーブルの体が前に曲がり土下座の姿勢になるまで、新たに現れた口の悪い中年の男は足を離さない。

 彼女の知人のようだが、荒々しい言葉で唾を飛ばす姿は騎士というよりも賊のような男だ。


よれたシャツに顎の無精髭。

言霊に力が宿るとすれば、彼は自分の言葉に外見が形成されて清潔さを欠いてしまったのだろうか。

 色の抜け始めた金髪だけは短く手入れをしているようだが、全体的には不良親父といった印象だった。


「あ、あの……その辺にしてあげませんか……?」


「ああ? 俺に指図か? いい御身分だなこのクソトンボ」


 臭いそうな足に背中を蹴られ謝り続けるフィーブルがあまりにも可哀想になり、俺は思わず彼に口を出してしまった。

 この男はフィーブルだけでなく誰に対しても攻撃的で高圧的なのだろう。雑な名称を付けて俺にターゲットを切り替えた。この人は、不良中年というより非行なガキ大将か。あとどうして俺がトンボなんだ。


「テメェもテメェだぞ、チンカス。倒れたままのガキほったらかしてンじゃねぇよ」


 俺の方に一気に距離を縮めると、暗がりで見えなかった輪郭がはっきりと見えた。

 フィーブルのような綺麗な布も誘拐犯のような軽鎧も付けていないが、筋肉質で粗暴なその男は、背中に見覚えのある物を背負っていた。


「アプス……! す、すみません」


 スーを誘拐した奴を追うのに必死で、気絶したまま置き去りにしてしまったアプスを彼はここまで運んできてくれたのだった。

 この状況でなければ見た目だけでこの男のほうが誘拐犯に見えてしまう絵面だが、常識的に考えて路地裏に少年が倒れていればまず助ける。そんな常識的な面も持った人間だったのか。


 あまり関わりたくなかったが、俺は彼に借りが一つ出来てしまった。


「保護者がきちんと見てやれ。テメェは何のためにタマぶら下げてやがんだ」


 しかし、この人は必要以上に口が汚いな。

 幻滅しそうな表情を出さないようこらえ、彼を仰ぎ見る。

 その男、背中が広いわりに背負い方のバランスが悪いのは性格の通りがさつにアプスを拾ったからだろうと思っていたが、その認識も違ったようだ。

 彼には右腕が存在しなかった。袖に通っている筈の腕が左の片方しかなく、少年を両腕で引き上げることができなかったのだ。


「で? 俺のシマでガキの誘拐って何様のつもりだ? ああ?」


 その人は俺にアプスを見せると直ぐ様、誘拐犯の崩れた顔面に蹴りを入れた。


「うちの奴じゃねぇな。起きて部隊名言えや、このビチグソゲロダンゴ野郎」


 意味不明な彼史上最上級の悪口と共に、この場で尋問を行うつもりなのだろうか。





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