100 検問所にて
そう。俺とユーレカは彼女の事情を知ってから三日間。
隙があれば皆の目を盗んでこれからのことを二人で話し合い決めていた。
――――俺と彼女は同じ秘密を共有している。
俺達二人は、最初は何処か遠い海外にでも来たつもりでいたが、何かの物語かゲームの世界に迷い込んだかのような信じられない体験をこれまでにしてきた。
見知らぬ世界の見知らぬ土地。翼や角が生えた亜人。武器を持って魔物と戦う人々。流通する魔法の存在。
それら全てを受け入れ当たり前のように感じさせていた本来の自分とは違う知らない誰かの体。
非日常を日常に錯覚してしまっていた俺の前に現れた彼女は、その当たり前を取り払いにきてくれたのかもしれない。
「まさか、マグ先生もだったなんて……本名は? もとの世界でも先生をされてた、とかですか?」
「それは解らない。でも、君が言う別の世界を……日本から来たっていう話は俺にも理解できるし、自分がもとは違う人間だったことも自覚してる」
ユーレカも俺も日本で暮らす普通の人間だったはずなのだ。
それが今、何らかの理由があってこの世界に居る。
彼女との出会いで忘れていた一つのことが思い出され、解くのを諦めた複雑なパズルの全容が見えて来たような気がした。
そして、
「貴方をこの世界に呼んだ本人が待ち構えてるって事ですね。だったら私も一緒に機械都市に行かせてください。私も帰る方法を探しているんです。絶っ対絶対、貴方の役に立ちますから……!」
テーオバルトが迎えに来ることを知り俺の出張先を告げた矢先、ユーレカは自ら俺に提案した。
同じ境遇にいる俺達は、俺達にしか理解し合えない部分を互いに持っている。
俺と彼女が手を組まないという選択肢は無い。そう両者で思いあっていたのだろう。
幸い、ユーレカは俺に嘘をついているような雰囲気も無く、聞けば聞くだけ日本でのことも教えてくれた。
俺よりもずっと鮮明に覚えてくれている分頼りにもなる。
「わかった。一緒に行こう」
俺には彼女の提案を断るほどの理由などない。
協力した方が何か手掛かりを見付けられるかもしれないと思えば、これだってチャンスだろう。
ビアフランカ達には彼女を家へ送り届けるという嘘で誤魔化して、俺はユーレカを助手という名目で機械都市へ同行させることにしたのだった。
……の、だが。
「えーーーーっ?! メナちゃんを連れて行けないなんて無理! 絶対ダメ!」
「この生物は魔物ではないですか?」
「魔物じゃないわ! 私の家族なの!」
「魔物であろうとなかろうとペットの連れ込みは禁じられております。寄生虫やその卵、病原体を持ち込む危険性がありますので……」
「だっかっらっ! この子はペットじゃなくて家族だって言ってるでしょ!」
「ゆーゆぴぃ……」
早速何やら問題が起きているようだ。
テーオバルトに連れてこられた検問所の中。
手荷物検査を受ける俺の前で係員とユーレカの言い合いが始まってしまっていた。




