#006.迷宮に潜る 「いきなりだが俺は急いでる」
「ここが迷宮……だな」
迷宮の入口に立った。
入口自体は、小さな石作りの小屋でしかなかった。
地下に続く階段の出入口というだけだから、そのくらいの大きさでいいのだろう。
入口の脇に、番をしている人がいる。迷宮の管理は冒険者ギルドのようだから、ギルドの人だろう。
「入るのか?」
「あ……、ああ……」
訊ねかけられて、そう答えた。――が、足が動かない。
本当にこれでいいのか、と、自分に問う。
武器と防具は買った。全財産を装備に換えてきた。
検討は充分に行った。他の方法では短期間に大金を稼ぐことは無理だった。
これがベストな方法のはず。
うん。充分に考えた。
彼女を助け出すということについてなら、是非もない。
諦めるという選択肢は、俺にはない。
そして彼女は言った。「信じます」と。
だから俺は彼女のために――。俺を信じてくれる彼女のために――。
――って? あれ? 彼女の名前、なんだっけ?
そういえば聞いていない。
札のところに書いてあったのかもしれないが、あのときには文字は読めなかった。
おかしなものだな。おたがいに名前も知らないのに、信じあっているなんて。
俺は口元で笑った。
「……で、入るのか? やめるのか?」
「入るさ」
俺は門番にそう言った。
こんどは足が動いた。
俺は迷宮に足を踏み入れた。
◇
地下一層――。
迷宮の中は、すこし暗かったが、ところどころに明かりがあって、不自由はしなかった。
道具屋のソバカスの似合う女の子の、おすすめ冒険者セットのなかに、紙とペンとがあったので、分かれ道のたびに地図をつけた。おおまかな歩数とで距離を測っている。
道に迷う心配はないが……。面倒くさい。
くそう。オートマッピングのスキルとかはないのか。異世界転生の定番だろうに。
俺が探しているのは、モンスターだった。
まずどのぐらいの強さなのか、試してみないことにはこれからの戦略も立てられない。
いきなり迷宮に潜ったわけではなく――。
装備は揃えた。やれるだけの準備は整えている。
一戦でどのくらい消耗するものなのか、実地に試してみないことには、なにもわからない。
最悪、一戦闘を切り抜けることもできずに、負けてしまう可能性もあるのだが――。
ある程度のリスクを取る覚悟をしないと、なにも行動できなくなる。
しばらく探索を続けると、さっそくモンスターが現れた。
植物のようなモンスターだが、動き回っている。
「おおりゃーっ!」
斬りかかった。先制攻撃をした。
「うおおーっ!」
斬る。斬る。斬る。
枝で殴られる。殴られる。殴られる。けっこう痛い。
斬る。斬る。斬る。斬る。
最後の一発が、いい感じに、ばっさりと入った。
木のモンスターが倒れた。
「はぁ……、はぁ……、はぁ……」
《エバーリーフを倒しました。経験値を獲得しました》
ステータスをオープンして、HPを見てみる。HPは11→8と、3ほど減っていた。
なるほど。エバーリーフとやらの強さはわかった。
こいつなら勝てる。
途中、何度かダメージを食らったが、減ったHPは合計で3だけだ。
数値でいうと3なのだが……。しかし……。あちこちにできた打ち身が、鈍い痛みを発している。
これをあと3回ほど食らうと、俺は死ぬらしい。
あと3回といわずに、もう死んでしまいそうな気がするが……。
現代の文明社会で生きていると、こんな怪我をした経験はなかった。
さっそくだが薬草を使うことにする。
そこらに腰を下ろして、バックパックを開いた。
どうやって使うのか、よくわからなかったが……。一回分の包みを手にしたら、ぼんやりと輝いていた。それをなんとなく打ち身の場所にあてると――。光が患部に移って、すうっと楽になった。
患部は、ぽうっと光り続けている。
ステータスを見ると、HPは1ずつ回復していき、11に戻った。
その頃には完全に痛みが引いていた。
なるほど。瞬間回復ではなくて、1ずつゆっくりと回復か。
戦闘中には、あまり役に立たなさそうだな。
薬効がなくなって光らなくなった包みは、単なる葉っぱのようだ。捨てておく。
HPが満タンに戻ったので、またしばらく探索を続けた。
さっきと同じエバーリーフをまた見つけたので、戦って倒す。
こんどは前よりもうまく戦い、ダメージを1だけしか食らわなかったので、薬草は使わず、さらに3匹と戦って倒した。
4匹目を倒し終えたところで――。
《Lvがあがりました。平民Lv2になります。取得可能スキルが解放されました。転職可能職業が解放されました》
待ちかねていたシステムメッセージが聞こえてきた。
次回、レベルアップしたので、さっそく「転職」します。