#005.ダンジョンに潜る。……まえに装備を整える。 「予算は4500ギルで」
ダンジョンに潜る。
……まえに、やることがあった。
装備を整えなければ。
冒険者ギルドを出て、目当ての店を探す。
文字を読めるようになったので、武器と防具の店はすぐに見つかった。
「いらっしゃい」
ずらりと並ぶ武器防具を見ながら、俺はまっすぐ店の奥のカウンターに向かった。
「初級迷宮に挑むんだが。武器と防具を見繕ってくれないか」
はっきりいって、俺はドシロウトだ。
自分で選べるとも思わない。プロに頼るのが一番だと思った。
シブい感じの店のオヤジに、ずばり、単刀直入に要件を切り出した。
「予算は……」
そこで考える。
いま手持ちの金は、冒険者ギルドで500ギルほど払ったので、残り6000ギルと少々。
すべてを武器防具に使ってしまうのはうまくない。
ゲームで鍛えたバランス感覚で、装備にあてるべき割合を弾き出す。
「……4500ギルまで」
手元に1500ほどを残した全額を告げた。
俺は早急に3万ギルを貯めなくてはならない。
なにも装備を買わなければ6000ギルが手元に残るが、素手で迷宮に潜ってどうするという話だ。
現在の所持金で買える最上の装備を買って挑むのが、最短の近道だ。
急がば回れという格言の通りだ。
「……なら、青銅の剣と革鎧だな。二つで4000ギルだ。盾は使うか?」
「剣ってのは、これか?」
「ああ。それが青銅だ」
土産物屋の木刀みたいに、何本も無造作に置かれているラックから、一本を抜き出す。
手に持ってみると、思った以上に重さがあった。
片手で扱うには、ちょっと重すぎる。
――と思ったのだが。
「ステータスオープン」
俺はステータスを開いた。
そしてスキル取得画面を開いて――。
『剣装備』というスキルを取った。コストは1ポイントだった。
スキルを取得した途端に、手にした剣が軽くなった。これなら片手で扱える。
「盾ももらおう」
武器屋の店主は、ひゅうと口笛を吹いて、棚の上から盾を出してきた。
「スモールシールドだ。こいつは500だな」
さっきの口笛の意味は、俺がいまこの瞬間になにをやったのか理解したということだろう。
もう1ポイント使って、『盾装備』のスキルも取る。
「革鎧は……、こいつがサイズが合いそうだな」
吊してある革鎧のなかから一つを見繕ってもらう。
着るのに多少苦労したが、店主に手伝ってもらって身に着ける。
既製品だから、ぴったりとはいかないまでも、動きにくいことはない。『鎧装備』のスキルは見あたらなかった。
存在しないか、平民だと取れないかの、どちらかだろう。
しめて4500ギルを支払って、武器屋を出る。
大銀貨が4枚と小銀貨か5枚、吹っ飛んでいったが……。必要経費だ。
◇
武器屋を出て、つぎは近くにあった、道具屋だ。
「怪我を治す薬はあるかな?」
「薬草とポーションがありますけど、どちらにしますー?」
ソバカスの似合う女の子が、明るい声で言ってきた。
「違いは?」
「ポーションのほうが効果が強くて早いです。でも高いです。薬草の成分を煮詰めて作りますから。値段はポーションが1つ100ギル。薬草なら10ギルです」
「同じ金額で、回復するHPの量が多くなるのは、どっち?」
「薬草ですね。2~3倍は違ってきますよー」
「じゃあ、薬草を30個。ポーションを3つもらうかな」
「まいどー」
「あと初級迷宮に潜るんだけど。いりそうなものを見繕ってくれるかな。全部でこのくらいで」
有り金をすべてテーブルの上に出した。
薬草とポーションで600ギルを使っている。
残った800ギルで、バックパックやら、携帯食やら、水筒やらを見繕ってもらった。
明かりがないことを訊ねたら、初級者迷宮なら明かりは必要ないそうだ。
俺は店を出た。
ソバカスの似合う地味だが可愛い娘が、「ごひいきに~」と手を振って送ってくれた。
ああ、しかし……。バックパックが重い。おもに薬草で膨れ上がっている。
俺の読んだ転生物の主人公たちは、アイテムボックスとかの無限収納チートを持ってるのが普通だったんだがな。
それはともかく――。
武器と防具を買った。装備も揃えた。必要な準備は終わった。
次回、迷宮に潜ります。