#003.お金を稼ごう! 「俺は冒険者になる!」
大通りを、走った。
あてもなく走った。
やるぞ! やるぞ! やってやるぞ! ――と、体の中を熱いものが駆けめぐっていた。
待ってくれている女性がいる。信じてくれている女性がいる。
こんなことは、人生で、はじめてのことだった。
いまならどんなことでもできる気がした。
気力が漲っている。
――が、気力ばかりではどうにもならない。
体力が尽きて、走るのをやめたところで、具体的な方法を考えることにした。
まず元手となる金が、大銀貨6枚と少々。7000弱ぐらいはある。
これを3万ギルにしなくてはならない。それも可及的速やかにだ!
彼女を一秒でもあんな檻の中に入れていられない。
商人の口ぶりからすると、3万ギルから、多少はまけてくれそうな感じだったが――。
いいや。3万だ。きちんと耳を揃えて持っていこう。すでに相当な値引きをしているようだから、これ以上値引いてもらえるという保証はない。なにより彼女に失礼だ。
では、どうやって残り2万3000ギルを手に入れるのか。
ギャンブル。――却下。
全額すって、無一文になるのが目に見えている。
就職。この異世界で職を見つけて、労働をして賃金を貰う。
――悪くはないが、手に職があるわけでなし、たいした職は見つからないだろう。彼女を助け出すまでに何ヶ月かかるか。いや何年か。
考えろ。思考を柔軟にしろ。ここは現代じゃない。異世界だ。
現代世界にはない、金稼ぎの方法があるはずで――。
「ああそうか……。冒険者だ」
ちょうど目の前にあった建物を見て、そうつぶやいた。
そこが「冒険者ギルド」であることは、一目見ただけでわかった。
いかにもそれっぽい――鎧を着て帯剣した連中が出入りしている。
さっそく中に入ってみることにした。
建物に入ると、中にいた連中の視線がこちらに集まった。
……が、すぐに視線は離れていった。
鼻で笑われたようだ。
まあ仕方がない。剣もなく鎧も着ていない。街の人と同じ格好だし。
建物の中には受付のカウンターがあった。
そのうちの一つに歩いていった。
やけに可愛い女の子が窓口に座っている。普段だったら見とれていたかもしれないが、いまは彼女のことで胸がいっぱいだ。他の女の子のことなんて、ちょっと気にすることは無理。
「冒険者になるには、どうすればいいでしょうか」
「ギルドへの登録が必要ですよ。冒険者カードの申請書に記入していただいて、あと、登録料の500ギルが必要です」
500ギルか。必要経費だな。
「ええと……。字が書けないんだけど」
「代筆しますよ。お名前と年齢と、あと種族はヒュースでよろしいですね」
「名前はダイチで。年齢はさん……でなくて、ええと、ステータスオープン」
ステータス画面を開いて、年齢を確認する。
いまの外見上の年齢は36ではなくて、若くなっていたはずだ。年齢はステータスにたしか書いてあった。
「……25です」
受付嬢は怪訝そうな顔をしたが、そのまま用紙に書きこんでいる。
「では、しばらくお待ちください」
受付嬢は用紙を手に、奥に行ってしまった。だがほんの二、三分で戻ってくる。
「はい。こちらが冒険者カードと認識票です」
免許証ぐらいの大きさのカードを渡される。あと二枚一組の金属札のついたペンダントも。
カードのほうは、ちょっとホカホカしている。認識票と呼ばれたペンダントのほうも、なんとなく、使い道はわかった。いつも首に下げておけば、もし還らぬ人となっても、家族に知らせが届くというわけだ。向こうの世界にもこういうものはあった。軍人が身に着けていた。
「冒険者ランクはFからのスタートになります」
受付嬢は、そう言った。
これで終わりらしい。
なんと。こんな簡単に冒険者になれてしまった。
名前と年齢を告げて、登録料を払っただけだ。
職業も言ってなかったし、住所――は、ああ、そうか。冒険者なんて定住していないほうが多いのだから、住所なんてないわけだな。
どうもあっちの世界の癖が抜けない。
あっちの世界だと、この手の登録には、住所と身分証明書が必要不可欠だったし。
「依頼を受けるには、あそこの掲示板?」
「はい。Fランクの人はDまでの依頼を受けられますけど。でも慣れてくるかパーティを組むまでは、Fランクにしておいたほうが無難です」
「ありがとう」
掲示板に近づく。紙がたくさん張り出されている。……けど、読めない。
掲示板のそばで、ずっと立っていた男性が、こちらを気にしている。
代読を商売にしている人だろう。
さっきの窓口でのやりとりを見ていれば、俺が読み書きできないのは明らかだ。
しかし――。
きっと有料の代読を頼むより――、ひょっとすると――。
次回、無双はじまります。
明日19時の更新予定です。