表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/35

#003.お金を稼ごう! 「俺は冒険者になる!」

 大通りを、走った。

 あてもなく走った。


 やるぞ! やるぞ! やってやるぞ! ――と、体の中を熱いものが駆けめぐっていた。


 待ってくれている女性ひとがいる。信じてくれている女性ひとがいる。

 こんなことは、人生で、はじめてのことだった。


 いまならどんなことでもできる気がした。

 気力が漲っている。


 ――が、気力ばかりではどうにもならない。

 体力が尽きて、走るのをやめたところで、具体的な方法を考えることにした。


 まず元手となる金が、大銀貨6枚と少々。7000弱ぐらいはある。

 これを3万ギルにしなくてはならない。それも可及的速やかにだ!

 彼女を一秒でもあんな檻の中に入れていられない。


 商人の口ぶりからすると、3万ギルから、多少はまけてくれそうな感じだったが――。

 いいや。3万だ。きちんと耳を揃えて持っていこう。すでに相当な値引きをしているようだから、これ以上値引いてもらえるという保証はない。なにより彼女に失礼だ。


 では、どうやって残り2万3000ギルを手に入れるのか。


 ギャンブル。――却下。

 全額すって、無一文になるのが目に見えている。


 就職。この異世界で職を見つけて、労働をして賃金を貰う。

 ――悪くはないが、手に職があるわけでなし、たいした職は見つからないだろう。彼女を助け出すまでに何ヶ月かかるか。いや何年か。


 考えろ。思考を柔軟にしろ。ここは現代じゃない。異世界だ。

 現代世界にはない、金稼ぎの方法があるはずで――。


「ああそうか……。冒険者だ」


 ちょうど目の前にあった建物を見て、そうつぶやいた。


 そこが「冒険者ギルド」であることは、一目見ただけでわかった。

 いかにもそれっぽい――鎧を着て帯剣した連中が出入りしている。


 さっそく中に入ってみることにした。

 建物に入ると、中にいた連中の視線がこちらに集まった。

 ……が、すぐに視線は離れていった。

 鼻で笑われたようだ。


 まあ仕方がない。剣もなく鎧も着ていない。街の人と同じ格好だし。


 建物の中には受付のカウンターがあった。

 そのうちの一つに歩いていった。


 やけに可愛い女の子が窓口に座っている。普段だったら見とれていたかもしれないが、いまは彼女のことで胸がいっぱいだ。他の女の子のことなんて、ちょっと気にすることは無理。


「冒険者になるには、どうすればいいでしょうか」

「ギルドへの登録が必要ですよ。冒険者カードの申請書に記入していただいて、あと、登録料の500ギルが必要です」


 500ギルか。必要経費だな。


「ええと……。字が書けないんだけど」

「代筆しますよ。お名前と年齢と、あと種族はヒュースでよろしいですね」

「名前はダイチで。年齢はさん……でなくて、ええと、ステータスオープン」


 ステータス画面を開いて、年齢を確認する。

 いまの外見上の年齢は36ではなくて、若くなっていたはずだ。年齢はステータスにたしか書いてあった。


「……25です」


 受付嬢は怪訝そうな顔をしたが、そのまま用紙に書きこんでいる。


「では、しばらくお待ちください」


 受付嬢は用紙を手に、奥に行ってしまった。だがほんの二、三分で戻ってくる。


「はい。こちらが冒険者カードと認識票です」


 免許証ぐらいの大きさのカードを渡される。あと二枚一組の金属札のついたペンダントも。

 カードのほうは、ちょっとホカホカしている。認識票と呼ばれたペンダントのほうも、なんとなく、使い道はわかった。いつも首に下げておけば、もし還らぬ人となっても、家族に知らせが届くというわけだ。向こうの世界にもこういうものはあった。軍人が身に着けていた。


「冒険者ランクはFからのスタートになります」


 受付嬢は、そう言った。

 これで終わりらしい。


 なんと。こんな簡単に冒険者になれてしまった。

 名前と年齢を告げて、登録料を払っただけだ。

 職業も言ってなかったし、住所――は、ああ、そうか。冒険者なんて定住していないほうが多いのだから、住所なんてないわけだな。


 どうもあっちの世界の癖が抜けない。

 あっちの世界だと、この手の登録には、住所と身分証明書が必要不可欠だったし。


「依頼を受けるには、あそこの掲示板?」

「はい。Fランクの人はDまでの依頼を受けられますけど。でも慣れてくるかパーティを組むまでは、Fランクにしておいたほうが無難です」

「ありがとう」


 掲示板に近づく。紙がたくさん張り出されている。……けど、読めない。


 掲示板のそばで、ずっと立っていた男性が、こちらを気にしている。

 代読を商売にしている人だろう。

 さっきの窓口でのやりとりを見ていれば、俺が読み書きできないのは明らかだ。


 しかし――。

 きっと有料の代読を頼むより――、ひょっとすると――。

次回、無双はじまります。

明日19時の更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ