#034.ハルナに許しを請う 「群れが大きくなるのは良いことですけど……?」
俺は宿への道を、とぼとぼと歩いていた。
はあぁぁぁ……。
やっちまったなあぁ……。
コイビトのできたその翌日にウワキとか。俺はなんて最低なやつなんだ……。
でもミランダは自分で言うだけあって、経験豊富だった。すごく上手だった。すごく気持ちがよかった。
路地の奥でというのも、はじめてだったがすごかった。
とにかく色々とスゴかった。
ミランダとは、初級迷宮のボスであるミノタウロスを倒す手伝いをすることを約束させられてしまった。
向こうは、はじめからそれが目的だった気がする。
気がする――とかじゃなくて、もう、確定だろう。
おっぱい攻勢から、なにからなにまで、はじめから童貞を殺しにかかってきていたわけだ。いや童貞ちゃうけど。童貞みたいなもんだけど。
はあぁぁぁ……。
一時の快楽に流されて、えらい約束をしてしまった気がする。
いや。ボス戦に付き合うのはいいんだ。
そのくらいのこと、見返りなしでもやるつもりだ。
問題なのは、見返りを受け取って引き受けてしまったという、後ろ暗い事実にあるわけで……。
はあぁぁ……。
足取りが重い。
すっかり遅くなってしまった。
それでもだいぶ早かったのだが……。そりゃもう、情けないぐらいに早かった。
宿ではハルナが待っていることだろう。
ミランダとのこと。ハルナには、いったい、どうすれば……。
1.黙っておく。
2.正直に話す。
「2」はないんじゃないかなー? 言ったら、終わる気がする。
昨夜、結ばれました。
今日、ウワキしました。
ああ……。最低だ。
しかし「1」のほうは、もっとない気がする。
黙っておいたら済むとか、そういう話ではないだろう。
不誠実すぎる。
やはりここは、茨の道かもしれないが、「2」の選択肢だろう。
正直に話すしかない。
すべて話したそのうえで、許してもらうしか……。
しかし……。
ああああああああ……。
俺はゾンビみたいな足取りで、宿へと歩いた。
◇
「お帰りなさいませ。ご主人様」
宿の部屋に帰ると、ハルナが出迎えてくれた。
その明るい笑顔を見ると、心がずきずきと痛んだ。
「あ、あの……、ハ、ハルナ……?」
俺がそう言いかけると、ハルナは、すんすんと鼻を動かして――。
「ミランダさんと一緒だったのですか?」
ずばり、言い当ててきた。
そうだ。ハルナは、すごく鼻が利くんだった……。
「そ、そう……。たまたま、そこで出会ってね……。あははははー!」
おい。俺。
正直に話すんじゃなかったのか?
なに、「ちょっとそこで会っただけ」の路線で誤魔化そうとしているんだ?
「いや。なんてことはないんだ。たいした話はしてなくて。ちょっと時間がかかっちゃったけど。あははは……」
おい。俺。
いまならまだ間に合う。
白状しろ! するんだ!
「うん……そうですね。ミランダさんならいいと思います」
ハルナは、そう言うと、俺にうなずいてみせた。
……えっ?
どゆこと? なにが「いい」って?
「……?」
俺はひどくマヌケな顔をしていたのだろう。
ハルナはもう一度、鼻を、すんすんと鳴らして――。
「ご主人様は、ミランダさんと性行をされてきたのではないのですか?」
「ひえっ――!」
俺は悲鳴を洩らした。
そうだった! ハルナは鼻がいいのだ!
男女の行為をしてきたかどうかなんて! バレバレだったのだ!
「ごめんなさい! その通りです! エッチしちゃってきましたああぁぁ――っ!!」
俺はジャンピング土下座を決めた。
床の板目に、額を擦りつけた。
「ご主人様……? どうされました?」
ハルナさん。怒ってる。めっちゃ怒ってる。
声が平静なぐらい、物凄い、怒ってる!
「すまん! 出来心で! 誘惑されて――ああいや! 彼女は悪くない! 俺がスケベなのが全部いけないんだ! とにかくすまん! 許してくれええ!」
俺は平に謝った。謝り通した。
「あのご主人様――! 頭をお上げください! 許すもなにも、私は――賛成ですと、申しあげております!」
「すまん! すまんかったー! 別れんといてくれーっ! たのむ!」
俺は床に額を擦りつけ――。
そして、ハルナの言葉に気がついて――。
「――えっ?」
顔を上げて、ハルナを見た。
「……賛成? なにに?」
「群れを大きくすることです」
「群れ?」
「いま私たち二人だけですけど。群れはもっと大きいほうがいいと思うんです」
「わかんないよ。……もっと説明して?」
「私の父母は、お互いに大きな群れを率いていました。二人が三日三晩戦って、お互いの力を認め合い、添い遂げることになったとき、その二つの群れは、さらに大きな一つの群れになりました」
「三日三晩って……、すごいな」
「ご主人様。そこはいま重要なところではありません」
「ごめん。続けて」
「もちろん信用できない人を群れに迎え入れることには反対ですが、ミランダさんならいいと思います。賛成です」
「……え?」
ごめんちょっとなに言ってるのか、わかんない。
ウワキがオーケーって言ってるように聞こえるんですけどー……?
「父の群れには、狼牙族の女性がたくさんいましたし。母の群れには、狼牙族の男性がたくさんいましたし」
うわわっ。そういうことか。
俺のノロくさい頭が、ようやく理解した。
ハルナの種族は――。狼牙族は――。一夫一婦じゃないんだ。
つまり、ハルナにとって、これはごく自然なことであって――。
「いや……。でもミランダはべつに、うちのパーティに入ろうっていうつもりじゃないと思うぞ? たぶんだが。初級迷宮のミノタウロスを倒すために、利用するぐらいな……。そんなつもりでいるんだと思うんだが……?」
俺はそう言った。
だがハルナは――。
「ご主人様は、女心というものを、よく分かっていらっしゃいません」
――胸を張って、そう言ったのだった。
「私、鼻がいいんですよ?」
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