#031.中級迷宮攻略中 「オークは美味しかった(金銭的な意味で)」
「前の三匹は引き受けます! ご主人様は奥のメイジを――!」
「わかった!」
さすがに中級迷宮。一層から敵も混成構成で出てきている。
いま戦っている相手は、オークが三匹に、オークメイジが一匹。
普通のオークなら、さっきも戦ったし敵ではないのだが、魔法を使うやつは厄介だ。
ハルナがオーク三体を相手しているあいだに、俺はオークメイジに向かった。
――といっても、オーク三体が邪魔をして、向こうの後列には攻撃できない。
オークメイジは杖を掲げて、魔法を唱えようとしている。
魔法には魔法だ。
「ファイアアロー!」
魔法の発動は、こちらのほうがかろうじて早かった。
炎の矢が、メイジにぶっ刺さる。
一発では倒せないが、ハルナが前衛のオークの一体を倒してくれていた。
俺は強引に前列を抜けて、後列へと斬り込んでいった。
魔法のダメージ+剣の一撃で、メイジは沈んだ。
あと残るはオークの二匹のみ。
ハルナと俺とで、一体ずつを受け持って、ざっくざっくと、二撃で沈める。
「ふう……。いまのはひやっとしたな」
俺は剣を鞘に収めつつ、そう言った。
魔法は便利で有利な攻撃手段だが、相手も使ってくる可能性があるわけだ。
魔法を撃たれていたら、と思うと、ちょっとひやっとした。
「すみませんでした。――ご主人様」
「なにが?」
ハルナが謝ってくるので、俺はそう聞き返した。
「ご主人様に指示など出してしまいました」
「いやいやいや。いいって。的確だったし、助かったよ」
ハルナが言ってくれなかったら、魔法をぶっ放されるまで気づかなかっただろう。
まず俺は、メイジがいたことに気づいていなかった。
鑑定すればオークメイジだと見えたのだろうが、変わった格好のオークがまじっているな、ぐらいしか思っていなかった。
「いえ。群れのリーダーはご主人様です。そのご主人様に差し出がましいことを言ってしまい、申し訳ありませんでした」
群れ。……か。
俺はちょっと苦笑した。
ハルナは狼牙族だ。たしかに狼なら〝群れ〟なんだろうなぁ。
「まあ二人きりのパーティなんだ。そういうのは気にしないでいこう」
「ですが……」
たしっ、と、ハルナのおでこにちょっぷを入れる。
「……? ……???」
目を白黒させているハルナに――。
「ハルナは真面目すぎ。――じゃあリーダーからの命令。もっと気楽にやろう。だが安全第一でな」
「は、はい……。わかりました。む、難しい……ですけど。が、頑張ります!」
ハルナは拳を握って、そう言った。
俺はまた苦笑した。
「あとその、メイジがいることに気づくのが遅れて、申し訳ありませんでした」
「いや俺もぜんぜん気づいてなかったし。おあいこだな」
「オークメイジのにおいは覚えましたので、次からは事前に判別がつけられます」
「おお。それはいい。……数とかも、わかる?」
「はい。……多分」
「じゃあ、メイジが二匹以上いる敵は避けよう」
いまの戦法だと、メイジは一匹しか相手できない。二匹いたら、どちらかの魔法を食らってしまう。
まあダメージはたいしたことがないと思うが、安全第一だ。
◇
メイジの混じった敵も狩れるようになったので、一匹だけの場合には、積極的に狩っていった。
魔法は攻撃を受けると発動に失敗してしまうものらしく、先手を取れば事実上、魔法を封じることができた。
逆に言うと、先手を取られるとこちらが魔法を封じられるということになるが……。
においで察知できるハルナがいるので、戦いは常に奇襲になる。
先手を取るのは楽だった。
魔法を封じるだけなら、魔法に対して魔法をぶつけるのではなくて、弓で撃っても良さそうだ。
そういえば狩人の職業をLv1で取ってあったっけ。
いったん転職してすこしLvを上げるべきか?
これまでの経験から、だいたい5Lvごとに強化スキルが取れるようになることはわかっていた。
そこまで上げて弓系の強化スキルを取っておけば、他の職業になっても役に立つかもしれない。
でも弓も、そこそこのお値段なんだろうなー。矢なんて消耗品だろうしなー。
やはり、まずは「金」だなぁ。先立つものがあってこその選択肢だなぁ。
何回かエンカウントして、狩ってゆくうちに、オークはわりと金になることがわかった。
魔石のドロップも、黒や茶ばかえたではなく、赤も混じっている。
装備品も、青銅だの革の盾だの、安物ばかりだが、けっこう落ちる。
中級迷宮に入るような冒険者ならガラクタで、持ち帰らずに捨ててゆくアイテムなのかもしれないが、『アイテムボックス』を持っている俺には、積載量の面でなんの問題もなかった。
すべて持ち帰ることにする。
そればかりか、迷宮内を歩いていると、捨ててある青銅の剣なんかを見つけることもあった。
ほーら、やっぱり捨てていってるー。
もちろん、ありがたく拾わせていただいたことは、言うまでもなかった。
「そういえば、ハルナ……」
迷宮を歩きながら、俺はハルナに話しかけた。
「はい。なんでしょう」
「まえに秘密があるって言ったよな。俺」
「はい。伺っております」
「さっきの駄天使――女神との話が、まあつまり、俺の秘密で――」
「いまひとつよくわからなかったのですが」
「つまり、色々あって、スキルポイントがたくさんあるんだ」
「たくさん……、というと、どのくらいでしょうか?
「300ちょっと貰っている。……まだ250以上は残ってる」
中層でオーク狩りをはじめてから、またLvがあがって、いま戦士Lv10となっていた。スキルポイントは252だ。
Lvが1あがるごとにスキルポイントは1補充できているので、使った分もだいぶ戻ってきている。
「300!? すごい……」
ハルナが絶句している。
そりゃあなぁ……。
スキルポイントだけでいえば、俺はLv340相当なわけだ。
この世界に「勇者」とかがいるのかどうかはわからないし、どんな強さなのかもわからないが……。
そのあたりに匹敵しちゃうんじゃないの?
ただし、いまのところ使い道はまだそれほどない。
あれこれ転職しつつ、使えそうなスキルは、大概取っしまっている。
スキルを取得するには、取得可能条件を満たす必要がある。
たいていの場合には、条件は職業とLvだ。一定以上のステータスが必要なものも、これまでの感触からすると、あるっぽい。
膨大なスキルポイントを持っていても、
とりあえず、戦士のLvが、5の倍数の10に到達したので、また新しいスキルが取れるようになった。
「お。剣術Ⅱ。取れるじゃん。――とっとくか」
スキルポイントは5なので、取っておく。
「普通は……、取得可能になっても、スキルポイントが足りなくて、なかなか取れないものなんですけどね」
ハルナが笑った。
好きな女の子に賞賛の目で見つめられるのは……。悪くない。
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