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俺、この人生が終わったら、異世界行ってSSR嫁と冒険するんだ  作者: 新木伸
ロリドラゴン編

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#029.中級迷宮に入ってみた 「オークは手応えがありましたか?」

 中級迷宮の入口は、街の中央をはさんで、初級迷宮とは反対側にあった。東と西が迷宮の入口だ。

 あともう一つ、北にもある。上級迷宮だから、いまのところ関係がない。

 東西と北にあるなら、南にもなにかありそうなものだが……。

 この街の迷宮は3つだけだと聞いている。


 入口には初級迷宮とおなじように、門番がいた。

 入宮届を書いて入る仕組みも、初級迷宮と同じだった。「ダイチ、ハルナ、一層から最大三層目程度まで。6時間ほど。夕刻まで」と記入しておく。


 人員の欄は、パーティ名で書けば全員の名前を書く必要はないそうだ。

 俺たちは二人だからパーティ名とかは必要なさそうだが、そのうち考えたほうがいいのかも?

 〝自由の翼〟――ぷっ、くすくす、みたいに、頑張りすぎないようにしよう。


 ところで、さっきから気になっていることが、ひとつあって――。

 ハルナのHPが……。「HP:124/125」と、1だけ減っているのだ。

 ヒールをかけてやるべきだろうか。どうなのだろうか。それはデリカシーに欠けるというやつだろうか。


 減っている原因を考えるに……。アレ……ぐらいしか思いつかない。俺のせいだなぁ。

 結局、へたれな俺はその話題に触れることはできなかった。


「じゃ。ハルナ。行こうか」

「はい。ご主人様」


 すでに剣を抜いて、尻尾をぱたぱた、絶好調で打ち振るっているハルナと共に、中級迷宮へと踏みこんだ。


    ◇


「中級迷宮のっ――、モンスターはっ――、初級とは――、攻撃力もHPも――、段違いですので――、ご注意――、くださいっ!」

「それほど――、強くは――、ない気も――、するけど」


 話しているあいだに戦闘が終わってしまった。


 最初の遭遇【遭遇:エンカウント】で、オーク五匹に遭遇した。

 ハルナは三匹。俺は二匹。


 二刀流のほうが手数が多い。ハルナのほうが、倒すモンスターの数がおのずと多くなる。


 俺は一回攻撃に専念していた。

 もう片方の手には剣を持っている。強いモンスターが出てきたときに、その攻撃を受け止めるためだ。

 『盾回避Ⅱ』にしてからガード率が上がったのが、体感でもはっきりわかる。

 盾が単なる革の盾で、ミノタウロスの攻撃ぐらいあると、受け止めきれなくなってくるのだが。


 ああ……。いい盾が欲しい。しかし手持ちの金はあまりない。


「ご主人様。オークはどうでしたか?」

「ああ。うん。……すこしは手応えがあったかな」


 初級迷宮のモンスターとは違って、一撃とまではいかないものの、二回目の攻撃で倒せなかったやつはいない。


「剣がドロップしています。あと魔石が……、すごいです、三つも落ちました」


 ハルナがオークのドロップ品を拾ってくる。

 五匹倒して、魔石が三つ落ちることは、凄いことなのか。

 たしかに最初の頃はぜんぜん落ちなかった。

 だが商人に転職して『ドロップ率向上』や『幸運向上』を取得してからは、ずっとこんな感じで落ちていた。


「鑑定。と……。青銅の剣か。あまり高く売れないけど、持って帰るか」


 しかし魔石だとかさばらなくていいのだが、剣のドロップとか、荷物に困るな。バックパックを整理してスペースを作らないと……。


「ご主人様は、鑑定スキルも使えるのですか?」

「ああ、これはスキルじゃないんだ。……ほら。この石」


 俺はポケットに入っている鑑定石を見せた。


「鑑定石ですね。すごいです。はじめて見ました……。何万ギルもするアイテムで、滅多に出回らないものだそうです」

「え? そんなに高いものなのか?」

「はい。そのように聞いています」


 鑑定石で鑑定石自身を鑑定すると、相場5000ギルって出るんだけどな。


「これ、初級迷宮の宝箱から出たんだよな。……そっか。そんなに高いなら、これを売っていれば、ハルナの身請けは簡単に出来てたのか」

「そんな! 勿体ないです! そんな貴重品!」

「いやいやいや。ハルナに比べたら、アイテムとか、どうだっていいから。どんな貴重品だって、その……、ハルナと比べられるようなものじゃない」


 俺はそう言った。

 途中からだいぶ恥ずかしかったが、勢いでハルナの手をぎゅっと握って、全部、最後まで口にした。


「あ……、ありがとう……、ご、ございます」


 あー、ぎゅっと抱きしめたい!

 長い髪と尻尾をもふもふしたい! それ以上のこともやりたい!

 ……が、ここは迷宮の中。ぐっと我慢する。


 だいじょうぶ。夜には……。また……。


「そういえば正体のわからないアイテムが出たときには、どうするものなんだ?」

「鑑定スキルを持っている人か、ご主人様のように鑑定石を使うか、さもなければギルドの鑑定サービスを使いますね」

「正体不明のアイテムっていえば、このあいだ出た、神のパズルとかいうものがあったっけ」


 俺はバックパックを置くと、底の方から、例の謎アイテムを取り出した。

 ミノタウロスから出た2個の石を、それぞれ取り出した。


「やっぱ、これ……、ギザギザのところが同じ形になってるよな……?」


 ためしに、二つをくっつけてみる。

 かちっ。――と二つの半球は、合体した。継ぎ目が消えて、完全な真球となる。


「すごいです。ご主人様! 神のパズルが解けるところ、はじめて見ました!」


 いや。解けるもなにも。パズルもなにも。

 ただ二つが合体しただけなんだけど。


「いや……。そんなたいしたことでも……。カケラが二つだけだったし」

「普通は何ピースもあるものだと聞きます。大賢者の解いたパズルは何百という破片に分かれていたそうです」

「ほー」

「難易度によって、解いたときの恩恵が変わるそうで――。あっ。――あそこにあるのが、解いたパズルを収める場所です」

「へ?」


 迷宮の通路の奥――。

 T字路の突き当たりに、石像があった。

 ツインテの女神が、腰に手をあてて、どやっ、というポーズを取っている。


「中級迷宮からは、各層に一つは女神像があります」

「そうなのか。セーブとかできるのか?」

「せえぶ? ですか?」

「ああ。いい。忘れてくれ」


 さすがにそれはないだろう。


「女神像の周辺は安全地帯になっているので、休憩する人も多いです。あと、解いた神のパズルを捧げて祈ると、恩恵が与えられる……こともあるそうです」

「こともある……って?」

「昔は、女神様は違う女神様で、そのときには確実に恩恵が与えられていたそうなんですけど。何十年か前に女神様が代替わりされたそうでして。こちらの女神様になってからは、その……、あまり恩恵が授けられることはなく……。というか、滅多にないそうで」


 俺は灯り石を近づけると、女神像をよく見た。

 憎たらしいぐらいの出来で再現されている。髪なんかも、髪の毛一本一本まで再現されているんじゃないかというほどの出来だ。

 石像じゃないのかもしれない。髪の毛の太さで石を加工することは、たとえファンタジー世界でも不可能だろう。

 なにより石像の頭の上には、「輪っか」まで浮かんでいた。よく見れば、なにも支えることのない空中に浮かび、そして固定されているようだ。


「ここに置けばいいのか?」


 台座のあたりに、パズルがちょうどすっぽりとはまる形の杯があった。

 そこに神のパズルを置く。


「それで、女神様をお呼びするときの祈りの言葉は――」

「知ってる」


 俺は言った。

 女神(、、)を呼びだす呪文を、俺は唱えた。

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