#028.一夜明けて 「中級迷宮を目指しましょう」
新章突入しましたー。
……が、しばらくは、ゆっくり、いちゃいちゃ展開です。
窓から入ってくる外の光で、目を覚ました。
また昼近くまで眠っていたらしい。
しかたがないか。昨日は遅くまで……。遅くまで――。
あれ? ええと? 遅くまで……、なんだっけ?
腕と胸に重さを覚えて、はっと目を向ける。
「ん……」
俺の腕を枕にして寝ていた女性が、ちいさく身じろぎする。
「あ……、お、おはようございます……。ご主人様」
目覚めたハルナは、俺を見て微笑んだ。
そして身を起こし、顔を寄せてくると、俺のくちびるに自分のくちびるを当ててきた。
俺が、えっ? という顔をしていると――。
「毎朝、キスをするようにと、ご主人様のご命令でしたので」
やや顔を赤くして、そう言った。
昨夜はいっぱいキスをした。キス以上のこともいっぱいやった。「毎日キスしてほしい」と言った覚えはあった。
ああ。「毎日」と「毎朝」とを取り違えたのだろう。あと命令ではなくて、お願いだったのだけど……。
「あの? なにか間違えてしまったでしょうか?」
「いや。間違えてないよ。嬉しくて……。毎朝続けてくれると、すごく嬉しい」
こんなん毎朝頼むに決まってるじゃんよ! 最高かよ!
俺もハルナもなにも身に着けていなかった。
ベッドのシーツと毛布に包まれているだけだ。
昨日、肌を合わせているというのに、彼女の裸は目にとても刺激的だった。
刺激的すぎて、またイケナイ気分になってきてしまう。
とりあえず、キスをもう一回。こんどは俺のほうから。
そして手で髪を撫で耳を撫で、もう片方の手では尻尾を撫でた。毛並みがふさふさだ。もふもふだ。
「……~~…」
口を重ね合ったまま、喉の奥で、彼女がくぐもった声をあげる。
いかん。本当にそんな気分になってしまう。
無理矢理にでも、口を離すことにした。
濡れた瞳で小刻みな呼吸を繰り返している彼女に――。
「今日も迷宮に行ってみようか」
――そう声をかけてみた。
「はい。ご主人様」
急にキリッとなった彼女は、口元を拭いながらそう言った。
雰囲気も一瞬にしてがらりと変わる。
ほんと戦うの好きなんだなぁ。
◇
「ご主人様の強さですと、中級迷宮に挑まれるのがよろしいと思います」
昼食を取りながら、これからのことを話した。
今日は問答はなしで、ハルナもはじめから椅子に座ってくれている。俺としては、恋……コイビトを床に正座させて自分だけ椅子で食事をするとか、そんなプレイを喜ぶ趣味はまったくないので、大変、ありがたい。
ハルナが、もう俺の彼……カノジョであり、コイビトであることは間違いがない。
あれの最中、うわごとみたいに、何度も「好きです」「好き」と言ってもらえていた。だから確実だ。相思相愛だ。つまりはコイビトだ。
ヨメ……であるかどうかは、まだ定かではないが。コイビトであることは間違いない。
ないのだ!
「中級迷宮のご説明が必要でしょうか?」
あ。いや。べつに考えこんでいたわけではないのだが。
思考があっちの世界に旅だってしまっていただけで――。
うちのヨメ……コイビトさんは、戦闘狂であらせられるので、いちばん喜んでくれる「デート」というのは、迷宮に潜ることだった。
俺的には、べつに数日は暮らせる金はあるのだから、ゆっくりのんびり、街を観光しているのも悪くはなかった。
いましたいことといえば、それは、いちゃいちゃラブラブしかなかった。
日のあるうちは、街の各所でいちゃいちゃしまくって、そして、日が暮れてからは宿の部屋でラブラブで……。
くうう~~~っ!!
俺! ばくはつしろ!!
しかし、ヨメ……コイビトさんは、戦闘がご所望だ。
戦闘の目的が、生活費を稼ぐだけであれば、安全かつ安心な初級迷宮でもいいのだが……。
あそこはもう、俺でさえ物足りないと思っているぐらいだ。
俺より強いハルナにとっては、もっと耐えがたいはずだ。
「中級か。しかしまだ早くはないかな?」
「背伸びをした冒険者が、初級迷宮も踏破していないのに挑んでこようとしてきた場合には、追い返されることもあります。ですが、ご主人様はすでに迷宮主を倒しているのですから、問題ありません」
君も、だけどね。
「むしろその迷宮の到達者が、同じ迷宮に居座りつづけることは、あまり褒められることではありません」
「そうなんだ?」
安全安心、だめなんかー?
いいと思うんだがなー。
「はい。初級者の狩り場を荒らすことになるわけですから」
「なるほど」
そっちのほうは考えていなかった。自分のことしか考えていなかった。
たしかにだめだな。反省。
俺たちは会話をしながら食事をした。
前回約束した「ローストビーフ」だ。
それ何キロ? とかいう量が二人のあいだにあったのだが、もう半分ほどに減っている。
俺は常識的な量を食べているだけだから、残りはうちのコイビトさんが食べているはずなのだが……。
説明を続けながら、いつ食べているのだろう?
天を衝く偉容のローストビーフだが、お値段、たったの10ギル。日本円だと1000円。
この世界は、食事は本当に格安だ。
「中級に挑むんなら、本格的にパーティを組んだほうがいいんじゃないか? ……仲間とかを作って?」
俺はオレガノのミランダたちの顔を思い浮かべていた。
いやー。だめだなー。Lv7とか8だもんなー。
こっちは俺があれこれ合わせると合計Lvは40ほど。
ハルナは獣闘士Lv25だが、俺と同じ数え方にすると、戦士Lv10と村人Lv5を足すから、やはりちょうど合計Lvは40だ。
表面上のLvでいったら、俺もじつは戦士Lv11だったりする。
この世界における実際の強さは、現在の職業のLvよりも、職業遍歴すべての合計のほうが重要らしい。
ただ、俺みたいにあちこちの職業をつまみ食いしている人は、なぜかいないようなのだ。だいたい、現在の職業のLvが、合計Lvとイコールと考えてよいらしい。
「パーティを組むのは……、あまりお勧めできないかもしれません」
「ん?」
「ご主人様の、その……、秘密が守れる人間ならいいのですが」
「あ……、うん」
「私のような奴隷なら、その点、安心です。ご主人様を裏切ろうとしたら、これ――ですから」
ハルナは自分の首に手をあてて、舌を突き出した。
それは奴隷あるあるのジョークなのかもしれないが……。ちょっと笑えない。
奴隷は命令に背いたり、明示的に命令されていないことでも、主人を裏切ったりすれば、首輪が絞まるのだそうだ。
しかしハルナは感づいていたんだな。俺が普通じゃないって。
そのへんに関しては、そのうち話そうと思う。
自分でもまだ整理がついていない。
なにしろ、この異世界にやってきて、まだ3日しか経っていない。
そのあいだに色々あって……、いや色々ありすぎて、混乱している。
しかしまあ、ハルナと出会って一緒になれた。――ということ以外は、ぶっちゃけ俺にとって、どーでもいいことではあるが。
ああ……。
ヨ……コイビトって、いいなぁ。
「なんでしょう?」
俺が頬杖をついて見つめていると、ハルナがきょとんとした顔をする。
「ハルナはたくさん食べるね」
「はい。お肉。おいしいです」
なんの屈託もなく、笑った。
おっと。こちらの世界では普通に褒め言葉となってしまうのか。恥ずかしがった顔を、ちょっと見てみたかったんだけどな。
よし……。
俺の当面の目標が決まった。
ハルナよりも強くなる!
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