#027.初夜
まっすぐに宿に帰った。
食事の時間だったが、そんなこと、どうでもいい感じで、二階の部屋にあがってゆくと……。
「お湯持ってきましたーっ!」
「お、ゆっ!」
兄妹が、たらいにお湯を用意してくれていた。
ずいぶんがんばってくれたのだろう。たらい二つ分もお湯が用意されていた。
にーっと笑いを浮かべる、その前歯の乳歯が、一本ずつ欠けていたりして、なんとも愛らしい。
朝、湯を頼んでいた。お駄賃もいっぱいあげていた。
邪険にするわけにもいかず、「ありがとう」と頭を撫でた。
「明日もまた頼むよ」
小銅貨3枚を渡して、もういっぺん頭を撫でてやって、くりんと頭を掴んで回れ右させてやって、背中を押してやった。
部屋のドアをぱたりと締めると、部屋の中には、二人きりとなった。
「せ、せっかくだから、湯を使うか」
「はい。お体を清めさせていただきます」
昨日と同じように、まず頭から洗ってもらった。
頭が終われば、次は体だ。
「お召し物を……」
「あ、ああ……」
どきどきしながら、服を脱いでゆく。
これは単に体を拭いてもらうだけなのだ、と言い聞かせているものの、動悸は一向に収まってくれない。
昨日と同じように、背中からはじまって、腕を拭き、後ろから手を回していって、俺の胸と腹とを拭ってゆく。
そのあいだずっと、彼女の体は俺の背中に密着してきていた。
もう辛抱たまらなかった。
「終わりました」
その声が聞こえた途端、俺の理性は決壊して、彼女を抱きしめていた。
「あ、あのっ……」
ハルナの耳の合間に、しばらく顔をうずめていた。
ぴくぴくと動く耳が、俺の頬をくすぐってくる。
「あの、匂いが……」
「いま清めてもらったじゃないか」
「いえ……、私の……」
あっ。そうか。
俺は今日も昨日も体を拭いてもらったが、ハルナは湯を使っていない。
迷宮で動き回って戦闘もしてきて、彼女も汗をかいている。二日続けて湯を使わないのは、異世界的にはどうなのか、よくわからないけれど。
特に今夜は、これからそういうことを、する……かもしれないのだし。
いや、たぶん、する……んだよな?
この流れって、そういう流れだよな? 間違いないよな?
経験ないから!
DとTの紋章を持つ男だから!
わかんねーよーっ!!
「今夜はたらいも二つありますし。よろしければ私も、身を清めたいのですが……」
「う、うん。そ、そうだね……」
「す、すいません……。あちらを向いていて頂けると……」
「だが断るッ!」
「えっ?」
俺はもう一つのたらいの前に陣取ると、彼女を手招いた。
はいこっち。はいこっちねー。
「だめです。ご主人様にそんなことをさせるわけには――!」
「だめ! するの!」
「はい……」
俺の気迫に押されたのか、彼女はおとなしく従った。
俺の時と同じように、まず髪から洗いにかかる。
たらいのなかに髪をつけて、わっしゃわっしゃとやっているところで――。
「ちょっと待って」
俺はそう言うと、バックパックの中から灯り石を取り出しにいった。
部屋に一個だけのカンテラが放つよりも、遙かに明るい光だ。
灯り石を部屋の隅に置いてくると、はっきりと物が見えるようになった。
「はい。頭。おわり。つぎは体だね」
「えっと……、自分で……」
「だめ」
ハルナは服を脱いでいった。
俺の目に背中をさらす。
「あの……。毛深いかもしれません」
「ん?」
「背中が……」
背中というよりも首の付け根のあたり。その部分がすこしだけ「毛皮」になっていた。
長い髪だと思っていたが、一部は髪でなくて体毛だったようである。
毛皮となっているのは、その首筋だけ。他の部分はヒュースと同じだ。
「ヒュースの方は、毛深い女性を嫌うことがあると聞きます。もしお嫌でしたら……」
「いや。ぜんぜんだいじょうぶだよ。さわり心地がよさそうだ」
首筋の毛皮部分を、タオルで拭った。
「ふわっ……」
ハルナは手で口を押さえた。
その手は、すこし前には胸を押さえていた。
ということは、つまり……。
俺は顔を近づけて、背中側から覗きこむようにして、フリーとなったハルナの乳房を盗み見た。
うわあああ。
すっごい! すっごいよ! これ!
おぱい! おぱ――! おぱっ!! おぱああ!!
おふぅ。
もはや感動を通り越して、これは神秘体験だよ!
「あの? ご主人様?」
「続けるぞ」
俺は何事もなかったかのように、そう言った。何事もなくはなかった。ぜんぜんなくもなかった。
だがしかし、声には1ミリも出さずに、そう言った。
ハルナの白い肌をタオルでこする。
奴隷生活が長かったのだろうか? まるで日に焼けていない。
「尻尾は洗ったほうがいいのか?」
「あっそこは……。は、はい、お願いします」
覚悟を固めた声で、ハルナが言った。
尻尾に触れていいのは、家族のほか、特別に心を許した相手だけ。
この世に生まれ出でて36年。いつかは〝彼女〟というものができると信じていた。いつかは俺にも――と、夢に描いていた。
実際の実績は、3万年ほど全敗だったようだが……。
こんなに美人で。こんなに従順で。こんなに強くて。そしてこんなに胸の大きな女の子がッ。
俺のことを信じて好意を持ってくれて、だいじな場所(尻尾)に触れさせてくれるなんてッ。
彼女いない歴3万年で、俺は、よかったのかもしれない。
迷宮のボス部屋で尻尾に触れたときの続きを行う。あの時にはお互い自制をしていたが、宿屋の部屋ではその必要もない。
尻尾を洗い終わった。
「前も、拭くよ?」
「……」
「いいかな?」
「……はい」
尻尾に触れているあいだ、ぴくぴくしていたハルナは、返事を返すのがだいぶ遅かった。
俺はタオルをいったん洗ってから、綺麗なタオルで彼女の体の前面を拭きにかかった。
彼女の背中に覆いかぶさるようにして、手を前に回す。
これはあくまでも体を拭いているだけ……。拭き清めているだけ……。そう……、拭いているだけなんだから……。
手の動きが変にならないように、最大限、気をつけた。
だがそうだとしても、体の前面を拭くわけだから、必然的に、俺の手は彼女の神々しくも聖なる膨らみをなぞることになる。
これは仕方のないことなのだ。仕方のないことで……。ううっ。すげえ重いよ! なんという重量感だよ!
「痛つつ……」
俺はうめいた。
「? ……どうされましたか? ご主人様?」
女の子には、きっとわかんないだろうな。興奮しすぎて、痛いなんて。
あまり胸ばかり拭いているのも変だ。下におりてお腹を拭いてゆく。
もっと下の部分は、さすがに自分でやってもらった。うん。もちろん俺が拭きたいに決まっているが、さすがに恥ずかしいだろうと思ったので遠慮した。
そこを自分で拭くときには、ハルナは最後に残った肌着も脱いだ。
最後に足を拭く。これは俺が拭いた。
すべてを終える。
おたがいに全身を清め終わった。
そしておたがいに肌着さえも身に着けていない。
部屋の中央で、俺とハルナは向かい合って立っていた。
胸と下を、ハルナは手で隠している。俺は隠すのは男らしくないと思ったので、手はまっすぐに伸ばしていた。
「ええと。もし嫌だったら、はっきりとそう言ってくれ。そうしたら俺は……」
もう頭がどうにかなってしまいそうだったが……。いまならまだ止まれる。やめられる。
「ひどいです。ご主人様。このままなのは……。後生ですから、男女の契りを……」
半分、泣きながら、そう訴えかける彼女に――。
俺の理性は――。
もう完全に――。
蒸発して――。
俺は彼女をベッドに押し倒した。
そして俺たちは結ばれた。
お待ちかねの初夜でしたー。つづきはノクターンで(嘘)
第一章「ハルナテーア編」完結しました。
次回からは、第二章「ロリドラゴン編」です。
更新間隔は、すこし落とさせていただきます。
ストックあるうちは、3日ごと更新で頑張ります!




