#026.勢いでボスまで倒すことになった 「あくまでデート中」
「ファイヤストーム!」
カエルの相手は面倒くさいので、範囲攻撃魔法で一網打尽にした。
「ご主人様! 攻撃魔法も使えたんですか!!」
「ああ。ついさっきな」
「……さっき?」
「ほら。ミノタウロスが湧いてくるぞ。――あとで話す」
「は、はい」
「ハルナ。ちょっと考えがあるんだが……。いいかな?」
「はい」
ミノタウロスは、このまえ戦った。ガチで正面から盛大に殴りあいをした。
Lv20越えの俺たち二人で、辛くも勝利を得た――という感じだった。
オレガノに聞いた話では、Lv10前後の6人パーティぐらいで挑むこともあるらしい。彼らももうすこしLvを上げたらチャレンジする気だったらしい。
実際に戦ってみた感触からすると、Lv20越えの前衛が1名以上と、がっちり回復しきれる優秀なヒーラーとが揃っていなければ、とても無理だと感じた。
ただしそれは、ガチで殴り合いをした場合の話である。
なにも相手の土俵で戦ってやる必要はないのではないか?
ようは勝てばいいのであるからして……。
「俺は魔法使いで行く。しばらく攻撃を引きつけておいてくれ」
そう説明しながら、防御魔法のプロテクションをかけておく。もうすぐボスが湧くのは確定事項だ。
「はい」
「三回くらい攻撃を引きつけてくれれば充分だ」
「何回でもお任せください」
「いいや。三回もあれば……、来たぞ」
ミノタウロスが出現した。
「こちらです!」
作戦通りに、ハルナが前に出て挑発を行う。
同時にミノタウロスに斬りつける。
心なしか、前回のときよりダメージが多い。ミノタウロスのHPの減り方が早い。
愛剣の竜牙点睛と虎牙花月を装備しているからだろう。
このまま普通に戦っても、危なげなく倒してしまえそうだったが――。
俺は考えていた作戦を試してみることにした。
「ストーンウォール!」
呪文を唱えた。
ストーンウォールは壁を作る魔法のはず。――出た。
ミノタウロスの後ろ側に石の壁が出た。高さは人の身長以上。ミノタウロスの巨体でも、そうそう乗り越えられない高さだ。
いいぞいいぞ。
「ストーンウォール!」「ストーンウォール!」
俺は魔法を連発した。こんどはミノタウロスの左右に壁を張る。
これでミノタウロスの三方向を壁で囲んだことになる。
そのあいだにハルナは三回ほど攻撃を受けていた。
だが三回とも避けきって、ノーダメージだ。
「ファイアウォール!」
またもやウォール系。しかしこんどはストーンではなく、ファイヤーだ。
ミノタウロスは三方向を壁に囲われいて、前方にはハルナがいて、どこへも動けない。
その足下にファイアウォールを出してやった。
最後に、トドメに――。
「ストーンウォール!」
ハルナとの間にも、壁を作ってやった。
これでハルナに攻撃することもできない。
「GUMOOOOOO――!!」
ミノタウロスの叫びは、どこか悔しそうに聞こえた。
◇
待つこと、しばし……。
「いい匂いがします」
「まあ……。牛だしな」
「倒れたら消えてしまうんですよね。残念です」
「夕食はローストビーフにしよう」
俺たちは、なーんにもすることがなく、ただ、待っていた。
ファイアウォールは、あまり火力が高くないのか、ミノタウロスのHPが多すぎるのか、時間がけっこうかかった。
グモー、グモー、とうるさかったが、HPがようやく尽きたらしく、あるとき、とたんに静かになった。
《Lvがあがりました。魔法使いLv6になります》
「あ。Lvがあがりました」
ハルナのほうもレベルアップしたか。これで獣闘士Lv25だな。
ストーンウォールも効果時間が終わったのか、崩れて落ちていった。
土のなかから、魔石とアイテムを見つける。
魔石のコアの色は緑。このあいだ青が出たのは、やはり相当な幸運だった模様。
あと、もう一つのアイテムは――。
《鑑定石で「???」を鑑定しました。これは「???」です。相場は????ギルです》
「やっぱこれだ」
謎の石を手にして、俺はつぶやいた。
このあいだミノタウロスを倒したときにも、似たような石が出ていた。ギザギザのついてる半球状の石で、鑑定してみると、へんなメッセージが出てくるのだ。
鑑定失敗なら、失敗と出るんじゃないかと思うのだが……。
用途がわからないし、値段もわからないので、ギルドで売却するのはやめておいたのだが……。
これで二個も集まってしまった。
「どうされました?」
「いや。これがな」
手にした石を見せる。
「神のパズルですね」
「パズル?」
「うまく合致する破片を集めて、ひとつの球体に戻し、しかるべき場所に収めると、神からの恩恵を受けられると聞いたことがあります。強いモンスターからは希に出ることがあるそうです。例外的にダンジョンのボスからは、それほど強くなくてもドロップ確率があるのだとか。だから出たのかもしれません」
「ほう」
ん? そういえば、前に手に入れたやつのギザギザと、いま手に入れたこれのギザギザって、なんか似ているような気も……。
まあいいか。部屋に置いてきているから、あとで試してみよう。
「時間は、まだ大丈夫かな?」
「まっすぐ帰るだけでしたら、ぜんぜん間に合います」
「ふう。さすがにすこし疲れたな。ちょっと休憩していこう」
俺は床に腰を下ろした。
ボス部屋は、モンスターを一掃してしまえば、なにも湧かない安全地帯となる。
次のポップ時間まではきっかり一日あるそうだし。
ハルナは俺の隣に座りにきた。
「ご主人様。私はお役に立てているでしょうか?」
「ん?」
ああそうか。「ご主人様のお役に立てるところをお見せしたいです!」――ってことで、それで迷宮に来たんだっけ。
「ああ。ハルナはすごく役に立ってくれているよ」
ちょっとこういう言い方ってどうなんだろう? なんか偉そうで。――と思いはしたが、たぶん、ハルナはこう言うと喜んでくれるだろうと思った。
ぱたぱた。ぱたぱたぱた。ぱたぱたぱたぱた。
尻尾が大騒ぎしている。
表情にはほとんど変化がない。ハルナ。めっちゃカワイイ。尻尾。触りたい。
「尻尾って……、触らせてもらってもいいかな?」
「え?」
尻尾の動きが、ぴたりと止まった。
うわぁ。俺、なんか、やらかしちゃったっぽい!?
「ご、ご主人様はヒュースですので、ご、ごご、ご存じないと思うのですが。狼牙族は、尻尾に触れるのは家族だけで……」
「そ、そうなんだ……」
「か、家族というのは、父母兄妹以外には、新たに群れを作って添い遂げるその相手も含まれておりまして……」
「そ、そうなんだ……」
つまりプロポーズですか。そうですか。
「……」
「……」
二人、沈黙が満ちる。
「あ、あの……」
先に沈黙を破ったのは、ハルナのほうだった。
「ご主人様が、もし、お嫌でなければ……。先ほど言って頂いた、〝一生側に〟というお言葉が、そ、そういうことでしたら……。触って頂けると……、嬉しいのですが」
無論。俺に。否やはない。
俺は、そっと、尻尾に触れた。
「あっ……」
ぴくん、と、ハルナが身を固くする。
だが優しく何度も、根元のほうから先端まで撫でているうちに、ハルナの体から力が抜けていった。
「ご主人様……、優しいです」
うん。優しくするから。
「耳にも触れたい」
「どうぞ」
ハルナのケモミミに触れる。ふさふさだ。すべすべだ。
耳の内側に指を入れると、外とも違った手触りの毛が生えていた。
「あっ……」
また声が洩れる。
ハルナの肩を抱いて引き寄せると、その口を塞いだ。
キスははじめてじゃなかった気もするが……。しっかり覚えているのでは、これが最初だ。
俺は震えていた。ハルナも震えていた。鼓動の音が、ばくんばくんと響いている。雷のような音量で聞こえる。
ティーンエイジャーの小僧みたいに、俺は恐れおののいていた。17歳の犬耳美少女と、俺、いまキスしてる。
「狼牙族はどうかわからないが。ヒュースでは……、ていうか、俺の生まれた遠い国では、キスというのは、家族でもなく、もっとずっと特別な人としかしない行為だ」
ハルナが、はっとした顔になる。
こんどは彼女からキスしてきた。――情熱的に。
舌が入ってきて、俺は目を白黒させた。
◇
二人、なにも言わずに、黙々と歩く。
迷宮の入口に向かって最短コースで進んでいた。
迷宮の中では、さすがにキス以上のことに及ぶわけにはいかず……。
入宮届に書いた「3時間」もそろそろ迫ってきているし、捜索隊なんかを動かして、人様に迷惑をかけるわけにもいかないので、急いでいた。
決して他の意味があったりしない。絶対だ。
俺たちは手を繋ぎあっていた。
いわゆる〝恋人繋ぎ〟というやつだ。指と指とを絡み合わせるように、しっかりと結びあっている。
モンスターが出た。
――ざしゅっ。
俺は一撃のもとに倒した。ハルナとの手は繋いだまま。
またモンスターが出た。
――ざしゅっ。
こんどはハルナが一撃のもとに倒した。俺との手は繋いだまま。
しかし、いま倒したやつって――ゴーレムだったんじゃないか?
あのクッソ硬いやつを、一刀のもとに斬り捨てて――。
三層、二層、一層、と、つぎつぎに踏破していって、たぶん申告時間に遅刻することなく、迷宮を出た。
門番の人に、変な目で見送られた。
俺たちはずっと手を繋ぎ合ったままだったからだ。
次回、手を恋人繋ぎしたまま、宿の部屋へと、ゴー。
ようやく〝初夜〟です。
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