#025.ハルナと二人で迷宮に潜る 「デート中」
こんどは入宮届、なるものを書いて出しておいた。
「ええと、メンバー……、ダイチ、ハルナ、2名。目的階層、1~3の予定、と。あと予定冒険時間か……」
ハルナに顔を向ける。
「夕方までだと、何時間くらい?」
「3時間少々だと思います」
「じゃあ3時間で」
入宮届を渡された門番は、なにか怪訝そうな顔をしていたが――。
同僚が肘をつついて、「迷宮主を二人で倒したやつらだよ」と耳打ちすると、納得した顔になっていた。
迷宮に入って、第一層の通路を歩きながら、ハルナに聞くと――。
「なんで変な顔をされていたんだ?」
「二人だけなのと、3時間で三層までというのが、無茶に見えたのではないかと」
「ああ。なるほど」
オルガノたちのように、六人ぐらいでパーティを組むのが普通らしい。
「ご主人様。モンスターです」
ハルナが突然足を止めると、そう言った。
「わかるのか?」
俺はなんの気配も感じていない。まわりにはなにも見えない。
「はい。匂いで」
さらにハルナは、すんすん、と、もういちど鼻を鳴らし――。
「この先五十メートルぐらい先の、たぶん小部屋のなかに、エバーリーフが二体とジャイアントラットが一体ですね」
すごい超精度で、そこまで言い切る。
なにかを期待する目を向けられているので――。
「ハルナはすごく役に立つね」
「ありがとうございます」
五十メートルぐらい歩くと、たしかに小部屋があった。ここまでくると俺でも気配がわかる。かさかさ、と、部屋の中から音がしている。
「開けるぞ」
ドアを一気に開いた。
「おまかせください!」
ハルナが飛び出した。
あっという間に、三体は、ばらばら。
一度も攻撃を食らわず、回避さえせず、一方的に三体を一撃死させていた。
このあいだは剣が一本だったが、いまは両手に剣を持っている。二刀流だ。
青い剣と赤い剣で、それぞれ、竜牙点睛、虎牙花月とか、ゴツい名前がついている。
あの二本って、かなりの名剣に見えるんだけども……。本当に25000ギルで買えるものなのだろうか? あの奴隷店、大丈夫か? 怖くて鑑定できていない。
「ハルナ。あまり先走るな」
相手が三体だと、一回は攻撃を食らう危険があった。まあ攻撃を食らっても、ハルナなら回避するのだろうけど。
「もうしわけありません」
一度、叱って耳をぺたんと寝かせておいてから、こんどは――。
「しかし、ハルナは強いな」
「いえ。たいしたことではありません」
尻尾は、ぱたぱたぱたと、絶好調。耳もぴんと立ち上がっている。
ハルナは顔と声はクールなのだが、尻尾で感情が丸わかり。そのギャップが萌える。
迷宮内での〝デート〟は順調にいきそうだった。
しかし、なにをしたいか聞いておいて正解だったわー。
「ご主人様のなさりたいように」のクエスチョンを食らっていたら、俺が自分で選ぶアンサーは、噴水広場でハルナとデートする――とかいうもので、100点満点は取れていなかった。
ドロップした魔石を拾いあげて、先に進む。
「……2匹くらいか?」
ハルナの耳が、ぴくっと動いたことで、俺にもわかった。
ハルナが頷き返してくる。
いちいち口で言ってもらわなくても、こんどからは大丈夫そうだ。
「こんどは一緒に戦おう」
「はい」
通路にいたエバーリーフ二体を、お互い、一体ずつ攻撃する。
ハルナも一撃。俺も一撃。
からん、と魔石の転がる音が、俺たちが駆け抜けた背後で聞こえた。
「ハルナは、戦って……もう長いのか?」
「狼牙族は子供の頃から戦う訓練をします。――はい。十数年ぐらいですね」
「ご主人様も、子供の頃からですか?」
「いや、俺は君に出会ってからで……」
「えっ?」
しばしの間……。
俺は失言してしまったことに気がついた。
「あ、あの? 私の勘違いでしたら、すいません……。戦いはじめて、まだ、二日ということでしょうか……?」
「あ、ああ……、まあな」
「すごい! すごいです! ご主人様! そんな話は、どんな英雄譚でも聞いたことがありません!」
「こ、これにはちょっと理由があってね……。理由っていうか……、ちょっと秘密っていうか……」
すいません。スキルポイントで殴りつけるような戦いかたをしていましたーっ!!
「あとで話すよ」
「すごい……、すごいです……。私のご主人様は……、やっぱり凄い人でぇ……」
「ハルナさん?」
「は、はいっ!」
「気を引き締めていこう」
「はいっ」
◇
一層では物足りないので、二層に下りることにした。
二層のゴブリンは、俺が遭遇したときには1匹から3匹までの小集団だったが、ハルナの鼻で案内されると、大部屋で数匹以上の大グループと遭遇することもあった。
「これで全部だな」
8匹という群れを退治しおわって、びゅっと剣を振って血を切った。
「さすがにLvがあがりますね。……二人ですから」
ハルナのLvが上がったらしい。獣闘士Lv24だな。
俺のほうは、迷宮に入ったときには戦士Lv8だったから、もう3つほど上がっている。いまは戦士Lv11だ。
「やっぱ人数って関係あるの?」
「はい。パーティを組んでいると、経験値がパーティメンバーで分配されます。6人なら6等分。4人なら4等分です。そのほかに四人以下のパーティからは、少人数ボーナスが付くという話を聞いたことがあります」
じゃあソロボーナスっていうのもあるのかな。
俺のときに、やたらとレベルアップが早く感じたのは、通常の6倍+ソロボーナスをもらっていたからか。
「こちらの奥と、右手の先にゴブリンがいます」
ハルナがいると、獲物探す手間さえいらなくなる。さくさくと狩っていった。
二層のゴブリンを絶滅させてしまったっぽいので、俺たちは三層に下りることにした。
◇
「ゴーレムか」
「ゴーレムですね」
めずらしくハルナが発見できなかった敵は、第三層の難敵――ゴーレムだった。
俺とハルナ、二人であたかも示し合わせたように剣を鞘に戻した。
そして拳を構える。
この際なので、このまま拳闘士スタイルで行くことにした。
「ご主人様は、拳闘士のスキルも持っていらっしゃるのですか?」
感激されて悪い気はしないが、同じようなスキルはハルナだって持っている。
彼女のほうは、『爪闘技』というスキルだ。生来の爪を強化するものらしい。
しかし丈夫な爪だ。ゴーレムの硬い体を切り裂いているし。
「さて。三層も終わっちゃったけど……。どうしようか?」
「ご主……、じゃなくて。どういたしましょう?」
俺もハルナもノープラン。
「時間はどのくらいだろ?」
「半分ほど残っていると思います」
迷宮の中では時間感覚がわからなくなるものだけど。ハルナにはわかるらしい。かなり確信のありそうな答えが返ってきた。
「いっそボスも倒してゆくか?」
冗談でそう言ったつもりだったのだが……。
「そうですね……。もうリポップしている頃ですね……」
ああ。戦闘狂の人に、そんなこと言うものじゃなかった。
冗談として受け止めてもらえなかった。
二人、目線を交わしあう。
「四階はゾンビが臭いから、パスしよう」
「同意です」
俺たち二人は、駆けだした。
◇
四層をほぼ駆け抜け、五層を進んでいるときに、俺はいったん魔法使いに転職しておいた。
INTが上がったせいか、これまで見えなかった「魔法使い」という職業が、いつのまにか転職可能職業一覧に現れていた。
『火魔法』のスキルを取ったら、単体攻撃の呪文である「ファイヤー」を覚えた。Lvをあげると、「ファイヤーストーム」、「ファイヤーウォール」と覚えていった。最初から覚えていた『火魔法』のスキル以外に、『土魔法』のスキルも取って、こちらも同様に「ストーンバレット」「サンドブラスト」「ストーンウォール」まで使えるようにしておいた。
そして俺たちは、ボス部屋に突入した。
ちょっと調子づいていやしないかと思いもしたが――。
ま、なんとかなるだろ。ハルナと一緒だし。
今回の話はどうだったでしょうか!
面白かった!
更新がんばれ!
二人の〝初夜〟まであと何日だ! 早く読ませろ!
どれか思っていただけたなら、下の評価ボタンをクリックして応援してくれると、
す~~~ごく、励みになります!
よろしくお願いします!




