#024.奴隷を解放するかどうかで、ハルナと揉める 「私はご主人様の奴隷でいたいんです!」
「さて、これからどうしようか?」
買い回りしてきた品々を、いったん宿に置いてきてから、俺はハルナにそう聞いた。
まだ夕暮れまでにはすこしある。
「ご主――」
「ご主人様のしたいように、というのは、なしね」
「えっと……」
ハルナは右を見て――。
「その……」
左を見て――。耳も左に向けて――。
「奴隷が自分から意見を言うというのは――」
両手の指先を突きつけ合わせながら、言いにくそうにしている。
だけど俺としては、言いたいことを言って欲しいと思っているんだよね。
「その奴隷っていうのもそうなんだけど……。解除したりできないものかな?」
「捨てないでください!」
急に蒼白な顔になって、ハルナが叫んだ。
「し、失礼しました……。い、いえっ……、ご主人様が、ふ、不要というのでしたら……、それは仕方のないことで……」
「いやいやいや! ちがうちがう! ちがうから!」
それは誤解だ。
「ハルナには、一生側にいてもらいたいと思ってる! あ、いや――もちろんハルナが嫌でなければ、なんだけど」
勢いで告白めいたことを言ってしまった。
ハルナはぴくっと耳を動かしただけで、その話題はスルーして、さっきの俺の質問に答えてきた。
「……奴隷契約は、主人が望めば解除することもできます。長年仕えた奴隷は、その功労を認められて、解放されることもあると聞きます」
なんだ。できるんじゃないか。
「いますぐ解放することって、可能なのかな?」
奴隷商人のところに行けばいいのかな? そういうスキルがあるのかな?
「私はまだ、なにもお役に立てていません。道理が通りません。私を買い上げたお金が無駄になってしまいます」
「そういうことじゃないんだ」
首輪を付けているっていうことに、罪悪感があるっていうか。
ええと、その、好きになった女の子に……という意味だけど。
「あの……、できれば、このままでお願いしたいのですけど……」
自分の首輪に手をあてて、ハルナは言った。
「解放されても、私は絶対に逃げたりしませんし。ご主人様を裏切ったりすることも絶対にありません」
「あ。うん。……ありがとう」
「絶対」を二回も言ってもらえた。さっき「一生側にいて欲しい」と口走ってしまったわけだが、それについての返事を遠回しにもらえたような気分で――ハッピーだった。
運命の人に出会えた! ――っていう確信は、こちらだけのものではないかと、すこし不安だった。向こうは、ぜんぜん、そんなことを思っていないのかも? ……とか。
「つまり、この首輪があってもなくても、同じということです。同じならば、このままでなんら問題ないと思うのですが。――いえすいません。ご主人様に意見するなんて」
そういう遠慮をなくしてほしいんだけど。
俺が「どうしても!」という顔で押し黙っていると、ハルナはもじもじとしはじめた。
「あの、えっとその、狼牙族は……」
「狼牙族は?」
「主人と認めた相手に従うことが、誇りです。ですからその、この首輪は、ご主人様の奴隷であるという証ですので……。嬉しいと申しますか……。ご褒美的な感じで……」
そうまで言うなら、仕方がないと思ってしまった。
昔、実家で飼ってたワンコを思い出す。首輪とリードを口にくわえて持ってきて、「おさんぽ!」と、喜んでいたっけ。
「じゃあ。かわりにひとつ。これからは、遠慮はなるべくしないでくれないか。したいこと。思ったこと。なるべく言うように」
「そ、それは……」
「じゃあ奴隷契約解除する」
「ど、努力します……」
「じゃあ、ハルナはこれからなにがしたい?」
「ご主人様のなさりたい――」
言いかけて、はっ、と口を両手で押さえる。
俺は笑った。ハルナも笑った。
「ご主人様に、お役に立てるところをお見せしたいです!」
こんどは、ちゃんと、自分のしたいことを言ってくれた。
「……というと、ダンジョン?」
そう聞くと――。
尻尾が、ぱたぱた、絶好調になった。
「二人だけだけど。どうだろう?」
俺は冒険者としては、一夜漬けの素人だ。
たぶん地道にLvを上げてきたハルナのほうが、遙かに先輩だ。だからハルナに聞いてみた。
「初級迷宮の浅い階層ならなんの問題もないかと思います」
お墨付きをもらったので、ダンジョンに行くことに決めた。
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二人の〝初夜〟まであと何日だ! 早く読ませろ!
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