#022.冒険者ギルドで大型新人扱いをされる 「到達者はもれなくCランクです」
冒険者ギルドと、服屋と、武器屋とが残った。
ちょっとハルナの尻尾の振り乱し具合から、これは後回しにできないと感じた。なので先に冒険者ギルドに寄ることにした。
カウンターに立ち寄ると、見知った受付嬢が、向こうから話しかけてきた。
「あっ。――ダイチさん。救援報酬が出ていますよ」
「救援報酬?」
俺は受付嬢に聞いた。たしか名前は……、エマさんだったはず。
一見すると十代の小娘に見えるのだが、しかし、その堂に入った仕事姿勢から、二十代の歴戦のお姉さんにも見える。
女性の年齢は化粧で化けるというし、俺ごときには、彼女の年齢はまったくわからない。
「はい。〝自由の翼〟を救援された報酬です。昨日はバタバタしていましたし、査定額も決まっていませんでしたので、お渡しできませんでしたけど」
「自由の翼?」
「オルガノさんの――」
「ああ。あのおっさんのパーティか。ずいぶんカッコいい名前なんだな」
「皆さん。パーティ名は頑張りますよね。頑張りすぎちゃった名前がついていても、聞かないふり、気づかないふりをしてあげるのが、人の情けというものですよ。……うふふっ」
エマさんは指先を口元に持っていって、謎めいた微笑みを浮かべた。
なるほど。厨二的な名前を結成時に勢いでつけてしまって、あとで黒歴史化するというパターンだな。
俺の場合は、救援依頼とかを見て助けに行ったわけではなくて、偶然、助けてしまったわけだけど。それでも報酬はもらえるらしい。
もらえるものは遠慮なくもらっておく主義だ。
「ところで、そちらの方は――?」
エマさんがハルナを見て聞く。
「彼女は俺の――」
「ご主人様の奴隷です。ハルナといいます」
ここは、「恋人」とか「ヨメ」とか紹介させてほしかった。
……いやまあ。本人の意思を直接確認したわけではないんだけど。
……てゆうか。そんな度胸はありそうにないので、結局、ごにょごにょ言ったあとで、奴隷と紹介するハメになったのだろうけど。
「ハルナはすごく強いのに冒険者じゃないので……。登録をしておこうかと思う。〝自由の翼〟……ぷぷっ、の救援にも協力してもらったんだけど。彼女には、その救援報酬ってのは?」
「ごめんなさい。依頼達成時点で冒険者でない方には、報酬はお支払いできない規定でして……」
「そうか。ならいい」
「でもそのかわり、登録料の免除と、あとスタート時の初期ランクには融通を利かせられます」
「ほんと?」
「ええ。初級の迷宮主を討伐されるような実力者の方を、Fランクに留めておくほど、ギルドは人材が余っているわけではありませんので。もれなくDランクからのスタートです。またダイチさんもDランクにランクアップします。冒険者カードをお貸しください」
ハルナが申請書を書き、俺は冒険者カードを出してきて渡す。
エマさんが書類を持って奥に引っこむとき、ドアが閉まりきる前に、独り言が聞こえてきて――。
(やたっ! 期待の大型新人の担当になっちゃったーっ!! 恋人付きなのが難だけど、しっかり繋ぎとめておかなくちゃーっ!!)
聞こえてますよ……。エマさん。
救援報酬というのをもらった。大銀貨1枚で1000ギル。ううむ……。多いのか少ないのか、相場がわからない。
魔石(青)の買い取り価格、5万ギルをもらったあとでは、小銭に思えてしまうんだが……。あれはかなりラッキーだったらしい。迷宮主からでも、青は滅多にドロップしないそうである。
冒険者カードが手元に戻った。ランクのところに「D」と書いてある。なにかの魔法具なのか、書き直したのではなく、文字が変わっている。向こうの世界にも、暖かくなって返ってくるポイントカードがあったが、あんな感じ。こちらの冒険者カードも、書き換え後はほんのりと暖かい。
ハルナは手にしたカードを、じいぃっ、と見つめている。
尻尾がぱたぱたと振られているから、ご機嫌なのはわかる。
「私……。剣でお役に立てるのですね」
長いこと冒険者カードを見つめていたあとで、ハルナは、そう言った。
「うん。ハルナにはたくさん働いてもらうから」
しばらく冒険者を続けることになると思う。
昨日、一緒に戦ってわかった。ハルナは凄く信頼の置けるパートナーだった。
「奴隷になって、こんな日が来るとは思っていませんでした」
「大袈裟だって」
「いえ。これまでの主人は、皆、私に戦うことよりも他の……あっ、いえ失言でした。忘れてください」
ううっ……。いまのなんだろう? なにを言いかけたんだろう? すげえ気になる。
かといって聞けないし。
俺が悶えそうになっていたところに、横から声が投げかけられた。
「おい! ダイチ! こっちだ、こっちー!」
ギルドの奥から、ジョッキを掲げてくる中年男がいた。
昼間っから酒盛りをしているのが普通なのかどうかはわからないが、とにかく飲んでる一団がいた。
冒険者ギルドの奥は酒場になっているらしい。冒険者専用酒場といったところか。
中年男はオルガノだった。俺が助けた相手だ。
明るい場所で見るのは初めてかもしれない。迷宮を出て、冒険者ギルドで別れたあと、それっきりだった。
明るいところで見ても、やっぱ、冴えないおっさんは、冴えないおっさんだった。赤い顔になって、口元に泡のヒゲがついていると、もっと冴えなく見える。
いやおっさんっていっちゃいかんのだろうな。たぶん俺の本当の年齢よりすこし下なんだろうしな。
歳が近いぶん、気安く対応できる。
「昼間っから酒とは。駄目な人間になるぞ」
「なにをいう。人生ってのは、美味い酒を飲むためにあるんだぜ。――おっと、そうそう、おまえに礼を言わないといけなくてな」
「おかげさまで俺たちもDランクだ!」
オレガノと他の二人の男たちが――三人揃って、冒険者カードをぴらっと見せる。
ランクDと、そこには書いてある。
ボスの間に落ちた三人組は、ちゃっかり、ボスを討伐したことになっているらしい。
到達者というのは、迷宮のボスを倒したパーティ全員に与えられる称号だ。
あのときには、俺とハルナと、この三人とでパーティを組んでいた。
しかし、礼を言うのって、そっちのほうかよ。
まあ助けた件に関しては、道中でさんざん礼を言われたが。
「ほんと! ずっるいんだから!」
だん、と、ジョッキワインをテーブルに叩きつけたのは、女性シーフのミランダ。
明るいところで見ると、迷宮内で見たときよりも美人に見える。
やや褐色がかった肌が、活発そうなショートヘアと、よく似合っている。
「あたしたちだけ、Eランクのままでー。自分たちだけ、ちゃっかりランクアップしちゃってさー」
「はっはっは。実力だな」
「どこが実力よ。辞退しなさいよ」
「するわけねえだろ。こんな棚ぼた。もったいねえ」
「こんの寄生虫。ボスを倒したのって、ダイチさんとそっちのハルナテーアさんの二人だったんでしょ?」
「ハルナ、で結構です」
「んじゃハルナ、こっちこっちー! そこ座って! 座って!」
空いている席を勧められて、困っているハルナにうなずいてやる。
奴隷は同じ席に座らないという習慣は、彼らは気にしないようだ。
俺もオレガノの隣に座ろうとしたら、ミランダの手に、ぐいーっと引っぱられて――ミランダと、あとフィアといったか、地味子ちゃんの魔法使いとのあいだに座らされてしまった。
「さあ。……飲んで飲んで。こっちにお酒追加ねー!」
「昼間から酒は勘弁だな。……ミルクを頼む」
「私も。ご主人様と同じものがいいです」
「もうー、おこさまー」
しかし、ミランダって、ぐいぐい来るよなー。
このあいだもそうだけど、押しつけられてくるおっぱいの弾力が、弾力が、弾力ががががが……。
「ミランダ。やめて。ダイチさんが困ってる」
黒髪セミロングの魔道士のフィアも、俺の反対側の腕を取る。こっちはこっちで、控えめおっぱいが当たってくるんですけどー。
こっちもこっちで、困るんですけどー。
ハルナに助けを求める目線を送ったが、無駄だった。
唐揚げっぽい肉に、はむはむとかぶりつくのに夢中だ。さっきあれだけ肉を食べたのに……。まだ足りなかったようである。
ハルナは細身なのに食いしんぼうキャラだった。
「嬢ちゃん、食え食え。今日は俺のおごりだ! なにしろ達成者様だしなーっ!! がっはっは!!」
ハルナはおっさんどもに大人気。まあ、命の恩人なわけだし。あれだけの強さを見せれば、おっさんどもに気に入られてもしかたがない。美人だしな。
「まったく調子いいんだから。あんたら、なんにもやってなかったって聞くじゃない」
「いいや。やってたね。心の中で、そりゃもう全力で応援してたね!」
実際には、薬草を使ってもらったり、ひょろひょろした火魔法で援護して、ミノタウロスの気を逸らしてくれていたり。……すこしは援護してくれていたかな? いなくてもほとんど変わらなかったかな?
彼らが自分たちの実力でミノタウロスを倒すのは、ずいぶん先だと思う。
Lv20ぐらいの前衛職がいなければ、まず、あの強烈な一撃に耐えられないし……。ああでも、パーティ構成によっては、呪文やスキルで弱体化させることもできるわけか。
パワーキャラのボスキャラと、なにもガチで正面から殴り合いをしなくてもいいわけで……。
オルガノのところのパーティは、六人パーティだった。
前衛は少なめだが、魔法使いが二人もいるようだし、なにか別の作戦を取れるのかもしれない。
俺とハルナは、ヨッパライと美人さんたちに囲まれて、賑やかな時間を過ごした。
今回の話はどうだったでしょうか!
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二人の〝初夜〟まであと何日だ! 早く読ませろ!
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