#021.ハルナと二人で買い物をする 「到達者だなんて! ぜひご贔屓にーっ!」
食事を終えて店を出る。
支払はあれで大銅貨1枚――10ギルだった。日本円なら1000円だ。
異世界の食べものは超格安だ。
――とはいえ、ミランダが最低限の生活費一日分で10ギルと言っていたから、一回の食事としては、かなり豪華なものということになる。
異世界で暮らすのは、わりと簡単っぽい。
毎日、迷宮に入って、魔石をたった一個、拾ってくるだけでいい。
色は黒でもいい。それで10ギル――。1日分だ。
茶や赤ならもっといい。それぞれ2日と5日分だ。
1日の仕事が、ほんの十数分もあったら終わってしまいそう。
まあ……。魔石も最初の頃は、本当にドロップしなかったし。
『ドロップ率向上』を取る前は、何十体やってようやく1個とかいう割合だったし。
1日10ギルの生活費っていうのも、本当の底辺生活なんだろうし。
ハルナと二人分だから二倍になるし。
異世界生活は、そんなにチョロイわけでもないのだろうが……。
それでも俺は、将来と未来に対して、なにも不安を感じていなかった。
そばに女の子がいる。俺に微笑みかけて――はいないが、クール好意的な顔を向けてくれている。
「さて。次はどこに行こう」
「ご主人様の行かれたいところへ」
だよねー。
ハルナに聞くと、やっぱりそういう答えが返ってくる。
「服を買わなきゃならないんだよな」
ぼそっと、独り言のようにつぶやいてみる。
そしてハルナの尻尾の「ぱたぱた」を観察。
うむ。服屋はけっこうポイント高いらしい。
「あと日用品を買うのは道具屋とかかな」
ぱたぱたは、それほどでもない。
「ああそうそう。武器と防具も見に行かないとな」
ぱたぱた! ぱたぱた! ぶっちぎりで、もう、ぱたぱた!
ハルナは意外と戦闘狂だったようだ。
◇
ハルナの期待を裏切るようで悪かったが、まず日用品の店から回ることにした。
所持金に余裕があるとはいえ、そう裕福なわけでもないので、まず必要不可欠、かつ、少額なところを先にした。
俺の知っている店というと、選ぶような選択肢はない。
例のソバカスが似合う女の子が店番をしている道具屋に向かった。
「あっ――お兄さん! よかった生きてたんですねー! そしていらっしゃいませー!」
笑顔で迎えてくれたのはいいのだが、なにか物騒なことまで口走っている。
「いや。いやいや……、生きてるから」
「だってほら。お兄さん、いかにもはじめて迷宮に潜ります、みたいなカオをしていましたしー。ソロだったしー。十人中九人は戻ってこないんですよねー。そういう人って。そして店番をしていると、へこんだカンテラを売りに来る人がいたりなんかして、あれあれ? このカンテラ見覚えがあるな。このあいだ売ったやつだー! とか、店番をしているわたしは気づいちゃったりするわけです」
さすが異世界。さすが迷宮のある街の商売っ娘。シビアな価値観ごちそうさま。
「カノジョさんですかー?」
俺の後ろについて店に入ってきたハルナに、目ざとく見つける。
「ご主人様の奴隷です」
ハルナがクールな顔でそう言った。
そこは肯定して欲しかった。しかし生真面目なハルナのことだから、きっとそう答えるだろうと思ったら、予想通りの返答。
「気の利いたチョイスで助かったよ。減った物の補充を頼む。紙は多めに。あとこんどは、なにか灯りになる物も――」
「え? そんなとこまで潜ったんですか?」
「迷宮主? とかいうの? 倒してきた……んだよな? あれそうだよな? ハルナ?」
「はい。ご主人様は迷宮のボスであるミノタウロスを倒されました。〝到達者〟となられています」
「それを言ったら君もだろ」
「私は冒険者ではありませんので。到達者の資格は得られていないと思います」
「あれ? そうなの? じゃああとで冒険者ギルドにも寄ろうか。冒険者の登録をしておこう」
「よろしいのですか?」
「ああ。もちろん」
俺はうなずいた。ハルナの尻尾を見ると、ぱたぱたぱたぱたと、ちぎれんばかりに振りたくられている。本日一番の大振りだ。
やっぱ戦いたい人らしい。
「はわわわ! なにこれヤバい! Lv1だと思ってたら大物だったーっ!」
そんな声がカウンターの中から聞こえる。
完璧な営業スマイルがはげて、地がはみ出している。
まあ、あの時点ではLv1だったんだけどね。ある意味彼女の勘は正確だったといえる。
「マギーですっ! どどど、どうかご贔屓にっ!」
手をぎゅーっと握られる。
看板娘の全開営業スマイルには、惚れちゃいそうな出力があった。
惚れんけどね。
「マギーのおすすめ日帰りセット」の中身を補充してもらい、マップ用の紙を多めに入れておいてもらう。
あとは、最下層では灯りがなくて難儀したので、灯り石とかいうマジックアイテムの一種を、わりと高かったものの、一個、買った。
なんでも「永久灯火」とかいう呪文をかけた単なる石ころらしい。その呪文が僧侶系なのか魔法使い系なのかはわからないが、使えるようになったら、そのへんの石ころにかけて大量量産しよう。売って大儲けしよう。
それから緊急時用の保存食をすこし。水もいるので水筒も一つ。飲まず食わずはもうカンベンだ。
薬草を減らした。すでにヒールが使えるようになっているので、そんなに大量には必要ない。非常時用の数個のみにする。そして緊急時用のポーションは使っていなかったぶんがそのまま残っている。
あとは、迷宮の奥で休憩や夜営するための装備も必要になってくるかな。毛布の一枚ぐらいはないと――。
持ち物がだいぶ増えてしまった。バックパックに入らなくなってしまっている。ここからどう減らすか、知恵を絞っていると――。
「ご主人様。バックパック二つに分ければよいかと」
そうだった。もう一人じゃないんだ。
じーん、と感動を覚えつつ、俺はもうひとつバックパックを出してもらった。
俺とハルナでおそろいだ。
アイテムボックス系のスキルとか、空間魔法とかが欲しい。
そういうチートとは無縁なんだよね。
ただスキルポイントが膨大にあるばかりで。
「ありがとうございましたー!」
店を出るとき、全力でお見送りされてしまった。上客認定された模様。まあ今後も利用させてもらうけど。
「あと! 〝到達者〟も使っていたマギーのおすすめセットって! 宣伝してもいいですかー! ありがとうございまぁーす!」
苦笑しながら店をあとにした。
今回の話はどうだったでしょうか!
面白かった!
更新がんばれ!
二人の〝初夜〟まであと何日だ! 早く読ませろ!
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