#018.売買契約 「これでハルナの所有者は貴方様となりました」
「はい。三万ギル。確かに頂きました」
一枚、一枚、硬貨を数え終わってから、奴隷商人は、そう言った。
小銀貨も三〇〇枚もあると、数えるだけでも大変だ。
地上に戻ったときには、明け方近くになっていて――。
まず冒険者ギルドに出頭して、集まりはじめていた捜索隊の面々に頭を下げた。――下げたのは俺たちでなくて、おっさんたちだが。
俺は大量の魔石を、冒険者ギルドで換金した。
ほとんどは、黒茶赤といったあたりのクズ魔石で、たいした値段にはならなかったが……。
いや〝クズ〟とか言っちゃいかんな。おっさんやミランダたち、低レベル冒険者の収入源だ。
黒魔石の10ギルもあれば、安宿の宿代と一日の食事が賄えるそうだ。赤50ギルで一週間近い生活費になると考えれば、〝クズ〟とかいったらバチがあたりそう。
しかし俺の〝目的〟のためには、数だけはたくさんあった黒赤茶の魔石は、あまり役に立たなかった。
初級迷宮では、おもにその三種の魔石しかドロップしないそうである。
それ以上の色が落ちるのは、『幸運』だのといった特殊なパッシブスキルを持っている場合と、ボスモンスターを倒したときだけだそうで……。
このボスから出た魔石のコアが、なんと青色で――。
魔石(青)の買い取り価格――。なんと五万ギル。
俺は広間で戦った五人での山分けを主張したのだが――。
おっさんたち三人は、辞退した。命を助けてもらって、もらうわけにはいかないと、その一点張りだった。
「あとこれは、彼女の取り分です」
俺はさらに二万五千ギルほどをテーブルに置いた。小銀貨にして二五〇枚。
かなり高額だった魔石(黄)と、魔石(橙)と、その他、クズ魔石――失礼――を、全部合わせると、それなりの額にはなっていた。
「これは受け取れませんな。商品に対して価格以上の対価を受け取っては、商人の信用に関わりますので」
「迷宮の最下層でボスモンスターを倒したという話はお話しましたね。その時点における彼女の所有者は貴方なわけですから、彼女の取り分は、当然、貴方が受け取るべきです」
向こうは頑とした顔で拒否ってきたが、こっちも、そこは譲れない。
俺が生きて帰れたのも、ハルナが助けに来てくれたからで……。そのハルナに対して、救助に行く許可を出したのが、この人だからだ。
なんとしてでも、受け取ってもらわなければ……。
俺と奴隷商人、二人のあいだで火花が交わされているのを、ハルナが、はらはらした顔で見つめている。
「埒が開かないようですので……、こういう案はどうでしょう?」
商人が、やがてそう言った。
「なんでしょう?」
「ハルナ。着替えてきなさい」
「はい」
ハルナが一端、部屋を退出する。数分ぐらい待っていると、やがて現れた彼女は――。
ふわっとしたドレスを身に着けていた。獣人種専用のドレスらしく、尻尾がごく自然に収まっている。足元は動きやすそうな編み上げブーツ。そして腰には二本の剣を差している。
彼女、二刀流だったのか……。迷宮では剣を一本しか持っていなかったが。
「こちらの服と装備一式、剣を二本――。こちらすべてで、二万五千ギルでお買い上げいただきたいと思います」
うーん……。
高いのか安いのか、ぜんぜんわからん。手に持ってみないと鑑定石で鑑定もできない。
「この剣……、売らないでいてくれたんですね……」
と、ハルナが言った。奴隷商人は目を細めると、うなずいた。
おおっと。ハルナが奴隷落ちするまえの所持品かっ。
なら安いさ! 価値がどうとかいう話じゃない! 安いに決まってるじゃないか!
「了解した」
それから俺は、奴隷の所有についてのこまごまとした話を聞かされた。
ハルナの分の人頭税とやらを、1ヶ月以内に払わねばならないらしい。
正直、頭に入ってこなかった。
胸の中はしあわせいっぱい。
俺にもついにカノジョが……、いやヨメさんか?
スキル『ヨメクル』で導かれたんだから、ヨメでいいのかな? いいんじゃないかな?
ヒャッホー!
苦節36年。俺。ついにヨメさんができる。
……いや? 苦節3万年なのか?
まあどっちでもいいが。
「……と、注意点は、以上です」
奴隷商人の話が終わった。ろくに頭に入らなかったが、ハルナが聞いてくれていたはず。
最後に、所有権の書き換え。――なるものを行った。
奴隷商人がなにかのスキルを使うと、それで書き換えが済んだらしい。
「ステータスをご確認ください」
そう言われたので、確認してみる。
「ステータスオープン」
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名前:ダイチ
種族:ヒュース ♂
年齢:25
職業:戦士Lv8
HP :87/87
MP :25/25
STR:68
CON:71
INT:16
WIS:23
DEX:42
AGI:41
CHA:28
LUK:22
装備 :鉄の剣、革鎧、スモールシールド
スキルポイント:251
取得可能スキル:(一覧)
スキル:
『大陸共通語/読み書き』『盾装備』『鎧装備』『転職』『剣術』『剣術Ⅱ』『盾防御』 『盾防御Ⅱ』『魔石ドロップ率上昇』『ギルドロップ率上昇』『アイテムドロップ率上昇』『幸運上昇』『魅力上昇』『腕力上昇』『敏捷上昇』『体力上昇』『器用さ上昇』『フットワーク』『集中』『罠発見』『罠解除』『鍵開け』
呪文:
「ヒールハンド」「ヒール」「ホーリーシンボル」「プロテクション」「リムーブポイズン」
転職可能職業:
「戦士Lv8」「平民Lv5」「狩人Lv5」「修行僧Lv5」「僧侶Lv5」「商人Lv1」「農民Lv1」「木こりLv1」「猟師Lv1」「格闘士Lv1」「シーフLv1」
所有奴隷:(一覧)
▽▽▽
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「所有奴隷」という欄ができていた。
そこの中を見ると――。
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所有奴隷:ハルナテーア
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確かにハルナの名前があった。
「また主人は奴隷のステータスを見ることができます」
「ええと……。ステータスオープン・ハルナ」
これでいいのかな? と思ったら、さっそくステータスが開いた。
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名前:ハルナテーア
種族:狼牙族
年齢:17
職業:獣闘士Lv23
HP :115/115
MP : 78/78
STR:131
CON:120
INT:85
WIS:98
DEX:87
AGI:250
CHA:48
LUK:20
装備 :バトルドレス、ブーツ、竜牙点睛、虎牙花月
スキルポイント:0
取得可能スキル:(一覧)
スキル:
『爪闘技』『剣術Ⅲ』『盾装備Ⅱ』『鎧装備Ⅲ』『二刀流』
『腕力上昇Ⅱ』『敏捷上昇Ⅳ』『体力上昇Ⅲ』『器用さ上昇Ⅱ』
『フットワーク』『超集中』『ド根性』『嗅覚Ⅲ』
『チャージ』『ソニックブーム』『フィニッシュクロウ』『獣咆哮』
『大陸共通語/会話』『大陸共通語/読み書き』
『礼儀作法』『もふもふ』
転職可能職業:
『戦士Lv10』『村人Lv5』
所有者:ダイチ
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おおう。なんか、しゅごい。
Ⅲだのついてるスキルがある。Ⅳさえある。
それ以外にも、知らないスキルがたくさんある。
あとなんだ『もふもふ』って?
驚くべきは、Lvの高さだ。
いまの俺より彼女のほうが明らかに強い。
あと年齢17歳だったのか……。
うっ……。17歳のヨメさんをもらってしまった。
いやまだヨメさんと決まったわけじゃないんだけど。彼女の気持ちはまだ聞いていないんだけど。
しかし俺のほうには「運命の人」と出会ったという感覚があったわけで、彼女もまたそうであったと願いたい。
ちら、とハルナを見る。彼女が顔を赤らめていることに気がついた。
「あっ、ごめん! 勝手に色々と見ちゃって」
「い、いえっ……。ご主人様にお目汚しを……、あ、あのっ、はしたないスキルがありましても、ご容赦ください……」
えっ? はしたないって、どれっ!? どれのことっ!?
「所有権の移転は、ご確認できましたでしょうか?」
奴隷商人の声で、俺とハルナは、我に返った。
「は、はい。……確認しました」
「それでは。ハルナは二度戻ってこないように。……ダイチ様におかれましては、他の奴隷のご用命がありましたら、いつでもどうぞ」
「は、はい」
そういえばハルナは何度も返品されていたと言っていたな。
見れば、尻尾がうなだれている。感情が尻尾に出るんだ。おもしろい。
「いままでありがとうございました」
ハルナが最後に頭を下げる。
奴隷商人は、目で優しくうなずいただけだった。
次回、ハルナとイチャつきます。
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二人の〝初夜〟まであと何日だ! 早く読ませろ!
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