#017.謎の助っ人と話す 「探している人がいるんです」
ミノタウロスを倒した。
しかし、最後までグモーとしか言わなかった、こいつ。
やがてその巨体は、他のモンスターとおなじく、黒いもやになって消滅した。
あとには魔石と、なにかアイテムが落ちているのが見えた。
ボスモンスターのドロップアイテムだ。かなり期待できそう。
「ふう……」
俺は剣を肩でかついで、大きく息をついた。
けっこう、接戦だった。MPも半分以上使ってしまった。
しかしボスを倒したのに、レベルアップのメッセージが聞こえてこない。
そうか五人パーティになっていたからか。
経験値も五等分される仕組みなんだろうな。
しかし、いまの戦いは、本当にヤバかった。
彼女が――ハルナさんが助太刀に入ってくれなかったら、俺一人では、到底、無理だった。
ザコ相手にちょっと無双できていたからといって、調子に乗りすぎていた。
ボスモンスターは格が違った。
「助かったよ」
俺は彼女にそう言った。
ボスモンスターを倒したというのに、彼女はまったく緊張を解いていない。
顔は暗くてよく見えないが、きっと表情のほうも浮かない顔をしているはず。
なにが不満なのだろう?
「あの――、人を探しています。この迷宮に来ている人で、たぶん冒険者になっていて、それで――」
彼女は慌てた調子で、そう言った。
「俺が会ったのは……、そこの三人と、あと上の階でもう三人と……」
「その三人ならわかります。〝あの人〟とは違います」
彼女にとって大事な人らしい。〝あの人〟という、その言い方で、なんとなくわかってしまった。
なんでか、ちょっと嫉妬してしまった。
「探しているのは、なんて名前の人?」
「えっ……?」
彼女は言葉に詰まっていた。
「ええと……、匂いなら……、わかるんですけど……」
なに言ってるのかわからない。
「おーい、オルガノ――」
「おおい! すげえぜこれ! 青だ! 青の魔石が出やがった!」
「オルガノ」
「あとこっちのアイテムも! すげえぜこいつは――!!」
「おい」
俺は小石をぶつけた。
おっさんは我に返った。
「……す、すまねえ」
「オルガノ、あんた、迷宮で誰か他の人間に出会ったか?」
「いいや? 誰にも会ってねえな。あんたら二人だけだが」
「そうですか……」
気落ちした声。
なんだかすごく罪悪感を覚えてしまう。
「なあ? なんで探しているやつの名前も知らないんだ?」
「あ、あのそれは……」
彼女はしどろもどろになっている。変だということに自分でも気がついたのだろう。慌てた様子が、ちょっとかわいい。さっきまでの戦闘中の凜々しい感じとギャップがあって、かなり萌え。
しかし……。名前も知らない人のために必死になれるとか。純粋な人なんだなぁ。……と思う。
くそう。誰なんだ。その羨ましいやつは。ちくしょう。
それにしても、命の恩人の顔をろくに見てもいない。暗すぎる。
あのまま一人でボス戦をやっていたら、俺はたぶん死んでいた。だから彼女は命の恩人だ。俺的に、そう決定した。
「なあ? 誰か灯りを持ってないか?」
「ああ。魔法なら……、おい、ヒューバート」
おっさんが仲間に言う。魔法使いが、なにか唱えて、空中に光の球を浮かばせる。
おお。あれは便利だな。魔法使いの呪文か。こんど魔法使いもLv上げしよう。
光を得て、彼女の顔がよく見えるようになって――。
「えっ?」
「えっ?」
俺と彼女は、向かい合ったまま、しばらく固まっていた。
「えっえっ? えーっ! なんで君が!?」
「えっ? あの? あのだって――!? 匂いがぜんぜん違くて――!!」
二人、絶句していた。
何秒か、何十秒か、お互いの顔を見つめ合うばかり。
「あの? お二人は……、お知り合いで?」
おっさんのむさい顔が視線の間に割って入ってきて、俺たちは正気に返った。
「あ……、ああうん……、そう……」
「はい……、私の……、探していた……、人です」
俺はうなずいた。彼女もうなずいた。
そういえば彼女が探している人の名前も知らないとか言ってしまったけど、俺だって、彼女の名前を知らなかったっけ。
「俺はダイチ。君の名は?」
「ハルナテーアです。よろしければハルナとお呼びください。――ご主人様」
ご主人様、ときたか。……まいったね。
◇
帰り道は、楽勝そのものだった。
俺とハルナがいれば楽勝だった。
途中でミランダたちのパーティに追いついた。またもや遭難しかかっていたので、合流できてよかった。
ハルナも彼女たちの存在には気がついていたようだが、俺を探すのを優先して、接触はしていなかったそうだ。
ハルナは、俺が遭難したということを聞きつけて救助に来たようだったのだが、遭難していたのはおっさんとミランダたちのパーティであって、俺ではなかった。
なんでも、迷宮に潜るときには、「入宮届」なるものを出すきまりになっているそうだ。
出さなくても罰則はないが、その場合は、帰還時刻を過ぎても捜索隊が出ることはない。
俺はそんなものの存在を知らなかったので、当然、出しているわけがなく――。おっさんたちは、当然、出していた。
だから明日の朝に出るという捜索隊は、おっさんたちのためのものだった。
もっとも、明日の朝では、全員が死体になっていただろうけど。
「いやー! 本当に助かったわー。こうして生きていられるのも、ダイチさんのおかげねー」
ミランダが必要以上にくっついてくる。
「二度も命を救ってもらっちゃったんだから! お礼しないとねっ!!」
俺の腕に、おっぱいをぐいぐいと押しつけてくる。シーフの彼女は露出度が高めで……、普段だったら、頭の中がそれ一色になっていたところだ。
しかし、俺にはもう〝運命の人〟がいるわけで……。
こんなおっぱいごときで、鼻の下を伸ばすわけには……、わけには……。
おっふ!!
「離れてください。ご主人様が困っています」
ハルナが助けてくれた。俺とミランダの間に、体をぐいぐいと割りこませて、強引に引き剥がす。
さっきまでシーフ娘のいたポジションに、獣人娘の体がやってくる。
「あの……、臭いがうつっちゃうから……」
俺はまだ毒ガエルの粘液を浴びたままだ。毒は中和したが、悪臭はそのままだ。
俺の匂いを追跡してきたはずの彼女が、俺を認識できなかったのも、そのせいだった。
「かまいません」
彼女はキリっとした声で言った。
やべえ。惚れちゃいそう。もう惚れているけども。
「でも……。お恥ずかしい限りです。すべて私の勘違いでした」
ハルナはそう言った。
彼女は俺が遭難したと勘違いして、俺を助けるために迷宮のこんな深層までやってきてくれたのだ。
「いや。そんなことないって。嬉しかったよ」
「いえ。ご主人様の強さを信じていませんでした」
まあ、逢ったときには正真正銘のLv1だったし。
「信じます。……と約束したのに」
あれは助けるというほうの約束の話であるから、ノーカウントではないかな。
「でもさすがご主人様です。私の加勢など必要ありませんでした。先ほどは大変失礼しました」
「いやいや。そんなことないって。あんなボス。俺一人じゃ無理だったから。助かったよ」
「そんな……。お役に立てたのなら、光栄です!」
「あのう? イチャつくのは、迷宮出てからにして欲しいんですけどー?」
ミランダの視線が痛かった。
ああ。うん。すまん。
俺たちは、迷宮の出口に向かった。
次回、ハルナの身請けをします!
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二人の〝初夜〟まであと何日だ! 早く読ませろ!
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