#016.ボス戦 「すげえのが出てきた」
〝ミノタウロス〟っていう、ファンタジーで有名な名前を聞いただけで、俺にはその強さというものが、だいたい予想ついてしまった。
そこらのザコなら一撃死させるぐらいの強さがあるのだろう。
つまり、俺と同じだ。
「あんたらは逃げろ!」
俺は冒険者たちにそう叫んだ。
カッコをつけたわけじゃない。そのほうが合理的だと思ったからだ。
鑑定している暇はないが、上にいたミランダがLv7シーフだったから、Lvはどうせ似たり寄ったりだろう。
一人、魔法使いがいるようだが、MPはゼロだろうし、戦力として期待できない。
彼らが一撃死するような攻撃を受けても、俺なら耐えられるはず。
さっきレベルアップしたので、MPは満タンに回復している。僧侶の呪文の「ヒール」もある。
「ボス戦からは逃げられない! この部屋の人間が全員死ぬか! ボスを倒すか! どちらかだ!」
なんとまあ。
自動的に一蓮托生となってしまったわけだ。
「俺がやる。あんたらは手出しするな!」
「あ、ああ……、わかった……」
そう声が返る。魔法使いらしき男と、もう一人のなんの職かわからない男も、うなずく気配が――。
「助太刀いたします!」
――と、別なところから声が掛かってきて、俺は混乱した。
ここに落ちたのは、三人じゃなかったのか?
部屋は暗くて端のほうまでは、よく見えない。
「いまの声も仲間か?」
「いいや! しらんやつだ!」
どこの誰かはわからないが、この部屋にいる限りは、もはや一蓮托生だ。
《オルガノからパーティの参入問い合わせがきています。パーティに入りますか?》
なんかシステムメッセージがきた。
オルガノって誰だ?
「パーティに入ってくれ! そっちのあんたも――!!」
おう。おっさんか。――って、俺の本当の年齢より年下なんだがな。
俺がYESと念じてから、すぐに――。
《ハルナテーアがパーティに参入しました》
――そんなシステムメッセージが聞こえてきた。
謎の助っ人さんは、ハルナさんっていうのか。
ここまでソロで下りてきていたっぽいから、かなりの強者だろう。
こんな切迫した状況であるが、俺はパーティプレイに喜んでいた。
これまでずっとソロだったもんなー。ちょっと感激だ。
「背中から! おねがいします!」
ハルナは、そういうとミノタウロスに斬りつけていった。
ミノタウロスが激昂して、ハルナのほうを向く。
俺は瞬時に理解した。
大斧を振りかぶったミノタウロスが、ハルナにその斧を振り下ろす直前で、俺は無防備な背中に一撃を入れた。
「GUMOOOOOO――!!」
ミノタウロスのやつは、大声を上げて激昂した。
ハルナへの攻撃を取りやめて、俺のほうに向き直る。
そして大きく振りかぶ――ったところで、ハルナの一撃が、また、その背中をえぐる。
なるほどな。無限ループのハメ技だな。
デカくてノロくて頭の悪い相手だからできる技だな。
「GUMOOOOOO――!!」
「一撃! 耐えてくれ!」
「承り!」
俺はこんどは一撃を入れるかわりに、呪文を唱えた。
「プロテクション」
たぶんこの種の魔法なら、パーティ全体に効果が――。
おお。
思った通りだった。
魔法の光が五つの場所で見えた。パーティ全員にかかった。
俺が魔法を唱えていたために、こんどのターンでは、ミノタウロスは斧を振り下ろしてしまった。
――が、ハルナはひらりと避けている。
暗くてよく見えないが、鎧も身に着けていないっぽい。
回避全振りのタイプか。当たって耐えるのではなくて、当たらずに避けるほうか。
だが俺のほうは、あんなに華麗に回避はできないだろう。
「GUMOOOOOO――!!」
こんどこそ、ミノタウロスの無防備な背中に一撃を叩きこむ。こちらを向かせる。
「GUMOOOOOO――!!」
ミノタウロスが大きくふりかぶる。ハルナがその背中に攻撃を加えるが――。
ダメージが足りなかったのか。今回はミノタウロスは、そちらに向かなかった。
「ぐおっ!」
一撃がきた。
盾で防ぎ――きれなかった。
ダメージがきた。
痛ってえ……。ひさしぶりに痛みを感じた。最初のエバーリーフとの戦い以来だ。そしてあの時よりも、痛みはデカい。
自分のHPを確認する。
《名前:ダイチ HP:55/87》
うげえ。30近くも減っている。
ボス強すぎじゃね? パワーレベリングをして合計Lv21の俺が、一撃でこんなにHPを減らされるとは――。
そうか。装備か。
ボスに挑むのに、革鎧と革の盾なんていうアホはいないだろう。
さすがの俺もボス戦まではやるつもりはなかった。もしやるとしても、いっぺん地上に戻って、稼いだ金で装備を整えてからにしていた。
てゆうか、ソロで戦う相手でもないよねー。
そんなボスを相手にしても、ハルナは、臆した様子もなく戦っていた。
「こっちです!」
背中への大ダメージで、俺からターゲットを引き剥がし、自分へと向ける。
こんどは俺がダメージを与えて、ターゲットを自分に向ける。
「あなたは回復を!」
そうしたいのは山々だが、そうもいかない。
俺が1ターン休むと、彼女が攻撃を受けることになる。
「それは俺らにやらせてくれ」
おっさん――オルガノが、薬草の包みを持って近づいてくる。俺の体に押しあてる。
なるほど。
その手があったか。
なにも自分で使わなくてもいいわけだ。薬草は。
「GUMOOOOOO――!!」
俺とハルナは、ボスモンスターを交互に翻弄していった。
こいつは力は強いが、頭は悪いらしく、ずっと同じパターンにはまったままでHPを減らし続けた。
ボスモンスターとして、ちょっとそれはどうなの? と思わなくもなかったが――。
そういえばこの迷宮は〝初級〟だっけか。そこのボスなら、こんな程度だろうか。
それでも攻撃を完全に封じられたわけではなく、タゲを取り損ねて、俺もハルナも何回かは攻撃を受けた。
ハルナもだいたいは回避していたものの、一度、まともに食らってしまった。
俺なら二、三回は耐えられる一撃だが、軽装の彼女には一撃で深刻なダメージが入った。
薬草では足りそうになく、俺の呪文の「ヒール」を数回ほど連打した。
そのあいだは、オレガノのところの魔法使いが持たせてくれた。『瞑想』で回復させていたMPを使って一発だけ魔法を撃ちこみ、怒らせたミノタウロスを引き連れて広間を逃げ回ることで時間を稼いでくれていた。
やがてミノタウロスの馬鹿みたいに多いHPも、だいぶ尽きてきた。
そろそろ残り10%ぐらいだろうか。
「このボスは! 残り10%になると『超回復』がはじまります!」
彼女が言った。
「しばらく引きつけていてもらえますか!?」
「了解っ!」
『超回復』がなんなのかわからない。なぜ引きつけておかなければならないのかもわからない。
だが俺は彼女の言葉に従った。
これまでの戦いの中で、不思議な信頼関係が結ばれていた。
ミノタウロスの攻撃を、一回、二回と、受け止める。
俺のHPでは、三回続けて受け止められるかどうかは微妙なところだ。
ハルナはそのあいだ、なにをしていたのかというと――。
「――チャージ!」
その場を動かず、何度目かのスキルを使用していた。
俺の知らないスキルだ。どんな効果があるのかはわからない。
ミノタウロスが大きくふりかぶる。
あれを食らうわけにはいかない。
「ハルナ! もう持たない!」
俺の叫びに、彼女が頭を持ちあげる。
「行きます! ――フィニッシュクロウ!!」
強烈な一撃が、ミノタウロスの背中に叩きこまれた。
なるほど。『チャージ』というのは、力を溜めるスキルで、フィニッシュクロウというのが、必殺技っぽいやつだな。
「GUMOOOOOO――!!」
ミノタウロスは、ぎりぎりで倒れなかった。
HPは――一ミリほど残ってしまっている。
「ステータスオープン!」
俺は自分のステータスを開いた。取得可能スキル一覧を開いてみると――。あった!
戦士のたてつづけのレベルアップで、彼女と同じ『チャージ』が取れるようになっていた。
すぐに『チャージ』を取得。そして――。
「チャージ!」
俺のスキル使用の宣言とともに、彼女はすぐに了解したようだ。
「こっちです!」
ミノタウロスを挑発。そして回避、回避、回避。
俺はチャージ、チャージ、チャージ。
ミノタウロスのHPはみるみるうちに上がってきていた。もう四%ぐらいまで戻ってきている。
これだけの再生レートがあると、俺たち二人の通常攻撃では削りきれなかったろう。
だからこその――。
「チャージ!」
これが最後のチャージだ。
もうそろそろいいだろう。いくら彼女でも、いつまでも回避しつづけるわけにはいかない。
そして彼女の場合、一発食らえば瀕死となってしまう。
「食らええぇ――っ!」
俺は渾身の一撃を、ミノタウロスの背中に叩きこんだ。
必殺技が欲しかったが、なんにもないので、単なる五倍チャージの一撃だったが――。
ミノタウロスのHPを削りきることに成功する。
「GUMOOOOOO――!!」
ついにHPがゼロとなったミノタウロスは、地響きをあげながら、地に倒れた。
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二人の〝初夜〟まであと何日だ! 早く読ませろ!
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