#015.第六層で遭難者を助ける 「あんた一体何者なんだ!?」
「おー……、いつつー……」
どこまでも落ちてゆく思っていたシュートが、ようやく終わった。
ダメージはない。しかしケツが痛い。
俺はケツを撫でながら立ち上がった。
しかし、ううむ……。暗い。
これまで迷宮の中には灯りがあって、不自由することはなかった。
だがこの場所には灯りがほとんどない。見えるのは足下ばかり。
空気の流れとか、声の反響とかで、かなり広い場所だとわかるのだが……。なんにも見えないのは困ったな。
灯りがあるのは遠くのほうで、その灯りというのは――。
「え? あれ、魔法の炎か?」
遠くで火の壁が燃えていた。魔法使い系は上げていないので俺は使えないが、たぶん、「ファイアウォール」とか、そういう魔法だろう。
その魔法の火の光に照らされて、冒険者らしき人が三人ほど見えている。
部屋の隅に身を固めた冒険者たちは、炎の壁を張り、それでモンスターを防いでいるのだった。
火の壁を挟んで、けっこうな数のモンスターがいた。
モンスターたちは、火の壁があるので、冒険者たちを襲うことができない状況だ。一匹がじりじりと前に出るが、じゅっと火に焼かれて、また元の場所に戻る。
「おーい! あんたたち! 大丈夫か!」
俺は剣を抜いて近づきながら、冒険者たちにそう声を掛けた。
歩きながら、僧侶Lv5から戦士Lv5へと、転職しておく。最大MPは減るが、HPと近接戦闘向けのステータスがあがる。
たぶんSTRが攻撃力で、CONが防御力だ。
そしてDEXが命中率で、AGIが回避率か。INTとWISは、それぞれ攻撃魔法と回復魔法に関係するのだろう。
モンスターはカエルのような姿をしていた。ただしやたらとデカい。全長50センチぐらいはある巨大カエルだ。
炎の壁の内側に逃げこんだ冒険者たちは、俺に驚いた顔を向けている。
「え? あんた――一人で? ……こんな場所まで?」
それ、さっきも言われた。
「あんたたちは、ミランダたちの連れか?」
「ミランダたちに会ったのか!! あいつらは――!?」
「無事だ!」
俺はそう叫ぶと、袋を放った。炎の壁の上を越えて、向こう側に投げ入れる。
袋の中身は薬草詰め合わせだ。上層にいた三人のほうに僧侶がいたから、こっちにいる連中には回復魔法はないはずだ。
「薬草か! ありがたい!!」
袋の中身を確認して、相手が叫ぶ。
「じゃあ、これ片付けるから、ちょっと待っててくれ」
俺はそう言うなり、ざっしゅざっしゅと、カエルを惨殺していった。
カエルたちは冒険者のほうにロックオンしていて、俺には背中を向けてまったくの無防備。
普段なら獲物の横取り行為となるのだろうが、いまは救助活動なので問題ない。
「すげえ……、一撃……かよ」
冒険者は口をあんぐりと開けて、こちらを見ている。
ちょっといい気分。
スキルポイントで殴るようなもので、だいぶ無双できている。
いや……。真面目にやろう。
さくさくとカエルを刈ってゆく。はじめ十数匹いたカエルは、あっという間に減ってゆく。
戦士のLvが、6になって7になった。取得可能スキルが増えているかもしれないが、確かめるのは後回し。
「いや待て――全部は倒すな! 全部倒すと!」
最後の一匹に手をかけようとしたところだった。冒険者が、慌てた声で、そう叫んだ。
「え?」
ぎりぎりで、剣を止めることができた。
なぜ倒してはならないのかはわからないが、とにかく、倒さずに――。
おや?
首の前に剣を突きつけた巨大ガエルが、ぷーっと膨らんでいって――。
「やばい――爆発するぞ!」
「うおっ!」
巨大ガエルが、バーンと弾けた。爆発した。
俺は爆発に巻きこまれて、粘液と体液と、その他、いろいろなものを頭からかぶるはめになった。
肉だの骨だのといったものは、黒いもやになって消えていってしまったが……。俺がかぶった液体だけは、そのまま残る。
《Lvがあがりました。戦士Lv8になります》
またLvが上がってしまった。レベルアップ内容を確認するのは、例によって、後回しだ。
それよりも、カエルが破裂して、その液体をかぶった部位から、ひりひりと痛みを覚える。
「うおっ! なんだこりゃ!」
ステータスを出してみると、HPが1ずつ、ゆっくりと減ってゆくのがわかった。
《名前:ダイチ HP:85/87 状態:毒》
「毒か!!」
「ポイズントードの自爆は毒だ! おい――毒消し! 誰か毒消し残ってないか!?」
冒険者が仲間に叫んでいる。
「心配ない」
俺はそう言った。
仕組みがわかれば、どうということはない。
「リムーブポイズン」
皮膚のひりひりとした感覚が、すうっと消えていった。
毒を消すことに成功したらしい。
「す、すげえ――リムーブポイズンまで使えるのか!? でもさっき剣で……、ポイズントードを一撃で……、剣も回復魔法も使えるなんて……。あんた、いったい何者だよ?」
「通りすがりの冒険者さ」
そう言ってみた。
……が、ぜんぜん決まらない。
なぜなら頭からひどい臭いのする液体をかぶったままだからだ。
毒は消えたが、頭からかぶった液体はそのままだった。こっちのほうはリムープポイズンでは消えてくれないらしい。
鼻が馬鹿になりそうな臭いが立ちこめる。
近づいていって、話しかける。
そういえば、さっき、なにか気になることを言いかけていた。
「さっき全部倒すなって言ってたが……。なんでだ?」
もうファイアウォールは消えてしまっていて、顔は見えない。
声の感じから、俺よりもすこし年下ぐらいかなと思う。アラサーぐらいだな。
あー……。いま俺、25歳なんだっけ。じゃあ向こうのが年上だな。変な感じがするな。
「ああ……、そ、そうだ。そうなんだ。ここはボス部屋で……、俺たちも聞いた話で、詳しく知ってるわけじゃないんだが。こんなところまで潜るつもりはなかったんで……。シュートで落とされちまっただけで……」
「はっきりしないな。要点を頼む」
「俺らの仕入れた情報じゃ、迷宮主をポップさせる条件っていうのが、この部屋のザコを一匹残らず倒すってことで……。だけどなにも出てこねえってことは、デマだったってことだな。ちくしょう。ギズモの野郎。金返してもらうぞ」
冒険者は緊張が解けたのか、ははは、と笑った。
その笑いが止まる前に、それは起きた。
「GHOOOooo――!!」
ものすごい咆哮が広間に響き渡る。
「で――出た! ミノタウロスだ! やべえ!」
「くそっ」
俺は剣を構えた。
◇
【ハルナ視点】
シュートの罠のところで、あの人の匂いを見失ってから、別の階段ルートで第六層に下りた。
迷宮の通路を駆けながら移動してゆく。
この第六層にまでくると、灯りもなくほぼ暗闇だった。でも狼牙族は夜目を持っているので、特に困らない。
夕暮れの薄暮ぐらいに見えていて、行動に支障はなかった。
モンスターとは何度か出くわした。
すべて鎧袖一触。切り捨てて、先を急ぐ。
しばらく移動するうちに、私の自慢の鼻は、あの人の匂いらしきものを嗅ぎつけた。
この匂いが流れてくる先は……、たぶん、ボスルーム。
迷宮主が現れるという特別な場所。
この迷宮に入ってはじめて、私は緊張を覚えた。
迷宮主は、さすがに私の手にも余る。パーティを組んで戦う相手だ。信頼できる後衛を得ていれば、私は前衛の一人として迷宮主に立ち向かえるだろうけど。
しかし、一人では……。
でも、あの人の匂いがそこにあるのというのなら……。私に選択肢などあるはずがない。
私はボスルームと思わしき場所に入りこんだ。
ほっとした。
ボスはいない。
冒険者らしき男性が三人。そしてあと、もう一人の人が……こちらはすごい匂いを発していて、すごく臭い。
あの人の匂いは、たしかにこの部屋にあった。だが……、あの人本人は、いない様子。
部屋の中にいる四人に、あの人のことを訊ねようとしたとき――。
急に――。部屋の中央に、強烈な匂いが出現した。
大型のモンスターが、突然、現れた。
そしていま入ってきたばかりの扉のほうから、カチリと、鍵でも掛かったような音が――。
「GHOOOooo――!!」
出現したばかりの、そのモンスターは、咆哮をあげ、そして――。
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