#013.遭難者を見つける 「あなたLvは?」「20より先は数えちゃいないな」
あれ? 誰かいる?
通路を進んでいくと、前方にホールのような小部屋があり、そこの壁にもたれてへたりこむように座る、少数の集団と出くわした。
「だいじょうぶか?」
他の冒険者と出会ったのは、これがはじめてだ。
彼らはなにやら疲れ切っている様子だったので、まず、こちらから話しかけた。
「え? 誰?」
三人いるうちの一人、髪の短い女性が、こちらにぎょったした顔を向けている。
「あ。俺。ダイチっていうんだが。ええと……。冒険者で――」
言わずもがなのことを言ってしまった。
迷宮に潜っているのだから、冒険者以外にありえない。
「え? あんた、一人で……? ソロで……? こんな深部まで? うそでしょ?」
いま俺たちの居る場所は、迷宮の第五層。
調子よく狩りをしていたから意識していなかったが、もう「深部」と呼ばれるような所まで来ていてしまったっぽい。
モンスターからのドロップが良くなってきていたから、ついつい、先へ先へと進んでしまった。四層はマップを半分しか埋めていないが、この五層への下階段を見つけたので下りてきたわけだ。
五層で敵はまた強くなったが、ドロップも良くなったようで、狩りはわりと順調だった。
出るはずがない、と言われていた赤魔石以上のものが、わりと頻繁にドロップしている。たぶん商人に転職して取得した『アイテムドロップ率上昇』とか『幸運上昇』とかが働いているに違いない。赤以上が出ないというのも、「通常の手段では」という意味なのだろう。
「信じられない……。ソロでこんなところまで下りてくる人がいるなんて……」
女の子はそう言った。汚れて疲れた顔をしていても、美人だ。ショートカットで活発そうな感じ。服装は動きやすさを重視した皮鎧だが、あちこち肌が覗いていて、ちょっと扇情的。
本職のシーフさんあたりだろうか。
「救出隊……、じゃ、ないんだ」
女の人、女の子か? ――は、明らかに落胆したような顔になった。
「え?」
そんな深刻な事態だったとは。てっきり休憩しているだけだと……。
「部屋に入ったらモンスタールームでね。それで追いかけられて、逃げてきたんだけど……。仲間とはぐれて」
美人――美少女シーフさんは、そう言って爪を噛む。
「あたしのせいだ……。あたしが欲をかいて、もっと先に進もうなんて言ったから……」
俺はポケットの中に手を入れた。鑑定石を握りしめる。
心の中で、「鑑定」と念じる。
鑑定対象は、目の前のシーフさん。
《鑑定に成功しました。シーフLv7。名前:ミランダ》
鑑定石の仕組みは、もうわかっているので、もういちど「鑑定」と念じる。
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名前:ミランダ
種族:ヒュース ♀
年齢:18
職 :シーフLv7
HP :4/24
MP :5/ 5
STR:18
CON:16
INT:13
WIS:12
DEX:25
AGI:38
CHA:20
LUK:20
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こんどはステータスまで出てきた。スキルや転職可能職業などは見えない。俺の持つ鑑定石のLvは2だから、たぶんLv3の石を使って、三回鑑定をしなければ、そこまでは見えないのだろう。
だけどこれだけわかるのでも、だいぶ役に立つ――。
――って!
HPが4しか残ってないじゃん!
他の二人も確認する。他の二人は……。
名前:コーエル 種族:ハーフエルフ♂ 職業:僧侶Lv5 HP:1/21 MP:0/18
名前:フィア 種族:ヒュース♀ 職業:魔法使いLv6 HP:2/14 MP:0/25
うわぁ! 1と2! 死にかけてるしっ!
あわててバックパックを下ろす。
中にはぎっしりと薬草が詰めこまれている。これまで使い道のなかったものだ。
「これ! 薬草だ! よければ使って――」
「助かる!」
緊急事態だからか。遠慮や辞退の言葉なんて一度もなく、ミランダは薬草をひったくるようにして受け取った。
「ほら――フィー! コーエル! 薬草よ!」
仲間の体にそれぞれ押しあてた。
薬効を示す光が、じわっと二人の体に染みこんでゆく。
HPを確認すると、一ずつではあるが、ゆっくりと増えつつあった。
これで安心だ。
二人のために、薬草をもう二つ。
そしてミランダのためにも二つ。残りは予備として、三人に対して、それぞれ三~四個ずつぐらい。
バックパックを膨らませていた薬草の、半分ほどを分け与えた。
「これだけあれば地上に戻れるか?」
「戻れると思うけど……。あなたは?」
さっき彼女は、仲間とはぐれた、と、そう言った。
同じように救助を待つ人が、この階の近くにいるはずだ。
「俺はこの階をもうすこし探索してゆく。あんたの仲間に、もし出会ったら、残りの薬草を渡しておくよ」
「……お願い。せめて認識票だけでも」
うっわぁ。いきなりヘビーな話きたー!
彼女の口から認識票という話が出たということは、仲間はもう生きていないと思っているということだ。
「予備の武器があったらもらえないかな。剣が折れちゃってね」
「ロングソードでいいかかしら? ドロップ品でノーマルだけど」
ミランダはバックパックから剣を出してきた。おお。俺の折れてしまった青銅の剣よか、ぜんぜん上等じゃないか。
「ありがとう。代金は――」
「よしてちょうだい。こんなんじゃぜんぜんお礼に足りないわよ」
「そうか。じゃあ有り難くもらっておく」
まあノーマル品とか言ってたから、あまり高くはないのだろう。
「ねえ、あんた――!」
立ち上がって、背中を向けると、呼び止められた。
「あなた――Lvは?」
「Lv? ……5だが?」
「うそぉ!?」
あー、そりゃまあ、そうか。
思わずいまの職業の戦士Lv5を、素直に答えてしまっていた。
こちとら、転職しまくりの、スキル取りまくりの、無双をやっているわけで……。
スキルポイントで殴りつけるような真似をしているわけだから、単なるLv5とはだいぶ違うはず。
「冗談だ。ええと……」
なんと言えばいいのか。
転職可能な職業のLvを全部足した数で答えればいいかな。
「戦士Lv5」「平民Lv5」「狩人Lv5」「修行僧Lv5」「商人Lv1」「農民Lv1」「木こりLv1」「猟師Lv1」「格闘士Lv1」「僧侶Lv1」「シーフLv1」
ええと……。全部足すと、27になるか。
「20から先は数えちゃいないな」
思わず、ほんの出来心で、そう言ってみた。
俺! カッコいいこと言ったあぁぁ――っ!?
……はっ!?
ハズしていなかっただろうか?
一瞬で我に返って、そーっとミランダの顔色を伺う。
ぽーっと上気した顔が、こちらに向いていた。
――イエス!!
セーフだったぜ!!
そして気がついたっぽい、もう一人の女の子――フィアとかいったっけ? その子も、こっちを見て、ぽーっとした顔を向けていた。
こそばゆいね。
仲間を探すなら、早く行動したほうがいいだろう。
俺は背中を向けたまま、彼女たちに手を振って、ダンジョンの通路を進んでいった。
今回の話はどうだったでしょうか!
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二人の〝初夜〟まであと何日だ! 早く読ませろ!
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