#010.迷宮四層へ 「宝箱からスゴいものが出る」
「うげええええ……、寄るな寄るな! キモチわるいいぃ!」
俺は女の子のように悲鳴をあげていた。
ここまで調子よく戦ってきたわけだが、四層で、ちょっと詰まってしまった。
この層のモンスターは――アンデッドというやつだ。
スケルトンはいい。ばっちくない。修行僧の拳や掌底とも相性がいい。
だがゾンビがよくない。腐った肉は、殴りつけると、感触がキモチワルイだけでなく、汁が飛ぶのだ。
腐汁が撒き散らされる。
なるべくなら、触りたくはない。
ゾンビの動きが遅いことを幸いとして、なるべく戦わず、逃げていたのだが――。
逃げ場のない一角に追いこまれてしまった。
しかたがない。
戦うしかないか。
と、俺が覚悟を決めたとき、ふと、思い出したことがある。
向こうの世界のゲームでは、アンデッドに回復魔法をかけると、ダメージを与えることができたっけ。
生命のエネルギーは、アンデッドの負のエネルギーとは真逆の性質を持っているので、回復魔法がダメージになるのだとか。
俺は回復魔法を持っている。じつはまだ使っていないが――。ここで使ってみるとするか。
「ヒールハンド!」
呪文を唱える。
すると俺の両手が、ぼんやりと輝きだした。
この光は知ってる。薬草を使うときの光だ。
本来のこの魔法の使い方は、この回復魔法を帯びた手で、治す場所に触れるのだろう。
だがしかし、いまは――。
「ホーリーフィンガーっ!」
俺は光り輝く手で、ゾンビを殴った。
技名は――、うん、あれだ――。
なんとなく――、ノリで――。
ゾンビは一撃で、跡形もなく塵となった。
打撃だと二、三発入れないとならないところが、打撃のダメージ+聖なるダメージでは、一撃だった。
そしてなによりも大きなことが――。
やった! ばっちくない! 塵になってくれるおかげで、腐汁が飛ばない! 素晴らしい!
俺はゾンビを倒しつつ、四層を攻略していった。
――と。この層の途中で、迷宮にはいってはじめての宝箱を見つけた。
「宝箱……、か」
はじめる見る宝箱。中にはなにか高価なものが入っている可能性は高い。
俺の目的は彼女を見受けするための金稼ぎだ。
金になるかもしれないものは、ぜひとも欲しい。
だが――。
宝箱に罠がかかっているということは常識だ。
罠を見分ける手段も、解除する手段も、俺にはない。
もったいないが、ここはスルーか……。
と、諦めかけたとき。
「まてよ?」
罠を解除できそうな職業なら、シーフ系というのがあたそうだ。これまでの転職リストにはなかったから、いずれかの職業からの派生職業の可能性が高い。
「ステータスオープン」
自分の転職可能な職業を確認する。
「平民Lv5」「戦士Lv5」「商人Lv1」「農民Lv1」「木こりLv1」「猟師Lv1」「狩人Lv1」「格闘士Lv1」「修行僧Lv5」「僧侶Lv1」
……って。なんか「僧侶」とかが、いつのまにやら増えてるし。
システムメッセージを聞き逃したか。
たぶん修行僧Lv5にあがったときなんだろうな。
シーフ系と、いちばん関連性が高そうなのが、狩人だった。
素手攻撃の出来る職業でなくても、呪文は使える。
必殺「ホーリーフィンガー」は有効だ。
打撃部分のダメージがなくとも、回復魔法部分の追加ダメージだけで、ゾンビは一撃で撃破できた。
ちなみにMPとHPはレベルアップのたびに全回復している。しょっちゅうレベルアップしているから、回復の必要はないし、継続戦闘が可能だった。
薬草とポーションをたくさん持ってきていたが、まだどちらも使ったことはない。
《Lvがあがりました。狩人Lv5になります――》
さすが四層のモンスター。数体倒しただけで、Lvが目標地点まで到達した。
《――転職可能職業が解放されました》
そして、ビンゴーっ!
「ステータスオープン」
さっそくステータスを確認してみると、転職可能職業に「シーフLv1」が増えていた。
さっそくシーフに転職。そして取得可能スキルを確認して――。
『罠発見』『罠解除』『鍵開け』の三つを、全部取得した。
しかし……。シーフって、
Lvをあげて、スキルポイントを3ほど手に入れて、この三つのスキルを取得しないかぎり、宝箱に対して役立たずのままか。序盤はきつそうな職業だな。
そして戦闘の役に立とうというなら、『剣装備』だの『剣術』だのも取っておかなければならないし……。
スキルポイントが事実上無尽蔵の自分は、気軽にひょいひょい、使えそうなスキルは取得可能になりしだい、すべて取っているが……。
普通は取得可能スキル一覧を眺めつつ、Lvがあがってスキルポイントを得るまで、指をくわえてじっと待つばかりなんだろうな……。
さて……。それはともかく……。宝箱だ。
「罠発見」
スキルの使用は呪文と違って口に出す必要はないのだが……。いちおう気分で、口に出してスキルを使う。
宝箱が赤く光って見えている。危険な色合いだ。
これはきっと罠があるってことなんだろうな。
「罠解除」
かちっ、と音がして、宝箱が青くなった。
よし。たぶんこれで罠は解除された。
なんの罠かわからなかったけど。
宝箱の蓋に手を掛けて、開けようとすると……。当然のように、開かない。
やはり鍵がかかっているか。
「鍵解除」
そうつぶやいてスキルを使うと、かちゃり、と音がした。
スキルってなんだか魔法みたいだ。
手、ぜんぜん使ってないんだけど。
さて。ご開帳~っ。
「なんか出た」
「石っころ?」
魔石とも違う。装備品とも思えない。宝石でもない。紫色をした、あまり綺麗ともいえない、石っころみたいなものが出てきた。
「あー、くそ。鑑定でも使えればなぁ」
俺がそうつぶやいた途端――。
《鑑定石で「???」を鑑定しました。鑑定成功しました。このアイテムは「鑑定石Lv2」です》
「……は?」
俺はしばらく考えこんでから、ああ――と、手をぽんと打った。
鑑定石を手に入れたっぽい。
次回は、ちょっと1話だけ、嫁さんのほうの視点に振ります。




