雄二って……
第4話です。
今回は、前話につづいて紗枝ちゃんと葉月さんの下校シーンです。
お楽しみいただけたら幸いです。
「えへへ、本当は日夏先輩と一緒に帰るつもりだったんですけど、今断っちゃいました」
笹嶋さんがいたずらっぽい笑みをを受けべて言った。
駅に向かって歩きながら朗らかに、そして優しく笑う。
うまくは言えないけど、その表情からは、自分の都合で約束を反故にしたというより、
これでよかったんだという安堵にも見えた。
部活動か委員会を終えて、ここで待ち合わせでもしていたのだろうか。
「実は校舎を出たあたりから、今日はひとりで帰ろうかなって思ってたんです。」
えっと、つまり……どういうことだろう。
約束をしていたけど、その先輩の方がまだ帰れないのだろうか。
「ごめんなさい、いきなり話し出しちゃいまして」
わたしの理解が追い付いていないことを察したのだろう。
隣を歩く彼女は、わたしの顔を下から申し訳なさそうに覗き込む。
しぐさの一つ一つから、この子は守ってあげなくちゃいけない。
そんな保護欲を掻き立てられる。
「えっと、日夏先輩とわたしは生徒会役員なんです、あと神橋先輩もっ!!」
また新しい人の名前が出てきた。
って、えっ、神橋、先輩?
つまり日夏先輩というのは、さっき神橋くんを迎えに来た男の子のことだろうか。
「それじゃあ、今日は日夏くんと神橋くんが一緒に帰ることになったのね」
あのふたり、すごく仲がよさそうだから。
そういえば、初めてふたりを見たときも思ったっけ。
遠目だったけど、笑顔を向けあって歩いていたふたりのあいだには穏やかな雰囲気があって、
そんな人間関係を羨ましいと感じた。
「どうしたの?」
さっきまで隣から聞こえていた声が止まった。
笹嶋さんの方を見てみると、彼女は少し驚いた様子で。
「すごいです!! どうしてわかったんですか?」
さっき、校舎で神橋くんと日夏くんらしき男の子が一緒にいるのを見たからです。
「話の流れからそう思っただけよ、それなら3人で帰っても良かったんじゃない?」
笹嶋さんと神橋くんが生徒会役員なら、別に日夏くんとふたりにこだわる必要はないはずだし。
すこし話しただけとはいえ、彼が笹嶋さんに嫌われるようなことをするとは思えない。
「3人で帰ることも考えてたんですけど、それだと神橋先輩もわたしに気を遣っちゃうと思うんです。」
つまり、日夏くんとは気を遣わなくていいご関係ということなんだろう。
「神橋先輩は優しい方なんですけど、いつも誰かのために、自分は我慢してしまう気がするんです」
だから、今日は自分が身を引いたのだと。
昨日と今日の神橋くんを思い返してみる。
教室では、何人か友達がいるみたいだった。
クラスの中心人物ではなくて、どちらかというと話を聞く側に立っていたような気がする。
ただ、下校前にひとり校舎で廊下に立つ姿は、不思議な気持ちをわたしに抱かせた。
校舎を眺めている彼の顔には、楽しいとか嬉しいという感情だけじゃなくて、
寂しいとか悲しいとか、いろんなものが入り混じって見えて、言葉にすることができない表情。
「そう、だね」
なんとなく、彼女達が神橋くんのことを気にかける理由もわかる。
「えっと、もしかして葉月先輩、神橋先輩のこと知ってるんですか?」
「ええ、クラスメートよ。ほとんど話したことはないんだけど……」
今日話しただけでも彼がまっすぐで優しい人柄であることはわかった。
だけど、不器用なんだ。
ああ、それはなんて≪ ≫
大好きなあなたへ
お読みくださりありがとうございました。
葉月さんは頭の中でいろいろ想像して、推理するのが好きなんですね。
作中でも紗枝ちゃんの少ない言葉から次々と情報を引き出して、
自分で納得のいく答えに導いていく。
ところかわって紗枝ちゃんや善弘も雄二のことをよく観察しているようで……
あれ?
なんか雄二がいたたまれない。
次回はまた新しいシーンに移動したいと思います。
もっと葉月らしさがでるお話を書けたらいいなと考えながら、
それでは次回もお楽しみに