雄二との出会い仕切り直し?
2話目の投稿になります。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
4月11日(金)
携帯電話のアラーム音が聞こえる。
閉じた瞼の上からかすかに光を感じる。
冷たい空気に触れられたくなくて、もうしばらく布団にくるまっていたい気持ちを押し退け、身体を起こす。
布団から抜け出したくない……とも言ってられないので
着替えて朝食と、お昼のお弁当の準備をする。
今日もお父さんは仕事でいないみたいだし、自分の分だけを用意する。
お弁当は昨日のお惣菜の残り物と卵焼きを適当に詰めて完成っと。
ぺったんこなかばんを肩にかけて外に出る。
肌に張り付くような冷たい空気がわたしを包みこむ。
それでも陽射しは暖かくて、ついこの先週あたりまで冴えわたっていた空気もだんだんと温もりを帯び始めている。
もう少しで温かい陽気が睡魔を連れてやってくるだろう。
………
それから半日が過ぎた。
放課後。
今日もまた教室を夕焼けが紅く照らしている。
暖かい明かりを与えてくれる陽光が遠くの山際に落ちていくにつれて、空気がいっそう冷たくなっていく。
なにか大切なものを失っていくような喪失感にも似た寂しさと、
無事に今日を乗り切ったという安心感。
ふたつの感情が入り混じって切なさを抱かせる。
放課後の学校の雰囲気がなんとなく好きだ。
でも今日は、悩み事がひとつ。
帰りのHRで、「進路希望アンケート」を配られたのだ。
子供の頃と違って、大学受験や就職といった具体的な未来を考えてこいということだろう。
進学をするなら、どんな分野を学びたいのか。
さらにその先、何をして生きていきたいのか。
漠然としたものではなくて、手を伸ばせば届くところにある夢。
わたしは答えを求めて空を見上げてみた。
叶えられる夢ってなんだろうか。
望むべきもののすべてが、わたしにとっては手の届かない雲の上にあるように思う。
どうしてわたしはここにいるのだろう。
何をするために、今を生きているのだろう。
さてと、ひとりで考えていても憂鬱になるだけだし、そろそろ帰ろう。
教室を出て昇降口に辿り着いたわたしは、今日も足をとめる。
昨日と同じ光景がそこにはあった。
「誰かを、待ってるの?」
身体を夕焼けに染めて立つ彼の姿に、少し見惚れてしまう。
静かな校舎でひとり立ちつくす姿を見ていると、
まるで、世界にはわたしと彼しかいないと錯覚してしまいそうだ。
今日もその視線の先を目で追ってみる。
やはりなにもなかった。
あるのは昨日と同じ夕焼け空だった。
きっとなんにも考えていないのだと思う。
さっきまでのわたしと同じようにただ、ぼーっと時間を潰しているだけなのではないだろうか。
凝りもせず、今日もわたしは彼に声をかけた。
「やぁ」
彼は、きょろきょろと周りを見回してからこちらに視線を向けた。
自分が話しかけられたのかを確認していたのだろう。
他に誰もいないのだから、彼に話しかけたのでないならわたしは危ない人だ。
確か彼の名前は“神橋 雄二”くん。
クラスメートだ。
今日、名簿で確認したから間違いない。
「わたしの名前は“葉月 真琴”よろしくね」
昨日まで彼の名前を知らなかったわたしが言うのもアレだけど、
クラスメートに君は誰? と聞かれるのがなんとなくイヤだったので、先に名前を伝えた。
すると神橋くんは、軽くよろしくと返事をしてそのまま黙ってしまった。
どうしてこんなところにひとりでいるのかが気になって問いかけてみる。
昨日、彼の隣を歩いていた男の子は一緒じゃないのだろうか。
「えっと、誰かを待ってるの?」
「ん? ああ友達をね。」
「葉月さんこそ部活の帰り?」
「……ううん、ちょっと教室残ってただけというかなんというか」
ただ、誰もいない家に帰りたくないだけなのだ。
「教室でぼーっとしてた。」
どっちにしてもひとりなんだけど……
「………」
そしてまた沈黙………気まずい。
神橋くんもそれは同じみたいで、彼は伏し目ながらに少し口元をを緩めて、
「ゴメンね、俺って人付合いとか下手だから……」
………
すごく不器用だけど、とてもまじめな人だった。
「でも、話しかけてもらえて、嬉しいよ」
今、すごくはずかしいセリフを言われた気がするけど。
こんな言葉を嫌みなく口にできるのは、きっと本心からのものだからだろう。
さりとて、今日も特別話す内容があるわけではない。
ただ、ひとつ気になっていること……というか進路希望について聞いてみようと思った。
わたしの中に答えがないから、他人に問いかけてみることにしたのだ。
「そういえば、神橋くんは進路希望どうするの?」
わたしの質問に対して神橋くんは、何かを思い描くのではなく目を閉じて腕を組んだ。
自分に問いかけているのだろう。
つまり彼にもまだ答えはないということだ。
それでも懸命に返す言葉を考える彼はとっても優しい人なのだろう。
優柔不断という言葉が頭に浮かんだけれど、頭を振ってなかったことにした。
しばらくして、神橋くんの口からでた言葉は、誰かの支えになりたいというとても漠然としていて、曖昧なものだった。
「進路の希望って訳じゃないんだけど、もし将来何をしていたいかって考えたら、いろんな人の助けになりたい、かなぁ」
頬を掻きながら自分の言葉に呆れている様子だけど、その気持ちは彼にとって大切なものなのだろう。
というか困ったときに本当に頬を掻く人っているんだ………
「あはは、なにを言ってるんだろうね、俺」
言外にバカみたいだね! なんて言葉が続きそうだ。
「葉月さんこそ、進路はどうしたいの?」
彼の返事の意味を考えているうちにオウム返しをうけた。
自分の中にない答えを他人に問いかけたら同じ質問を返されたのだ。
あなたはなにものですか? と
さて、この質問をどうやって切り抜けようかなんて考えてみたけれど、
彼を相手に見栄を張ってカッコをつけても意味がない気がしてきた。
初めて話すわたし相手に、とてもまじめな答えを返してくれた。
この人になら、正直になにも考えていないと答えても、
逆にバカみたいに大きな夢を話しても、笑わずに受け止めてくれると思えた。
だからわたしは、素直に答えた。
「わからない………」
自分に何ができるのか、わたしの役割はなんなのかを自分に問いかけても、ぜんぜんわからないのだ。
「そっか、お互いにやりたいこと見つかるといいね」
「そう、だね」
見つかると、いいね。
そう素直に言えたなら、わたしも少しは救われるのだろうか……
「大好きなあなたへ」
2話目、お読みいただきありがとうございます。
本編ではまだ、葉月のことを名前で呼ぶ人物がいないのですが……
ここでは真琴と呼びましょう。
現在はまだ、パーソナルな部分は何も描けていませんが、
基本的に真琴の性格は面倒見の良いお姉さんです。
基本的に一人でいることが多い女の子ですが、コミュ力はあるほうです。
1話で、雄二には生徒会という居場所があり、葉月はそれをうらやんでいますが、
葉月にも友達と呼べる存在はいて、ただ遠慮してしまうところがあるために、
心から笑顔を向けあえっている(ように見えた)雄二と善弘を羨んでいます。
今後雄二に関係ないところでの葉月も書いていきたいと思いますので、ご期待ください!!