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わかりきった結末  作者: 早雲
第四部
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54回

「対網にいたとき、私は様々なものを見た。たくさんの、罪深さを。


 インフラ=システム……いや、Ai=systemの構築に大きく寄与したのは君たち二人だが、その種は国防省の中ですでに作られていたんだ。どうやって、テロを抑制するかを目的としてな。


 もちろん、これは世界の平和の為だ。そのための礎づくりだ。だが、その立派なお題目と裏腹に、後ろ暗いことをいくつもやっていた。


 Observation、観察さ。


 テロの予兆を見つけるために、怪しい動きをする人間を片っ端から監視するんだ。犯罪歴がある、反政府組織に加入している、偏った思想を持っている、そんな人間をリストアップしていき、彼らの行動を監視していった。


 だが、それだけだった。それだけだったんだよ。


 ”俺”たちは実際にテロが起きるのを待った。そして、テロが”起きた後”に分析するんだ。テロを起こす人間にはどんな特徴があるのか、行動に特殊なシグナルがないか。実際のテロを実験材料にして、俺たちは観察を続けた。


 お偉いさんはこう言った。他国のことだ、と。


 そうして、システムが構築されたんだ。国防省の独自の行動予測システムだ。そのあとは、どうしたと思う?


 システムを使って、今度はテロを起こし”そう”な怪しい奴らを片っ端から捕まえていったんだ。


 大した矛盾だとは思わないか?


 まだ人を殺していない人間が捕まる。人殺しをたくさん見逃すことで作られたシステムでな。


 俺が、何度テロを見過ごしたと思う?


 54回さ。


 色んな場所で色んな人間が死んだ。


 小学校、モール、病院、公園、ストリート、教会、モスク、ダイナー、駅……。いつもカメラ越しの映像を見ているんだ。親子が食事をとっている間、恋人同士がベンチに座っている間、子供が公園の遊具で遊んでいる間。俺たちは、そいつらが死ぬのをひたすら待った。


 人間が……言葉をなくすところを見たことがあるか?


 ただ口を開けて、誰かのちぎれた手首をもって、ひざに乗せて言葉にならない声をだす。大の大人の聞いていられないような声だ。動物みたいな、ただの声だ。


 駅の広場で汚い血溜まりができていた。肉片がたくさん転がっていた。沢山の人が逃げ惑っていた。臭いがひどいはずだった。悲鳴が聞こえてるはずだった。それなのに、俺には臭いがわからなかった。聞こえなかった。


 そうやって出来たもので、今度は片っ端から人が捕まるんだ。犯すかどうかわからないような罪で。


 なあ、それなら、俺たちがやってたことは何だったんだろうな。


 テロを見逃して、裁くべき人間を裁けずに、死ぬ必要のない人間がたくさん死んだ。


 俺は……俺はなんて人間なんだろうな」



 ウサミの声は熱を帯びていった。


「俺が言ったことを覚えているか、カイトウ マコト」


 どんどん彼の声は大きくなっていった。


「果たして人は最初から自由を持っていたか。そんなわけはない、自由など存在しない。人種、身体的才能、知的才能、芸術の感性。いかんともしがたい遺伝子や環境要因で決まるんだ。人は、成りたいものになどなれない。そうだ、人は最初から自由などではない」

 

 何時ぞやか、ウサミが言っていたことだった。だが、その時と同じ言葉だとは思えなかった。


「しかし、私が許せないのは人の行動を人が縛ることだ。ばかげた感性だ、すでに不自由な我々に、政府の役人がさらに不自由を強いようとする。そんなことが、許されるか。誰かの支配者ヅラを許せるものか!誰もが所詮縛られるだけの人間だ。その他人に自分の行動を監視され、予測され、予測と異なれば排除される。許せることではないだろうが!」


 私はもしかすると、彼を理解し始めてしまったのかもしれない。彼が何故矛盾を抱えているのか。彼が何を憎むのかを。


「君はどうだった?他人を縛ることに快楽を覚えたか?社会の異端者を切り捨てる仕事に誇りを持てたか!?もしも君の誇りがそこにあるのであれば、それは最も愚かなことだ」


もはや私が向けている銃口が見えていないのではないかというくらい、感情を隠せずにいた。


 彼は、自分を憎んでいた(・・・・・・・・)


 そして、それは、きっと私の罪に似ていた。


 私たちの足元には、長い長い影が落とされていた。

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