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わかりきった結末  作者: 早雲
第四部
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矛盾だらけ

 ウサミの口上を聞きながら、私は実際に口を動かしているデスクの男を見据えた。彼は私の視線に僅かに反応しながらも、しかし指示されたであろう言葉を述べる。


 ウサミの主張は、いかにも正しいものだ。私だって、同じ様な事を何度考えたか知れない。秩序のために社会を作れども、誰かの自由を奪って成り立つ社会は、いずれ崩れる。ならば、人々の自由を気付かれないように縛っている今の社会は、遠からず破滅を迎える。そして、そうあるべきだろう。


 だが、私はそんな事を口にはしない。何故ならそれは恥知らずな事だからだ。私は人の自由を縛る技術を開発して、今も罪なき人に罰を与えている。他人の自由を奪う立場にいるにも関わらず、正論を振りかざすことは許されない。


 ウサミは国防省の"対網"に長年所属していた男だ。彼が言っていた、愚かな人間に彼自身が該当するのだ。自由を奪う滑稽な政府の役人に。元から得体の知れない人間だが、なおさら理解し難い人間に思えた。


 男を見据えたまま、思ったことが口から出た。


「矛盾だらけだ、あなたの話も、行動も」

「ヒトは矛盾なく行動するかね?完全に合理的に行動するのは経済学者が考えたエコンだけだ。そういえば、君は経済学者だったな。非合理は許せないか?」


 私は大きく息を吐いた。


「この組織には、入らない」

「交渉決裂だな」


 周りを見渡した。デスクの男に、ハットの男。そして、この部屋に来るまで約十人程度の見張りがいた。重装備ではないが、各々警棒やスタンガンなどで武装している。ここから無事に出られるか気になった。


「ずいぶんと、大きな組織なんだな」


 ハットの男が首を横に振る。


「申し訳ないですが、組織に入らないのであれば、情報はあげられません」

「エイロネイア、だったか。確かソクラテスの通り名だな。大層な名前だ。無知を装って、真理を得るか?」


 ハットの男が眉をひそめた。


「カイトウさん、あなたは立場をよくわかっていないようだ……」


 すると、デスクの男がハットの男に声をかける。


「カミキ君、落ち着きたまえ」


 ハットの男は私から視線を切った。ウサミの言葉を待っているらしい。偽名か本名かは知らないが、ひとまずハットの彼の名が分かった。


 デスクの男は続けた。


「どうやら我らがカイトウ博士はこの組織の事をもっと知りたい様だ。寛大に教えてやろうではないか」

「……」

「君はこの一二年で起こっている異分子の行方不明事件を知っているな?もちろん知っているだろう。なんだったら今まさに調べている所、かな」


 私は自分のウェアラブルデバイスを無意識に触った。


「察しはつくと思うが、我々はその異分子の行方不明者から構成されている。規模は想像にお任せするが、まあ、大体その行方不明者と同じ人数と思ってもらって相違ない」


 事前にアサクラから貰った情報によるとここ数年の元異分子の行方不明数は約300人。そして……。


「行方不明の何割かは変死体で発見されている。それはあなた達が……」


 殺したのか?と言う言葉を飲み込んだ。


「私たちは同胞は殺さないさ。対網の連中が我々を探ろうと荒っぽい手段に出た結果、そうなった」


 彼の言葉を俄には信じらはないが、現状では真実であると仮定しよう。すると、事前の予想は半分正解だったわけだ。元異分子は国防省の対網に殺されている。だが、プレイヤーがもう一人いると言う部分が違った。


「元、異分子達でできた組織か。自分に埋められた検知器を取り除き、システムを認知していている君たちの組織は、政府の人間にとって予測不可能だ。それで?一体どうするつもりだ」


 この、ゴースト達の集団で。


 デスクの男が口を開いた。


「三日……三日以内だ。」

「なに?」

「出来るだけ遠くへ逃げるんだな。カイトウ マコト。君の友人の子供と暮らしているんだろう?ならば、もう関わらない事だ」


 さっきまで組織に誘っておいて随分勝手を言う。


 ウサミは言った。


「君も託された子供を戦火に晒したくはないだろう?」

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