朝日と苦虫
事務所にはその筋が見えるほどはっきりした朝日が差していた。私はそれを睨みつけるように見た。多分、苦虫を噛み潰したような顔をしていただろう。
昨日の夜からずっと事務所のソファに何をするでもなく座っていて、結局、朝まで眠ることがなかった。
まったく。私は誰もいない事務所で舌打ちをした。少女は二階にある自室にいる。
昨日の記憶が蘇る。お互い感情をあらわにして言い争った。こんなことは初めてだった。
彼女はアサクラの依頼を受けるべきだと言った。予想を裏切られ、私は困惑した。インフラ=システムの使用が間違っていると言ったのは彼女だったからだ。
彼女の意見はおよそこんな感じだった。元"異分子"が政府に処理されているかもしれないなら、事実を解明するべきだ。そしてその事実がわかった時点で公表するべきだ。そもそも国民から搾取することシステムが間違っている。それを是正しなければいけない。それこそ正しいはずだ。
実に正しい。正しいすぎる。
私が彼女に大声を上げたことは今まで一度もなかった。だが私は感情を抑えられなくなってしまった。昨日の自分の怒声が頭の中で反復された。
「君のお父さんは、システムを公表しようとして死んだ!君も同じことをするつもりか!」
再び、舌打ち。
私の馬鹿さ加減は分かっていた。彼女が正しいのだ。正しいの反対は間違いだ。私は間違った事を言っている。
窓から入る朝日がなんと明るいことだろう。
◯
いつまでもこうしていても仕方がない。これからどうするにしても、彼女とずっと話さないわけにはいかないのだ。
私は二階にあがった。彼女の私室として使っている部屋の扉を軽く叩く。
「起きているか?」
返事はなかった。もう一度扉を叩く。
「昨日は大声をだして悪かった。少し話さないか?」
それでも反応はない。
おかしい。たとえ怒っていても会話ごと拒否する子ではないはずだが。それに扉の擦りガラスの小窓を見るに灯りをつけているので、まだ寝ているとも思えない。
私はドアノブに手をかけた。鍵付きのはずだが、抵抗なく扉は空いた。
「アイ……」
そこに少女はいなかった。
私は彼女のデスクに近づいた。そこには、メモが置いてあった。




