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わかりきった結末  作者: 早雲
第四部
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馬鹿な話

 政府が"異分子"を殺しているとアサクラは言った。私は彼に疑問を投げかける。


「どうしてそう思う?」

「カイトウさんは元"異分子"のその後の動向を追っていますか?」

「いや、フォローアップは行うが、それが済んだら関与しない。インフラ=システムにも対象が"異分子"でなくなった後は使用許可が降りないしな」


 何より、なんの理由も無く他人の私情報を覗き見るのは人道に外れている。まあ、理由があろうと非人道的なことには違いないが。


 アサクラは話を続ける。


「彼らは生体情報、リアルタイムの心理マーカーの測定と位置情報を取られた後、本人も知らない間に要監視対象になります。しばらくの間は政府の機関、主に国防省ですが、の研究所で監視が続けられるのですが……」

「行方不明が続いている、か?」

「ええ。三割程度の元"異分子"は行方不明に、そのうち数人が変死体として発見されました」


 中々看過し難い事態ではあるが、依然として疑問は残る。


「それで何故、政府が殺したという結論になる?」

「誰が"異分子"であるかという情報は政府関係者でないと知り得ません。それに"異分子"の存在を最も疎ましく思っているのは政府です」


 なるほど。つまり状況証拠と動機が存在するという事だ。話としてはある程度筋が通っていると言えるかもしれない。だが、それを信じるとなれば話は別だ。


「考えすぎだろう。わざわざ"異分子"の生体情報を民間人である俺に取らせて、彼らを予測・制御可能にしているんだ。そんな手間とリスクをわざわざとっているのに、その後わざわざ殺すのは非効率じゃないか?」


 もどかしそうな表情というのを久しぶりに見た気がした。アサクラはゆっくり言葉を選んで説明する。


「このシステムの実権を握っているのは国防省です。そして国防省は一枚岩ではありません」

「……"対網"か……」

「ええ、今は名前を変えていますが、"対網"と呼ばれた組織を前進とした派閥が今でも国防省に存在しています。穏健派との折り合いは今もいいとは言えない」


 先ほど我慢したため息を私は思いっきり吐いた。


「すると、こう言いたいわけだ。国防省の穏健派は"異分子"を予測・制御させたがっているが、元"対網"の連中は殺してまわっている、と」


 アサクラは憂鬱そうに頷いた。

 だが、やはり不思議ではある。何故わざわざ殺すことがあるのだろうか?システムの運用に邪魔だから、という理由で、実行するコストが非常に高い暗殺などという手段を、いくら過激派とはいえ"対網"がそのような事をするだろうか?


「話はわかったが……まだ俄に信じ難いな」

「私もまだ確信しているわけではありません。なので、この件についてカイトウさんに調べていただくことはできませんか?」

「調べる?」

「インフラ=システムの使用許可を出しますので、今までの対象者たちに共通点がないかを……」


 頭に血が上るのを感じたが、私は務めて静かに言った。


「アサクラ。君は君の一存で俺にインフラ=システムの使用許可を出し、調査を依頼するというんだな?」

「そうです」

「汚れ仕事をしている俺なら、進んでやると思ったか?インフラ=システムの使用は厳密には違法だ。本来なら政府関係者がこんな事をしていることすら許されない。それを民間人の俺がやっている現状が既に綱渡りの状態なんだ。これ以上俺に罪を重ねさせたいか?」

「……」

「俺が独自に調査をしたということにすればトカゲの尻尾切りは容易だな?もともと切る尻尾なのだから。それを踏まえて私に依頼したいということでいいのか?」

「それは……」

「帰りたまえ」


 出来るだけ抑揚を抑えて私はアサクラに告げた。だが、彼は口惜しそうに言う。


「私では、警察省の人間ではインフラ=システムにアクセス出来ないんです!この"異分子"殺しが本当に政府の手によるものなら、私達の命だって危ない。国防省の外の人間では誰もこの事件を調べられません。カイトウさんを除いて……」


 私は同じ台詞を繰り返した。


「帰りたまえ……」


 ドアの音が響くのを聞きながら、私は天井を仰いだ。

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