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わかりきった結末  作者: 早雲
第四部
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仕事

 ある日、メッセージが届いた。

 

 私の友人の遺書だった。


 

 友人が死んだあと、私はもはや自分や自分の信じるもののために戦う事が出来なくなった。


 なるほど、これは弱さだ。これは甘えだ。そんな考えもよぎった。今の自分は果たして正しいのか?いや、そんなはずがない。


 だが、そうやって自分を叱咤して立ち上がっても、何のために立ち上がったのか、自分がなにをするべきなのか、結局わからないままだった。


 何一つ、貫くべき行動も、理念もなかった。私はただ生き抜くだけのために、日々を生きた。



 忌むべきことに、システムを完成させたのは私だった。


 心が折れてしまった私は、政府の要求のままに行動予測システムの開発を続けた。あろうことか、友人が命をかけて私に託した研究資料を使って。


 友人の娘、コウヅキ アイを守るためだ、と自分に言い聞かせた。だが不幸にも、そんな誤魔化しを自覚できないほど、私の頭は悪くなかった。


 鉛を飲むような罪悪感を常に感じるようになった。そんな状態でもシステムの完成に届いたのは、ひとえに私の神経心理学についての知識のおかげだった。もしも、私がその分野に無知だったとしたら、とっくに精神を病んでいたと思う。私は持てる知識を総動員して、自分の身体と心を誤魔化した。


 そうやって、健康な身体と心を保っている一方で、私の理念は死んでいった。驚異的に好調な心身の中には何も存在していない。


 だから、システムの完成後、辞表を出した自分に対して、何一つ驚かなかった。


 政府は最大の国家機密を知る私を管理下に置きたいと考えていたはずだが、私を持て余しているのも確かだった。何せ、数多あるとは言え、この国の醜聞を知る者だからだ。私を下手に刺激して、コウヅキ サトシの二の舞を演じさせるわけにはいかなかったのだろう。


 結局、私は政府を辞すことができたが、奇妙な条件がついた。


 民間業者として、政府の仕事を請け負うこと。


 私は逆らわずにその要求を飲んだ。ただ、生きられさえすれば良いのだ。それは、成り行きで死ぬならそれも構わない、というのと同じくらい投げやりな気持ちだった。もしかすると、そんな状態でなければ、その仕事を請け負うことはしなかったかも知れない。


 その仕事は今もまだ私が請け負っている。

 

 国民の自由を姑息に奪って、政府に流す。その最低な行為を。

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