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わかりきった結末  作者: 早雲
第三部
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なかなか丁寧

情報のリーク、という当初の目標において、僕にできることは実はもうほとんどない状態だった。なぜならすでにカールに情報を渡しているし、こうなればこれ以上カールに接触することは避けるべきだろう。


理想はカールの所属するメディアが、僕の祖国に感づかれる前に、超高精度行動予測装置の情報を公表してしまう事だった。


カールに情報を渡したのだし、とりあえずは及第点だと思うのはあまりに楽観的過ぎる。


もしも僕が拘束されれば、僕は尋問(拷問かもしれない)の末、帰らぬ人となる可能性があるからだ。


それは非常に困る。愛に会えない。それに誠にも。あんまり会いたい人が多くないが、人はすきだし、人生も好きだ。もうちょっと現世に居たいと思う。


というわけでこの場を撤退することにする事を考えたが、あまり意味はなさそうだ。


相手は3人以上。もしかしたらその中に犯罪歴ありの元軍人がいるかもしれない。


さて僕はどうするべきだろうか。


選択肢1。このまま何もしない。この選択肢はある種賢いものだ。往々にして、何もしないことで大勢の人はリスクを避けることができる。しかし何もしない、というリスクは時として行動を起こすリスクを上回ることがある。多分、僕の場合はそれだろう。


選択肢2。ここから逃げる。まあ妥当な選択なのだが、正直あまり気乗りしない。もし今現在も監視がなされているのなら、むやみやたらに逃げても無駄だ。追手が既にドクトリーヌ政府と話を付けている場合はなおさら。


選択肢3。相手にコンタクトを試みる。相手は脅しじみたメモ、という馬鹿げているとは言え、コミュニケーションをとろうとしている。ならばこちらからのコンタクトに応じる可能性がある。


僕は選択肢3を実施することにした。コンタクトをとるのであれば、まずは相手の情報が必要だ。


コンコン。


そう考えたとたん、ドアがノックされる。


「はい、どなたですか」


ノックした相手に日本語で呼びかける。


だが、帰ってきた返事はなまりがある英語だった。


「housekeeping」


清掃係がこの時間に来ることはありうることだが、用心して置いた方がよさそうだ。


「ありがとう、でも大丈夫」


僕は英語でそう返す。ドアの向こうの清掃係らしき彼女は立ち去らず、こう言った。


「ミスター、あなたにメッセージが届いてます。手渡しても?」

「ありがとう。申し訳ないけれど、ドアの隙間からこちらの部屋にメッセージを入れてもらえないかな」

「承知しました」


離れたところからドアを見ていると、名刺くらいの大きさのメッセージカードが隙間から出てきた。


「御用がありましたら、何なりと」

「ありがとう。チップは後で部屋に置いておくから、少し待っててね」


清掃係の彼女が去っていく気配を感じた。


僕はカードをひろう。一見してただの紙切れのように見えたが、一言、「Readme」と書かれていた。


そこでよく観察してみると、このカードも何層かに分かれていることが確認できた。一番上の層をはがす。するとそこには比較的単純な集積回路が現れた。


僕はICを読むデバイスを起動し、この回路に記載されている情報を読み込むと文字がディスプレイに表示された。


『今夜8時から10時の間、あなたの部屋はいかなる通信もできないようになります。我々はその時間にあなたの部屋に伺います。平和的な交渉を望みますが、あなたがホテルから逃げようとしたときはその限りではありません。悪しからず』


とりあえず僕は思った。なかなか丁寧な日本語だ。




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