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わかりきった結末  作者: 早雲
第三部
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君にも情が通っているのだろうか

一応、情報網を張られていると考えて行動してきたけれど、すでに我が国の役人が現地入りしているとは思っていなかった。軽くため息をつくが、そうしたところで事態は好転しない。


「メモを渡してくれて、ありがとう。それと、おいしいリンゴも」


僕は果物屋の店主にお礼を言った。彼は不思議そうな顔をしていたが、僕は説明せずに立ち去ることにした。


あまり愉快でないことは人と共有したくはない。


僕が生んだのはTechだった。果たしてそれには何かしらの情が伴いうるのだろうか。


リチャード・ドーキンスは文化的な継続因子をgeneになぞらえてmemeと呼んだ。確かに技術だってmemeだ。


memeは人の意思によって伝達される情報に過ぎないにもかかわらず、やがてそれは自ら意志を持っているかのような振る舞いをする。


ならばアイ、君にも情が通っているのだろうか?


ホテルに戻ったあと、僕は早速仕事に取りかかった。


『お前をみている』。こんな馬鹿げたメモを僕に渡す意味はなんだろうか?


最初に思いつくのは牽制。彼らは僕がメディアに情報をリークするのを阻止したいはずだ。しかしすでに僕はカールに情報を流してしまった。今更牽制されても何も事態は変わらない。そしてそもそもこんな方法では牽制も大して抑止にならないだろう。


次に思いつくのは説得。僕のうごきを止めることができないと判断して、彼らが僕と接触して説き伏せたがっているという可能性。これは先ほどの話よりは理解しやすい。だけれど、説得にしてはあまりに『お前をみている』というメモは敵対的すぎる。


理由は何にせよこんなめも一つで役割を果たすことはないだろう。炭疽菌が塗られているわけでもないだろうし。この次のアクションがあるはずだ。


僕はまず、メモが書いてある紙を分解した。三層になっていて、一番表面が撮影防止技術がかけられた素材で、二番目が印刷可能な素材、三番目が基材となっている。こんなメモ一つに無駄な金をかけていると思うと非常に愉快だ。僕たちが支払っていた税金は遠い異国の地で超高級な紙切れになっている。


とりあえず分解した紙を一枚づつ机に並べ、カメラで撮影していく。それぞれの層につき複数回ずつシャッターを切ったのち、写真のデータをローカルに送る。そしてさっき買ったリンゴも同様に写真を撮ってローカルに送る。さらに今いるホテルの部屋も同様に写真を撮る。


ローカルに送った画像からから指紋を抜き出す。あまり知られていないが、いくつかの波長で撮影した写真を組み合わせると人の皮脂の分布をみることができるので、指紋の照合には便利なのだ。僕の分の指紋データを除いてFPDB(FingerPrint DataBase)と照合する。FPDBは人の指の指紋のみならず、ヒトのミトコンドリアのSTR(short tandem repeat)のデータも収集されている。このデータベースは国連が存在した時の国際犯罪捜査協力体制の名残だが、その運営は民間に任されている。セキュリティが弱いのでよく僕は利用することが多い。不正に、だけれど。


データベースに乗っているのは、基本的に犯罪者の指紋だ。だから僕が抽出した指紋データのほとんどがunknownだった。それでもいくつかの推測はできる。リンゴについているのは僕の指紋と先ほどの店主の指紋だろう。人二人分の指紋が検出された。さて、カードの指紋だが、一層目は僕の指紋と店主の指紋、そしてもう一人、unknownの人間の指紋がついていた。カードの二層目にはさらに別のunkwounの人間の指紋が二人分ついている。三層目には何もなかった。


カードの一層目、つまり表面についていた指紋の持ち主をA、二層目の指紋の人間をB、Cとする。Aは店の店主にメモを渡した人間だろう。二層目の人間はAと行動を供にしている人間とみるのが良いだろう。という事はこの国にいる追手は3人以上だと考えるのが妥当だ。


そして一番気になるのは、部屋の壁から見つかった指紋情報の中にFPDBのデータと一致した人物、Dがいたことだ。先述のとおり、このデータベースは国際犯罪捜査のための指紋情報アーカイブだ。ならばここに一致した指紋はなにかしらの犯罪を犯した者とみて間違いない。この男が”対網”とともに行動しているを証明はできないけれど、状況から間違いないと考えた方がよさそうだ。


A、B、Cは名もなき政府のお役人。だけれどDだけは名前が分かる。


宇佐美正一。元、陸軍一尉。容疑は強盗殺人。


軍隊上がりの犯罪者が既に僕の部屋を荒らしていて、そいつは政府の役人とともに行動している可能性が高い、という事か。


何がともあれ最悪だ。

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