君ともあろう者が
旧市街の中心はまるでその気がないのに結果的に迷路みたいになってしまった、という風情を漂わせていた。空は明るくて青いのに、路地はずいぶん薄暗い。その明るい陰気さとでもいうべき雰囲気は、いかにもヨーロッパという感じがして、悪くない気がした。
僕はカフェに入りコーヒーを頼む。カフェのテラス席は人でにぎわっていて、野外なのにコーヒーの香りが強くした。古い友人の誠なら、なぜわざわざカフェでコーヒーを頼むのか、と言ったかもしれない。彼はコーヒーにまったくもって造詣がないし、黒い粉が溶けたお湯で満足するような野暮天だ。だから、缶コーヒーなどというひどい代物を飲める。だが、僕としてはハンドドリップをしていないコーヒー豆の抽出液をコーヒーと認めるわけにはいかない。
運ばれてきたコーヒーの湯気の向こうに背の高い男が見えた。ウォール街の投資家みたいなスーツを着て、ひげを生やしている。彼は僕に声をかけた。
「しばらくだね、サトシ」
「ひさしぶり、カール」
彼は僕が座っている席の正面に座った。いかにもヨーロピアンといった風情でしゃれたカフェのテラス席がよく似合う。
「それにしてもサトシ、ずいぶんと珍しい恰好をしているじゃないか」
彼は僕の上着を指さした。
「君にそんな趣味があったとは思わなかったよ」
「僕も君が他人の服に興味を持つような男とは思わなかったけれどね」
「ふふ、それを服と呼ぶならね」
僕は自分の着ている上着に目を落とす。
基本的に皮でできているジャケットだが、大部分がくりぬかれており、その結果聖母マリアのような絵を描いていた。
ステンドグラスの枠を革ジャンにしたような感じというのが分かりやすいだろうか。
僕は言う。
「最近の若い子の着る服が分からなくてね」
「私からしたら君も十分若いがね。変装のつもりかもしれないが、ずいぶん目立つぞ」
僕は構わないことにした。
「それにしても、よく落ち合う場所がわかったね」
カールはあきれて言った。
「君が送った指定した場所だろう。まったく」
「いや、暗号をちゃんと解いてくれたことに感謝しているのさ」
ばかばかしい、という仕草をして彼は大げさに天を仰ぐ。
「君ともあろう者が初歩的なシーザ―サイファーの変法を使うとは思わなかったよ」




