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わかりきった結末  作者: 早雲
第三部
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飛行機の中

長時間のフライトになると寝るべき時間に寝ることが出来ない。


そんなときは大抵映像を直接網膜に投影するディバイスで、できるだけ単調で情報が少ない映像を写す。そんな風にしないとどうも飛行機の中では休めない。


飛行機の中では完全に乗客の動きは捕捉されている。閉鎖系であることはその空間内の動きを精度高く把握するのに向いているみたいだ。


完全に動きが捕捉されているからこそ、僕の網膜に直接映像が投影されるし、体を動かしてもそれはぶれずに表示される。


ドクトリーヌまでの道中、僕は目にビームを撃ったり、ビールを飲んだり、フライトアテンダントと話して過ごしていた。


「どうしました」

話かけたフライトアテンダントの女性が驚いた表情をしたので僕は言った。

「いえ…。失礼ですが、英語圏の方ではないでしょう。それなのに生の声で、それも綺麗な英語だったから、少しびっくりしたんです」


このご時世だ。相手がどんな言語を喋ろうが困らない。飛行機の中で発せられる言葉は直ちにネットに飛ばされて話し相手のIDに適した言語に直されて、超解像度のスピーカーで対象に届く。つまり、例えば英語が母国語の人間に僕が日本語で話しても、相手には英語で伝わるというわけだ。物理空間と電脳空間のインタラクションの壁は年々低くなっている。


だが、空間内のデジタル化や自然言語の研究が進んでも言語特有の偏りを正規化する事は出来ていない。だから喋れるのであれば”素”で喋るのが望ましい。ニュアンスを伝えるのに違う言語同士だと食い合わせが悪い。


そんなことを考えて、翻訳をオフにして喋っていたが驚かれるとは思わなかった。


僕は彼女に尋ねる。


「そんなに珍しいことですか」

「そうですね。こちらの国から飛行機に乗る方のほとんどは日本語で話されます。時々英語で話しかけてくれる方もいらっしゃるのですが……正直に言えば、ほとんど会話になりません」


確かに我が国の言語教育において会話能力のプライオリティはどんどん下がっている。というより言語の教育自体が今やあまり必須とされていない。


おそらく、英語や中国語、ヒンディー語などの母国語を持つ人達はほとんど他の言語を話す必要がない。すでにかなりの高精度で多言語に翻訳可能な学習済みのAIが構築されているからだ。


この状況はわが国においても同じだ。なにかしらの外国語を日常会話ができるレベルで修めているのは人口の0.01%に満たない。

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