少数の過激派の暴走
悲しいかな。余裕があっての笑いではなかった。追い詰められ、切迫し、焦ったが故の破顔だった。
「それで、お返事はどうですか」
このままでは飼い殺しになる。私は考えをまとめようとした。友人がこの行動予測装置の事実を公開しようとしているはずだ。馬鹿な権力がそれを使えないようにするために。”予測されることの認識”はシステムの弱点だ。だから、情報の公開は国防省にとって致命的と言えるはず。
私がここで協力をこばめばどうなる?まず拘束されるだろう。相手が宣言しているし、私が法を犯して技術開発を行なったのは事実だ。そして、私の犯罪を捜査すると言う名目で友人をも拘束できる。当然ながら彼も犯罪者だ。なんだったら友人は叩けばいくらでも埃が出る。そして二人仲良く刑務所で単純労働に精を出すことになるか。いや、技術者として行動予測装置の開発を続けさせられる。
特に友人が言っていた大衆の行動予測。リアルタイムの生体情報と位置情報が必要ないと言っていた。確かに、ミクロな系は予測不能であっても、規模が大きくなるほど統計的なズレが少なくなるという事例は多々ある。大数の法則を例に出すまでもなく、経済・社会学では割と腑に落ちる考えだ。確かにこれが実装されることは国防省が管理社会を作ろうとしているとすれば、喉から手が出るほど欲しいだろう。
しかし分からないのが、この方法で技術を得ることができるのであれば何故、国防省は最初からそうしなかったのか。どう考えたって、軍の武器を犯罪者に渡して、暴れ回らせるよりも安全で簡単ではないか?
私はこの謎について、一つ取っ掛かりがあると思った。
「彼に行動予測装置のことを教えたのもあなた方か?」
この時、コンノさんに怪訝な表情が浮かぶのを私は見逃さなかった。
まだ、何かある。
そう直感するには雄弁すぎる態度だった。
そういえば、コンノさんは自分たちを”対網”と呼んでいた。国防省の一組織だとも。この件ではいくつもの例外があった。自然考えて、この全てを国防省が統括しているとは考えにくい。少数の過激派の暴走、という印象が拭えない。
もしかしたらそこに交渉の余地はあるかもしれない。私は意を決した。
「開発した全ての技術データ、人員を引き渡します。私とコウヅキを含めて」




