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わかりきった結末  作者: 早雲
第二部
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それはもう決まっている

「コンノさん、なにを…」


 同僚は絶句したが、私はこの展開を予期していた。とはいえ、やはり堂々とスパイだったと明かされると腑に落ちないものがある。


 私は何食わぬ顔をしているコンノさんに言う。


「いつぞやかの缶コーヒー、ご馳走さまでした」


 今考えればあの缶コーヒーには睡眠薬が入っていたのだろう。そして、私が眠りに落ちた後に行動予測装置を打ち込まれたに違いない。


 コンノさんは私の皮肉に微笑んだ。


「言ったはずですよ。優秀なのは茨の道だと」


 私は同僚に言う。


「アサクラ、君は仕事に戻れ。すこしコンノさんに話がある」

「…わかりました」

「コンノさん、どうせ取り調べと言いつつ非公式なものでしょう?記録も必要ないでしょうし、今からどうです?」


 さすがにコンノさんもすこし怪訝な顔したが、すぐに承諾する。


「いいでしょう、ではこちらの会議室へ」


 心配そうな同僚の顔をみて、私は言った。


「大丈夫だ。そうひどい事にはならない」

「本当ですか」


 同僚の顔は晴れない。


 もちろん、私自身はそんなことを信じてなかった。しかしまあ、何かにすがりたいことは、誰だってあるだろう。



「さて…取り調べと言いましたが実は違います」


 コンノさんは椅子に腰かけた。私もそれに習う。


「単刀直入に言います。あなたが作った行動予測装置の技術を我々国防省に譲渡してください。技術譲渡は”あなた方”開発者も含めてのことです」


 いきなり直球できた。それも”あなた方”か。


 一応とぼけておく。


「部署ごとの人事異動は私に裁量がない」


 コンノさんは微笑む。


「そうじゃないことはわかっているでしょう?」


 もちろん、コンノさんの要請が我々の部署の職員ではないのは、分かってる。まあ、ミタライに声をかけていたから、あながち全くの見当違いというわけでもないだろうが、それは主な目的ではないだろう。もちろん、分かってる。認めたくはないだけで。


「わかっているとは思いますが」


 コンノさんは前置きする。


「あなたには弱みがある。行動予測装置の開発を違法な手段で行った事です」


 窮地とも言える状況ではあるが、想定していた問答無用の拘束ではないようだ。そう思うと少し余裕が出た。自分でも馬鹿馬鹿しいとは思いつつ、古典的なことを聞いた。


「証拠はありますか?」


 もっとも、彼らが掴んでいるか否かは置いても、大量の証拠が友人宅の地下に眠っていることを私は知っている。


 コンノさんは私の馬鹿げた質問に嫌な顔をせず答える。


「直接的な証拠はありません。ただ、間接的なものは多々あります。少なくとも会議にかければあなたが吊し上げられるくらいの」


 私がやるべきことはいくつかある。百戦を安全に戦うなら、敵の情報は欠かせない。


 そう。彼らは敵だ。間接的な状況証拠というのであれば、彼らこそ、犯罪者をけしかけ友人を襲わせた主犯だろう。結果、警察官が殺人を犯す事態になった。もしも、この事態を誘導したというなら、間違いなく、私の、私たちの敵だ。


 とはいえ、すでに負け戦の様相を呈してはいる。だが、いくら負け戦だろうと上手く逃げるにはいずれにせよ情報がいる。それに友人は国防省と相対するつもりだ。止めるにせよ、手伝うにせよ、ここは事実を知ることが大事だろう。


 思考をまとめて口を開く。


「なぜウチの部署の人間に行動予測装置を」


 一応、あらかた予想がついている事を訊く。


「”裏の開発者”を探るためです。お察しの通り」


 コンノさんは技術者だ。多分だが、サンプル集め、という理由も含んでいそうだ。


 そして彼らは”裏の開発者”にたどり着いた。私の友人だ。


「あなたのご友人は一部の業界では有名なんです。コウヅキ サトシ。生物制御学の第一人者。論文も沢山出てますね。博士号どころか高校も出てないのに、ほとんど人智を超えた発想を理論立てて説明しています」


 心無しか、コンノさんは上機嫌なように見える。私としても、友人をお褒めいただき光栄ではあるが、状況としてはほとんど詰んでいると言って良い。


 まあここで黙秘しても仕方あるまい。ここで頑なな姿勢を見せて”強行”に出られては、それこそ試合終了だ。あくまで交渉可能なように見せるのがおそらく最善だろう。


「いつ私の友人の情報を?」

「そうですね…。最初から話しましょう。

我々は警察省技術開発部である技術を開発しているという情報をつかみました。ある技術というのは、人の行動を高精度で予測する技術のことです。

 それは我々がまさに必要としていた技術でした。警察は犯罪者にこの装置をつけて、防犯に使おうとしているらしい。

それを開発していたのがあなたのチームであるということも掴んでいたので、人を送ることになりました」

「それがあなたか」

「そうです。この歳になって新任の技術官として働く事になるとは、私もおもっていませんでしたが。

さて、あなたのチームに潜り込んだのは良いのですが、中々どうして複雑なシステムで、技術の把握は困難でした。私も一応科学者ですが、しかし正直にいってこの技術の全容理解することは出来ませんでした。

しかし、まあ役目を仰せつかった身です。どうにかこうにか時間をかけてシステムの要を搾り出すことができました。

個人のゲノム、心理学的プロファイル、生体マーカー、監視カメラの映像。これらがシステムの開発と運用に必要な要素だ、とあたりをつけます。

しかしするとおかしな事が起こります。

何かわかりますよね?」


 もちろんわかるが、答えるのも面白くない。コンノさんは続けた。


「開発に必要な要素が足りないのです。研究に用いる事ができるゲノムデータは全て政府が持っています。それにもかかわらず、政府のデータではこのシステムを開発するには足りない」


 友人が話していた、データセットの話だろう。


「となると何が起こった事になるのか。足りない要素をどこかで補った事になる。非合法に」

「そして、国防省は非合法な手段で開発した人物を探すために、私たちに装置を打ち込んだ」

「そうです。意外と大変でしたよ。それで、後は先ほどのお話通り、あなたの友人を見つけました」


 不思議なのは、なぜこの様な迂遠な方法で友人の技術を得ようとしたかだ。犯罪者をけしかけるといったが、そう簡単ではない。


「サエキの件は国防省が関わっていたんだな」

「都合が良かったのです」

「都合?」

「弱みを持っていて、警察にマークされていて、人を殺すことをためらわないという点で」

「あらかじめ釈放される事を考えていたのか」

「ええ。彼の釈放にはとんでもない政治的な労力が払われましたよ。

釈放させたのは我々ではありません。それはあなたの方が詳しいはず。しかし、釈放される事を利用する事は可能だと考えていました」

「それで、軍の武器を彼に持たせて友人を襲わせた、か。しかしそんな事があり得るか?民間人を襲わせるのに歩兵兵器の中で最強の武器を犯罪者に渡す。そこまで国防省は無法地帯だと」

「さて、そこまでは答えかねます」

「どうやって奴に友人を襲わせさせた?いやそもそもなぜそんな方法を?」

「前者については、行動予測装置に頼りました。あの技術はやはり強力です。行動を予測できれば、誘導するのも容易だ。

後者については、ご友人宅を事件現場にして、検証と称して、技術の開発痕をみつけてるためでした。民間人に対する強制力は、残念な事に、我々の組織にはありません。警察に動いてもらう必要がありました。我々としては、踏み込ませて、しかるのちに事件を巻き取るつもりでした」


 コンノさんはため息のようなものを漏らす。


「ですが、あの警官、クサマ カズキが外交官の坊ちゃんを撃ち殺したおかげで、あなたの友人に捜査の手を入れることはかないませんでした」


 だから私としたくもない交渉している、とでも言いたげだ。


 私はポツリと呟いた。


「そこまでして、国防省は国民を管理するシステムを作ろうとしている、か」


 目の前の笑顔が大きくなった。


「その通り」


 コンノさんの上機嫌に拍車がかかった。


「我々、と言っていますが、実は国防省の一部の組織です。”対綱”と呼ばれる組織です」

「対網?」

「まあ、呼び名のようなものですが」


 しかし、今まで聞いた事が驚異的なまでに友人の話と合致する。今更ながら彼の知能の高さに感心し、事態を予期しながらも防げなかった自分に落胆する。


 コンノさんはふと言った。


「私がいまことのカラクリを全部話す理由が分かりますか」


 私は笑った。それはもう決まっている。コンノさんも笑顔で言う。


「さっきの技術譲渡の話ですが、断ったらあなたを拘束するつもりです」


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