とある警察官(2)遷移
死体が二つ。
それが結果だ。
そして今はまだ過程だ。
順を追って話そう。
多分、それで、過程は終わって、結果になる。
○
俺たちは、あのゴミくずを追っていた。武器を持っているのを確認し次第、確保する手はずになっていたが武器を確認できないでいた。
「対象の男はシェアカーに乗るはずだ。」
カイトウと名乗った男はそう言った。警察内部の研究所の職員ということだが、鋭い目つきをしており、あまりその所属を連想させなかった。
俺は先輩の刑事であるクロダさんの方を向いた。
「武器の所持の確認なんて、悠長なことを言ってないでもう確保するべきじゃないですか」
「何を理由に?我々が動いている根拠は違法に取り付けている行動予測装置が表示したモニタの情報だけだ。確保してもすぐに上から手が回る。そうしたら今度は監視を付けることも禁じられる」
「もしそうだとしたら、武器の所持を理由に逮捕したって、どうせ上が邪魔をする。同じでは?」
「五十歩百歩でも細かく見れば差はあるもんだ。確証なしに突っ込むより、まだましだ」
ゴミくずがホテルから出てきたのはそれから20分後だった。男はホテルを出てすぐにシェアカーをひろった。俺たちも確保していたシェアカーに乗り込み、対象の車を尾行するように音声を入力した。
シェアカーは車道に出るなり、速度を上げた。3秒もしない内にモニタに表示される速度計が100kmを超えた値を示す。
カイトウが言った。
「通常のシェアカーの仕様では、特定の車の後をつけると、つけられている側の乗客に警告がいくようになっている。だが、警察の権限でその警告を無効にできる。これはほとんど市民には知られていない情報だろう」
「私も警察に入るまでは知りませんでした」
「同様に指定したシェアカー内の監視カメラの映像は、警察の研究技術部を経由して、俺たちの携帯端末に送られてくる。普段は気持ちが悪いシステムだと思っていたが、非常事態の時には役立つ」
一昔前までNシステムという、監視カメラに映るナンバープレートを照合して、特定の車を追う仕組みがあったらしいが、車とネットが高速でつながることによって、そのシステムを使うよりも車が発信している膨大な情報をそのまま生かすことになったらしい。そんなことを警察学校で習ったのが遥か昔に思える。
クロダさん、俺、カイトウの三人でシェアカーに乗ると車内は狭い。クロダさんはわずかに俺に目くばせをした。先ほどのことで釘を刺したつもりだろう。だが俺は確証など待たずにできるだけ早くあのクズを確保するべきだと思っていた。
俺はカイトウに言った。
「カイトウさん。先ほどの話だと武器などの所持を確認したら、対象を捕縛するとのことでしたよね。確認できない場合はどうするつもりですか。」
俺はどこかであのゴミくずを射殺する可能性を考えていたが、誰も死なないのであればそれに越したことはない。
カイトウはあの男が乗っている車をモニタで見ていたが、俺の方に顔を向けた。
「…あなた達はずっと警察の人間か?それとも民間、もしくは他の省にいたか?」
文脈に合わない質問に思えたが、俺は答えた。
「ずっと警察の所属です」
「あなたは?」
「私もそうです」
カイトウは顔を伏せ、少し考える仕草を見せた。だが、それもすぐに終わった。
「あなた達を信用して話す。いま、対象の男の行動を予測している装置、俺の体内にも埋め込まれている」
「えっ」
「というより、俺の所属しているチームの全員に埋め込まれているようだ。この装置は俺が開発したものだが、俺の知らない間に俺を含むチームの人間の行動が監視され、記録され、予測されている」
「…」
「先ほど、急に対象の男の行動予測テーブルに“殺人”と表示された。行動パターンが予想できるということは、言い換えれば、適切な状況を作ればその行動を誘導できるということでもある。つまりこの状況は俺が誘導されている可能性がある」
クロダさんは疑い深そうにカイトウを見る。俺もにわかには信じられないと思った。行動予測ならまだしも、行動を誘導するなど考えにくい。カイトウは続けた。
「先ほど発言だが、撤回する。できるだけすぐに対象を確保する」
俺はすぐに同意した。
「了解です」
「…わかりました」
クロダさんは渋い顔をしたが、特に異議は唱えなかった。ここで口論する時間はない。
カイトウは携帯端末の通話機能を作動させていた。
「今から指定するシェアカーに緊急停止命令を送れ。乗車している人間の同意が得られなかった場合でも関係なく停車させろ」
電話口の声は言った。
「武運を」




