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わかりきった結末  作者: 早雲
第二部
21/90

一線

11:40 殺人(97%)〔東京都目黒区住宅街〕


 あと2時間でモニタの予測は現実になる。


「どうしましょう、カイトウさん」


 だが、まだ今は実現していない。2時間の猶予があるということだ。私は自分の状態を再確認する。まだ、冷静だ。


「対象には位置情報の取得装置も埋め込まれている。現在の位置は正確にわかるな?」

「ええ。いまはまだ新宿区のホテルにいます。どのホテルかも特定できています」

「まだ、対象を確保はできない。このシステムを根拠に逮捕は不可能だ。まず、実働部隊を手配しろ。対象に気づかれないように近づき、目視で凶器等を持っているのを確認したら、それを理由に捕まえる」


 実働部隊はこの事件について特別に組織されている。この部門の人間はほとんど現場には出ない。だから、少数ではあるが、現場経験が多い人材を回してもらっている。対象の確保の際の武力となってもらう。殺人と表示されているタイムテーブル。対象は何かしらの凶器を持っている可能性が高い。もし、凶器を持っていない場合は、根拠なしで制圧することになるが。


 それにしても。私は考える。なぜ大きく予測がずれたのか。なぜ急に予測の表示が変わったのか。私はモニタにあった文字を思い出した。


10:50 性行為(30.2%) or 不明(60.2%) or 睡眠(9.6%) 〔東京都新宿区ホテル〕


 “不明”。そうだ。“不明”の表示はシステムが予測自体できないことを示す。予測を外す、のではく。


 先日の友人との会話が思い出された。


「このシステムは根本的な弱点があるんだ」「システムの存在の周知による予測精度の低下。つまり、システムは存在を知られると有効に働かなくなる」


 あの外交官の息子。あの男には位置情報のみと偽って、生体情報取得装置も打ち込んでいる。だから、システムの存在を知らないはずだ。


 それが急にシステムが不全を起こした。


 ということは、あの男はすでにシステムのことを知っているということか?


 誰かが、システムの存在をあの男に漏らした?なんのために?


 考えてもわからない。まずは行動せねばならない。


「現場には俺も行く。システムの情報を常時、俺の携帯端末に送ってくれ」



 私はシェアカーに乗り新宿に向かった。警察の公用車に乗ったのでは、あまりに目立つ。


 男がいるホテルの周辺にはすでに二人の警察官が待っていた。彼らが、うちの部門で手配している実働部隊だった。一人はラフなジャケットを着た中肉中背の中年男。もう一人は黒いネクタイなしのスーツを着た、目つきの鋭い男だった。二人は持っている携帯端末の画面を見ながら、ホテルのロビーの一角にあるカフェテリアの席に座っていた。あの男につけている位置情報取得装置が送ってくる情報を確認しつつ張り込みをしているのだろう。私はIDを見せつつ、声をかける。


「状況は?」


 中年の警察官の方が私を見て、答えた。


「さっきから20分ほど待っていますが、動きがありません。このホテルの入り口は2か所ですが、いずれの出口もここの前を通ります。今は待機しています」

「連絡があったと思うが、奴はこれから1.5時間後に殺人を犯す。凶器の所持やそれに準ずる殺人の確証を得たら、速やかに確保してもらいたい」


 もう一人の黒スーツの警察官はこちらをまっすぐに見て、言う。


「この後、あのクズが殺人を犯すというのは、なぜわかるんですか?」


 私と友人が作ったシステムはすでに省内に情報共有されつつある。とはいえ、まだ現場の警察官には伝わっていない。国防省が技術奪取を考えている可能性がある中で不用意に情報を漏らすことはしたくなかった。


 だが私の意図とは反対に、その黒スーツの警察官は正鵠を得た。


「取り調べで打ち込んだ装置。あれ、人の行動予測システムなんでしょう。我々現場には正式に伝わっていませんでしたが」

「なるほど。すでに噂が流れているのか」


 私は少し迷ったが、ここまで情報が伝わってしまっているのであれば、仕方がない。また、連携をとるためには、やはり情報を共有するべきだろうと判断した。


「君の言うとおりだ。あの男には犯罪防止用の行動予測システムが、打ち込まれている。今回それに基づいて、対象の行動を監視していたところ殺人の予測が出た。これから対象の男は目黒区の住宅街に移動して、事を起こすはずだ」


 黒スーツの警官は表情を変えず、言う。


「あのクズ捕まえても、また不起訴になるかもしれない…」


 私はふいにこの警官を思い出した。対象にシステムを埋め込む際に、暴力をふるった男だ。


「君はあの時、装置を対象に打ち込んだ刑事か」

「俺がクズを蹴りつけたのを見ていましたか?」


 私はその時、隣室にいた。大きな音がしたと思って、モニタを見ると、装置を打ち込んだ警官が、対象の男の髪をつかんで壁にぶつけているところだった。すぐに同室の刑事に止められて、大事にはならなかったが、この警察官が危険だと感じた。


 だが、この場でそのような話をするには時間が惜しかった。


 私は言った。


「対象が出てきたら、気づかれないように近づき、目視で凶器等を持っているのを確認したら、それを理由に捕まえる。確証を得るまでは手をだせない。あなた方には対象の無力化と確保をお願いしたい」

「対象が誰かを殺すところだったら?」

「絶対にそんなことが起きないようにする。そのために監視の目を離さないことだ」


 黒スーツの警官は、確認するように言った。


「万が一、起こったら?」


 私はこの問いに答えるのを躊躇した。目の前の警官は対象を殺したがっているのではないか。そのような憶測と、職務的な倫理が拮抗している。何より、私自身が、憎しみで対象の男が死ぬのを望んでいるのではないだろうか。


 だがどのみち、その“万が一”の場合は選択肢などない。私はためらいを捨てる。


「誰かを殺そうとしたら、対象を射殺しろ」



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