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わかりきった結末  作者: 早雲
第二部
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給料

 私は返す言葉を何とか探し当てる。


「国防省が管理社会を作ろうとしている?荒唐無稽すぎやしないか」


 友人は笑った。先ほどまでの高笑いとは打って変わって、寂しそうな笑い方だった。


「やるか、やらないかはわからない。でもそのうち、技術的には“できる”ようになる。いくつか不足はあるけどね」


 私は友人の顔を見つつ、あることに思い至った。


「俺と君が作った生体情報取得装置とヒトの行動予測システム。これを国防省に知られたら…」

「そうだよ。今のところ僕たちが作ったシステムが最も精度が良い。これが知られたら、国民管理システムは完成するだろう」


 もしかしたら、私が請け負っていた犯罪者や執行猶予者の行動予測の仕事もその計画のためだったのだろうか。だとしたら、すでに国防省は我々が作ったシステムの存在と精度を認知しているかもしれない。


 それでもいくつか疑問はある。

 

「君は自分の作ったプログラムが国民管理システムに転用可能だとわかっていたんだろう?なぜ俺にそれを渡した?」


 責めているわけではなかった。そもそも私が依頼したことなのだ。


 だが、私が国民管理システムなどという発想が全くなかったのに対し、友人は自分の技術が自国民の自由意思を奪う可能性を看破していた。


 それならなぜ友人は、国の役人である私の依頼に素直に応じプログラムを渡したのか。


 友人は三本の指を立てた。


「3つ理由がある。まず、君が依頼したから。次に、その依頼が犯罪を抑止するためだったから」


 そして友人は、ゆっくり言った。


「最後に、誰も国民管理システムが実現するなんて馬鹿な発想はしないと思ったから」


 確かに現に私はそんな発想がなかったし、できるとも思っていなかった。


「まあでも、国防省が秘密の予算で監視カメラを針山みたいに増やして、関連分野の研究者を引き抜いて、おまけに君に国防省の役人らしき人間が接触してきている、というのなら、多分それをやろうとしているんだろう」


 そして、ぼそっと友人が言った。


「こんな馬鹿なことを考えるのは僕だけだろうと思っていたんだけど。どうも頭のいい人がいるみたいだね」


 だだっ広い国立公園だが、そろそろ出口に差し掛かった。だが、まだ気になることがあった。


「本当にそんな国民を完全に管理できるようなシステムなんて作れるのか」

「そうだね、完全性という点には難があるな。まず、今僕たちの開発したシステムは埋め込み型の生体情報取得装置を使うよね。それを全国民に埋め込んでいくのは少し現実的じゃない。次に、個人と集団ではその行動の挙動が大きく変わることがある。その法則を探すのは骨が折れそうだ。ただ、この集団の行動挙動については、おそらく大量に検証すればすぐに答えは見つかりそうだ。何せ、すでに個人の行動予測は結構な精度で可能だしね」


 だけど、と続ける。


「だけど、それにそれを解決しても、このシステムは二つの根本的な弱点があるんだ」


 友人はこう続けた。


「一つ目は情報不足による予測精度の低下。データが不足していれば、当然ながら正確に予測はできない。

 そして二つ目。そのシステム自体の存在の周知による予測精度の低下。つまり、システムは存在を知られると有効に働かなくなる」


 つまり、自分の情報を隠すか、相手の存在を知ることで、システムから逃れることができるということか。


 私はこの国民管理システムが開発されているという蓋然性の高い仮説を受け入れ始めてきた。しかし、最大の疑問が残る。


「国民管理システムを作ろうとしているとして、いったい何のために」


 友人は端的に答えた。


「経済秩序のため、もといお金のためさ。国益が上がれば官僚は給料が上がるだろう?」


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