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わかりきった結末  作者: 早雲
第二部
15/90

足りない

 我々官僚の給料は、経済活動によって大幅に変動する。


 三十年くらい前からこの国の行政機関では関連するGDPの増減に、職員の給与が連動するようになった。各省庁に関連する項目のGDPが上がればその省庁の職員の懐が潤う、と言うわけだ。


 給与に連動するので、職員のモチベーションは高い。


 この制度はシンガポールが昔から採用していた。この国に導入するにあたって色々アレンジは加えられたものの、基本的には同じものだ。


 私が所属している警察機構でも例外ではない。監視カメラなどの機器や設備、警備会社などの防犯関連事業、前科者の社会復帰。それらによるGDPの上昇幅が大きければ大きいほど、給与は上がる。


 そんな職場にあって、私の同僚達も例に漏れず、やる気が大きい。


「カイトウさん」


 私がデスクで作業していると、スポーツ選手然としたアサクラという同僚が話しかけてきた。


「今、私達に関わりがある経済指標の数年分のデータを整理していたんですが」

「確かに過去の政策や開発品がどれだけ効果的か、長期的に検証することは必要だな。それで?何か面白いことでもあったか」

「それが、防犯設備関連のGDPがここ数年で3倍くらいになっているんです。僕等が特別な技術開発とか政策を打ったわけではないのにですよ」


 私たちの部門では、防犯に関する技術開発も行っている。新しい技術が導入されるようになれば、確かに経済活動は活発になるが、それは市場への技術導入時のお金の動きによるところが大きい。最近我々は一般市場に出回るような技術を開発していない。それなのに年単位で防犯関連のGDPが上がっていると言うことは、我々以外の要因が大きいと言うことになる。


「防犯関連は基本的に法律の規制が厳しい。確かに我々が手を入れていないのに、この上昇率、すこし変かもな」


 だが、我々以外に防犯関連の施策が可能な機関はほとんどない。これらの施策にかかわることができるのは、我々警察。


 あるいは。


「もしかして、国防省が何かしているんですかね」


 そういうことになるだろう。我々以外に防犯関連の規制に引っかからずにこのような動きができる機関は、国防省しかない。


「コストダウンした監視装置。これらを用いた軍事的な有用性を主張していたのは国防省だったな。だが、GDPを上昇したという事実に国防省がかかわっているとして、何が目的なんだ?」

「テロ対策で都市に防犯装置を増設しているのではないでしょうか。それでGDPが上がった…」

「なるほど。だが、ニュースでも新聞でもネットでも過激な勢力は息をひそめていて、最近はほとんど活動がない」

「ニュースなんかじゃ報道されていないことを連中がつかんでいるのではないですか」

「意外にニュースも新聞もネットも馬鹿にできん。どの諜報機関のマニュアルにも、その国の状況を知りたければ90%は新聞で知ることができると書いてある」


 もし、国防省が、このGDP上昇にかかわっていて、且つテロ対策“以外”で監視装置の導入を加速しているとしたら。


 彼らは何をするつもりだ?


 私は、この根拠の薄い仮定に不吉さを感じたが、私のさしあたっての仕事に集中することにする。



 数日後、私は例の外交官の息子に生体情報取得装置を埋め込むということで、開発者として参加した。


 マジックミラー越しにとても風采のよい若い男が見える。


 一見すると、3人の子供を拷問して殺した男にはとても思えない。


 話し声はこちらに入ってくるが、ほとんど私は訊いていなかった。


 こいつは、裁かれるべき社会悪だ。こいつには、あの被害者の子供たちに体の皮をナイフではがされても足りない。半田ごてで焼かれても、足りない。釘で手足を打ち付けても、足りない。


 そんな言葉が脳みそから生まれて、頭蓋骨の裏側にこびりついて離れない。


 刑事と男が話している。


 そして、しばらく経ったあと、刑事は銃の形をした注射器を出して、男の首筋に先端を当てた。


 どしゅっ、どしゅっと鈍い音が二発。


 私が、いや私と友人が開発した生体情報取得装置が、男に埋め込まれた。


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