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浅田家の至宝


 「それでね、今日、美香のクラスに谷川君を見に行ったの。ゆうちゃんたちと。もぉすごいかっこよくて。美香いいなあ、あんなイケメンがクラスにいて。」

 

 「ゆきったら、美香のクラスにまで見に行ったの。でもそんなカッコイイならお母さんも谷川君見てみたいわ。」


 「おいおい、ゆきは今年、受験生だろ。男の子にうつつを抜かしてる場合じゃないだろ。美香を見習って少しは真面目に勉強したらどうだ。」


「はーい。分かってるって。今だけよ。まだ4月始まったばかりだし。」


 浅田家の主役はいつだってゆき姉だ。妹の私は引き立て役に過ぎない。お母さんは可愛くスタイルのよいゆき姉しか眼中にないし、お父さんは、それを分かってて自分に似た私に気を使ってくれている。ありがたいけど、そうやって気を使われるのも辛い。


 小さい頃から、お母さんはゆき姉にどんな格好をさせるかに気を配ってきた。髪型、服装、常にクラスで一番可愛く見えるように工夫していた。ゆき姉の顔は、特別美しいわけではない。芸能人になるのは厳しい。でもクラスのほとんどの子よりは可愛らしい顔立ちをしている。童顔のお母さんに似たのだ。だから、お母さんはゆき姉を誰よりも可愛く見せるように演出するのがうまかった。例え、クラスにゆき姉より可愛い女の子がいても、お母さんの力でいつだって、クラスの男子はゆき姉に夢中になるのだ。


 女の子だって、いつもお姫様みたいなゆき姉に憧れる。色素が薄く、美しい茶色いの柔らかな髪の毛に少し、ウェーブをかけて、光沢のあるピンクのリボンを付けた姿は本当にお姫様みたいだった。幼稚園の頃から、周りにお姫様扱いされてきたゆき姉にとって、周囲に人が集まるのは当然だったし、その人達がゆき姉の言うことを何でも聞いてくれるのも当たり前のことだった。例え、先生であっても。


 辛いのは、そんなゆき姉のお下がりの服を着ることだ。ゆき姉が着れなくなって、私がそれを着て見せる度に、お母さんは眉をひそめる。(ゆきに着せた時と全然違うわ。)と思っているのは明らかだ。お母さんにとってゆき姉の服は彼女のために選びに選んで買ったものばかりだ。私だって、ゆき姉がその服を着てとった写真と自分が同じものを着て撮った写真を見比べると愕然とする。


 まるで違う服を着ているみたいなのだ。雪のように白い肌の彼女と浅黒い肌の私では似合う服も違うはずだが、なんだか自分がとんでもなく劣る存在に思える。


 私は料理上手なお母さんの作った色とりどりのサラダを食べながら、気づかれないように溜息をついた。


 「ねぇ、お母さん、今度のゴールデンウィーク、久美ちゃん来るんでしょ。家でパーティーしない?それで谷川くんも呼ぶの。美香、谷川君も誘ってよ。」


「あら、いいわねぇ。そうしましょうか。」


 私は、ぎくっとした。やだなあ。お母さんはホームパーティー好きでしょっちゅうやりたがる。自慢の料理を振る舞いたいのだ。そして、ゆき姉もクラスの人気者だから、男友達もたくさん来る。でも、私は、仲の良い女友達を2、3人しか誘えない。


 それに、私はパーティーが好きじゃない。何してたらいいか分からないし、結局、友達と隅でずっと話してるだけだ。そんな私が谷川君みたいな目立つ男子を誘えるわけがない。


 「谷川君なんて誘えないよ。」と私は言った。


「大丈夫よ。久美ちゃんのコンサート付きのパーティーにするから、クラス全員誘えば来るわよ。谷川君だけ誘うんじゃなくて、全員ね。なんだったら担任にいって、皆に声かけてもらえばいいわ。美香の担任は私のこと気に入ってるから大丈夫。」

 

 私には二人の姉がいる。中3のゆき姉は次女で久美姉は長女だ。だけど、私には久美姉が私の実の姉だなんてあまり実感がない。私が物心ついた頃には一緒に住んでいなかったというのもある。商社マンのお父さんは転勤族でしょっちゅう引っ越さなくてはならない。でも、久美姉は3歳の頃にはピアノや歌、バイオリンと類まれな音楽の才能を発揮していて、有名な先生に習うため、お母さんの姉夫婦の所に住むことになった。お母さんのお姉さんつまり、私の叔母はピアノの先生をしている。叔母の旦那さんも音楽関係の仕事で、ちょうど良かったのだ。


 18歳になった久美姉は日本の音大に在籍はしているものの、ヨーロッパと日本を行き来しながら演奏旅行していて、滅多に会うことはない。何かの有名なコンクールに優勝したことで知名度をあげ、すでに世界で活躍している。久美姉は、その才能もすごいのだが、世界で活躍している理由はそれだけではない。日本人離れした美貌の持ち主だからだ。世界からみてもかなり美しいらしく、世界の美しい顔100選にも選ばれている。


 だから、久美姉が家に戻って来たときは、皆を招いて、家でミニコンサートを開くことがあった。久美姉のことは、日本人学校に通う生徒たちの親もみんな知っている。


 私が小学校低学年位までは、よく、友達に悪気なくこう言われた。「みかちゃんだけ、普通なんだねぇ。」

分別のつく年頃になった最近はそんなこと、めったに言われないけど、年齢が上がるにつれ、二人の姉達はより美しく目立つようになり、私の平凡さは際立つばかりだ。


 それがあからさまになる久美姉まで来るホームパーティーなんて、私にとっては最悪でしかない。


 私だってずっとこんなことを考えてきたわけではなかった。もっと小さな頃は二人の姉が自慢でもあった。だけど、あれは確か、小4の頃だ。夜中にトイレに起きた時、寝室の前でお母さんとお父さんの会話をたまたま聞いてしまった。その時から、ずっと私の心は晴れない。


 「もうね、久美は私の娘じゃないみたい。」


「あの子は特別な人間だ。たまたま、僕達の間に産まれてきただけなんだな。まあ名誉なことだよ。お陰様で、僕の仕事関係にもあの子の活躍が役立つし、ありがたいけどね。どこか寂しい所もあるね。」


「もう私の子というより、姉さんの子だわ。ゆきが一番可愛いわ。そりゃ、久美の方が綺麗で才能があるかもしれないけど、普通に幸せになれるのはゆきよ。」


 「おいおい、それじゃあ美香が可愛そうだろ。僕からみても、君はゆきだけに手をかけすぎていて、美香が可哀想にみえることがある。」


 「だってあの子、なんか暗いだもん。何考えるかわからないし。」


 頭をバーンと殴られたような気分だった。そこから、先の話は耳に入ってこなかった。部屋に急いで戻って、ベッドに入ると、私の目からは後から後から涙が出てきた。悔しくて悲しかった。

お母さんは、私のことが好きじゃないんだ。優しくて料理上手で自慢のお母さんだった。私のことをそんな風に思っていたなんて。それから、しばらくはもう何も考えられなくて、ただ、機械のように生きていた。


 この出来事は、お母さんとゆき姉が楽しそうに話してると、いつも思い出してしまう。最初は、一生懸命泣くのを堪えていたが、最近では、何も感じなくなってきた。


 「あっそうだ。」ゆき姉がふいに何かを思い出したように言った。

「美香のクラスにもう一人カッコイイ子いたんだよね。えーとね、誰だっけ名札見たんだけど、そうそう、江戸君っていうんだった。」


 エド?すぐに思い出せなかった。ほとんどの子は小学校からの持ち上がりで名前も知らない子は少ししかいない。


「あの子も来てくれるといいな。谷川君より、あの子の方がタイプかも私。なんか優しい雰囲気で。谷川君が悪魔なら、江戸君は天使って感じ。」


 「どんな子?」


「身長高めで、私よりちょっと低い位かな。160はあるんじゃない。髪の毛が茶色ががってて、多分地毛なんだろうけど。なんか肌白くてハーフっぽい。目も緑がかってた。」


 そんな子、目立つはずなのに、全く記憶になかった。


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