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91の過去見に行く

 

 俺は随分と時間をかけて、肉体調整を終えると地球人の身体で、ある場所にいた。


 暑い、とにかく暑かった。立っているだけで汗が吹き出してくる。太陽の光は肉体を容赦なく、刺し続け、視界はぐらついている。

 ここは赤道直下のシンガポール。アスファルトの照り返しもかなりきつく、全身が熱で攻撃されているようだ。

 

 目の前には俺の目的地である白い巨大な建物があった。ここはシンガポールの日本人学校だ。小学校から高校までが一つの建物におさまっている。とてつもなく広い校庭には美しい緑の芝生が植えられていた。


 まだ誰も登校していない。8時前の時間帯だ。

ここの生徒たちのほとんどはスクールバスで登校する。8時半までには、

 俺は、中学1年生の教室に入った。ここでの俺は13歳なのだ。


 なぜ、東南アジアのシンガポールで中学生をやる必要があるのか。父親の仕事の都合で91はここで中学時代を過ごしたのだがなぜ過去にまで来なければならないのか、俺は知らない。


アイリンによる完璧なシナリオでは、俺がここでごく簡単なことをやるだけでアサダミカの問題は解決するだけでなく、彼女の人生が地球のレベルアップに良い影響を与えるほどに好転するらしい。俺はデニーズでバイトしているアサダミカに近づき、91から遠ざかることができるような事を言うだけでいいかと考えていたが、そうではないようだ。

 

 地球の過去を変えるのは本当は望ましくないのだが、地球の現在も変えてしまう以上、過去の調整が必要な場合もある。だから、俺も、これまでもしばしば、地球の過去に来ていた。ここに来たのも初めてではない。


 窓から外を眺めていると、スクールバスが数台、校内に入ってくるのが見えた。あの中に、91がいるはずだ。俺は目を望遠鏡モードにして、スクールバスを覗き込んだ。奴がいた。恐ろしいほど、魑魅魍魎がまとわりついている。見るもおぞましい量だ。


 91は地球人が見ると、恐ろしく顔立ちの整った美しい少年だが、5次元世界の人間からみると、黒くて醜い魑魅魍魎を身体中に張り付けていてギョッとするような姿にみえる。黒くて、気味の悪い爬虫類のような動物を体中にくっつけているような感じだ。魑魅魍魎は4次元の存在であり、3次元の人間には物理的に見えないの。


 俺は奴を見たとき思わず、目を背けたりしないように気をつけなければならない。

 

 バスが止まると、ゾロゾロと生徒たちが降りてきた。独特の緊張感がある。特に中学1年生は入学後まだ一週間もたっていない。小学校からの持ち上がりの生徒が多いが、新しいクラスにみな慣れていない。そんな中、既に91はかなり目立つ存在となっていた。顔立ちの美しさに加え、かなりのカリスマ性があった。それは、魑魅魍魎達が取り憑いていることが大きく関係している、


 こういった4次元の存在に取り憑かれると、3次元世界の人からは凄みがあるように感じられる。また91自身のネガティブエネルギーとして、人に凄いと思われたい、かっこよく見られたいという欲が強い。本来の自分ではない、かっこよい自分を人に知らしめてたいという思いがあるのだ。それを魑魅魍魎たちが利用して、人を支配する立場にいたい、人に優越する存在でいたいという思いにまで高まっている。


 辺りが騒がしくなってきた、俺のいる教室の廊下に人が集まってきている。俺は廊下を見に行く。女子生徒が10人以上集まっていた。皆、太腿が丸見えな程、短いタータンチェックのスカートを穿いている。ここの学校には制服はないが、服装で大体、学年がわかる。集まっているのは、中学3年生だ。スカートがやたら短いチェックのプリーツスカートを穿いているのが目印だ。


 その中で一際目立つ女子生徒がいた。白い半袖のブラウスに水色のチェックのスカートからすらりとのびた白い足のぞく。他の生徒達と比べると、頭1つ分、身長が高く、スタイルの良さが際立っていた。

 彼女の後頭部に焦点を合わせ、能力データを見た。

E110

L115

I105

S100


 地球人として生きやすいタイプだ。

Eとはエネルギー値を表す。地球人の平均100としている。彼女は平均より高めだ。エネルギーは他への影響力ともいえる。

Lは地球人の中での容姿のレベルだ。彼女の場合、容姿のレベルは高い。

Iは知能だ。そしてSは霊力だ。この2つは平均といえる。


彼女はルックスが良くエネルギーも高めだが、そこまでずば抜けて優れているわけでもなく、周りと調和しやすいはずだ。分かりやすい部分が人より多少優れているため、人からは悪感情を抱かれにくい。これが際立ち過ぎると、周囲と合わなくなり、生きづらくなる。


 「あっあの子」女子生徒の集団の1人が声をあげて指を指した。そちらを見ると、先程のバスから降りた生徒達十数人が教室に向かって歩いていた。その中に、白いポロシャツにデニム姿の91もいた。


 91を確認した中3の女子生徒達の集団から、「ホントだーすごいかっこいいー」と黄色い声が上がる。


 「くるよ、くるよ、どうする?声かける?」

「どうする。あっユキ、声かけてよ。同じクラスに妹いるし。」

「えー私ぃ?どうしよう。」「せっかく来たんだし」

「分かった。」

女子生徒が騒いでるのを無視して、91は教室に入ろうとしていた。ユキと呼ばれた女子生徒が慌てて91に声をかけた。


 「谷川君、おはよー。私ね、中3の浅田ゆき。このクラスに妹の美香がいるの。よろしくね。」

谷川とは地球人としての91の名前だ。この女性徒は浅田美香アサダミカの姉なのだ。


「はぁ。」91は気のない返事をする。


「谷川君、カッコイイって、中3の間でも話題なのよ。また来るね。じゃあまたね。」浅田ゆきは頬を上気させて早口でまくし立てると、後ろにいたミニスカの集団の方を向いて、目配せした。

すると、そこにいた女子生徒達は皆、「谷川くーん、バイバーイ」といって一斉に手を降って、踵を返して帰っていった。


 91はあ然としている。この様子を見ていた他のたくさんの生徒も同様だった。


 「谷川、なんかすごいな…」と1人の男子生徒が91に声をかけるた。


「何かよくわからないけど。」91はどうでもいいというように投げやりに答える

「イケメンは大変だな。」とその男子生徒が91の肩を叩いた。


その瞬間、91の周りにいた魑魅魍魎達が膨れ上がり、雄叫びをあげた。

「ウヒョー」「ヒョヒョヒョー」

これは奴らの喜びの声だ。91の放つネガティブエネルギーが膨大になり、奴らにとってはご馳走の時間となった。


 男子生徒に肩を触れられた瞬間にこの時、周りにいた人間のネガティブなエネルギーがすべて、91に吸い付いたのだ。一気に膨大なネガティブエネルギーを背負った91は恐ろしく、いらついたはずだ。「目に映るすべての人間を殺したい」と思ったかもしれない。


 思春期の地球人のネガティブエネルギーはすごい。容姿、学力、運動神経、身長、体重、家庭環境、様々なコンプレックスの種を常に持っており、ふとした瞬間にそれらが刺激され、恐ろしいまでのネガティブエネルギーを発する。


 今の場面では、91が見た目の良さから女子生徒にモテることへの嫉妬や妬みが主なエネルギーとなっている。自分の容姿が良くないコンプレックスを刺激されたのだ。また、浅田ゆきのスタイルの良さや、周囲の人間よりも良い立ち位置にいられることに対する、一緒にいた女生徒からの妬みや羨望のエネルギーがその場に残っていた。そういう残り香のようなエネルギーを感じて1つに集めて、91に渡す働きをしたのが「イケメンは大変だな」と肩を叩いた男子生徒なのだ。この時、91は相当、ストレスを感じだはずだ。

 


 91の周りをどす黒く巨大な雲が囲む。91がエネルギーを食べられている時の状態だ。そして、91自身はこの時、ほとんど自分の意思や思考は保てない。ただ何も感じない状態となる。


 もちろん、3次元の人間にはこの様子は見えないし、雄叫びも聞こえない。ただ、S(霊力)の値が高い(115以上)の人間には何かしら不気味さが感じられたかもしれない。91に「あまり近寄りたくない」と思うはずだ。


 

 

 


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